愛知県西尾市のNPO法人「ハートネット西尾」では、精神に障がいを持った人の居場所づくりを行う「めだか工房」や、働く機会を提供する「就活センターえん」などを運営しています。
コロナ禍で、それまで行っていた活動が思うようにできなくなり、屋外でできる活動を新たに取り入れるなど、試行錯誤してきました。「いろいろな苦労をして、ようやくここにたどり着いた人がたくさんいる。だから、ここを守らなければいけない」。コロナ禍でも利用者のために居場所を守り抜いてきたハートネット西尾。その取り組みに迫ります。
さまざまな背景を持つ人たちを支援
NPO法人ハートネット西尾の利用者たちの障がいは、幻覚や妄想などがあらわれる統合失調症、うつ病に代表される気分障害、アルコールや薬物などの依存症など、さまざまです。
地域活動支援センターめだか工房では、こうした障がいを持つ人たちが社会に出るきっかけや、居場所づくりを行うほか、相談業務も行っています。日曜日以外はほぼ毎日オープンしていて、これまではウォーキングなどのスポーツ、手芸や工作などの創作活動、そして日帰り旅行など毎日、様々な活動を行ってきました。
「自分たちの居場所」と語る利用者たち
利用者の多くは、スタッフが自宅や精神病院を何度も訪問し、粘り強く声をかけ、めだか工房に来るようになった人たちです。中には、何十年も自宅に引きこもっていた人や、何度も入退院を繰り返していた人もいます。利用者の一人にめだか工房の印象を聞いてみました。利用者は「アットホームで、スタッフの人も優しいです。ここが自分の居場所ですね」と語ります。
しかしコロナが世の中に蔓延すると、利用者の中には、人一倍恐怖心を抱いてしまい、再び自宅から出られなくなった人や、再入院となってしまった人もいました。
コロナ禍で活動内容も変更に
当時の状況についてめだか工房職員の福井千穂さんはこう語ります。 「クラスターが出たら、ここをお休みにしなければいけません。さらに当初は新たな偏見がうまれてしまうのではないかという懸念がありました。ですから、とにかくクラスターを出さないことを念頭において活動していました」
めだか工房は利用者にとって大事な居場所です。ここが唯一の居場所だという人も少なくありません。多くの活動ができなくなっても、この場所だけは死守しなくてはいけない。そのため、飲食をともなう料理教室や、密になる車やバスでの小旅行などは自粛せざるを得なかったのです。
利用者も、大切な居場所を守るために、手洗いやマスクの着用、机の消毒などをすすんでするようになりました。 そのおかげでクラスターも発生せず、対策を続けながら少しずつ活動の幅も広げ、最近では小旅行も再開しました。
めだか工房に来て変わったこと
この日、仲間とともに花もちづくりに参加していた鈴木春男さんは、統合失調症のためおよそ20年間精神科に入院していました。退院後も家にいることが多かったといいます。しかしそんな時、めだか工房のスタッフに声をかけてもらい、ここに通うようになったそうです。
鈴木さんに、めだか工房に通うようになってからの変化について聞いてみました。 「最初は不安がいっぱいで、家を出るのが嫌でした。でも声をかけてもらえたおかげで何とか出てこられました。今はここに来るのが楽しみです。ここに来てからは自分が明るくなったと思います。今はここの人たちとしゃべるのが楽しいです」
コロナの影響で仕事の依頼が減少
精神に障がいを持った人は、一般社会で働けずに収入面で不安を抱える人も多くいます。このためハートネット西尾では「就活センターえん」も運営しています。
利用者は企業とは雇用契約を結ばず、えんに依頼が来た仕事を行います。コロナ前は、部品の組み立てなどの内職が主な仕事でしたが、コロナで製造業がストップし、仕事の依頼が減少してしまいました。
新たな選択肢も生まれた
えんの支援員、福岡翼さんに当時の状況を聞いてみました。 「取引先の製造業が休業するなどして、依頼が少なくなってしまいました。そこで『えん』の利用者さんたちには、午前中だけ作業をしてもらい午後には帰ってもらうなどの対応を行っていました」
しかし、利用者にとって工賃は貴重な収入源。そのためスタッフが、屋外でもできる仕事やソーシャルディスタンスが保てる仕事などを探し、依頼にこぎつけました。 そのおかげで新たな可能性も見えてきたといいます。新しい仕事が増えたことで仕事の選択肢が生まれ、それぞれに合った働き方を見つけられた人もいたのです。
地域で暮らしやすい環境に
福岡さんはこの変化について、こう語ります。 「施設外の仕事を多く取り入れたため、工賃も多くなりました。さらに利用者さんも、ここで自信をつけて、一般就労を目指すなど、選択肢ができました」
ハートネット西尾では地域の人に、精神障がいや施設について理解を深めてもらうための取り組みも行っています。多くの人に理解してもらうことで、障がいを持った人が地域で暮らしやすい環境を作り、長期にわたる入院や引きこもりを少しでも減らしたいと考えているからです。
これからもスタッフの奮闘は続く
「まだここに来られない、つながっていない人もたくさんいます。一人で困っていたり、家族だけの力では足りなくなっていたりする方もいます。そういう人たちに、私たちができることがあれば、と常にアンテナを張っていきたいです」 そう語る福井さん。
精神病院の面会が思うようにできないなど、今もコロナの影響はありますが、精神に障がいを持った人たちが一人でも多く、地域で安心して暮らせるよう、これからもスタッフの奮闘は続きます。
地地域包括支援センターめだか工房・就活支援センターえん
NPO法人ハートネット西尾が運営。めだか工房では、西尾市の委託を受け、相談支援事業・地域活動支援センター事業を行っている。えんでは、「就労継続支援B型」「就労移行支援」を実施している。
場所:愛知県西尾市矢曽根町赤地62-1
「めだか工房」
電話:0563-54-6775
営業日時:月・火・木・金・土 9:00~17:00 /水 9:00~12:00
「えん」
電話:0563-54-5237
営業日時:月~金 9:00~17:00
「シリーズ・コロナ後の地域を考える」は、
キャッチの番組でも放送中!
番組名:特集「地域の今」
地域で今起きていること、取り組み、人々の姿を深掘り。「シリーズ コロナ後の地域を考える」では、この地域の人々の声から、アフターコロナを見据えたこの先の未来をどう生きるのか、そのヒントを探ります。
詳しくは、KATCH番組紹介ページ・特集「地域の今」をご覧ください。