愛知県の西三河地方は日本有数のいちじく産地。安城市や碧南市、西尾市などで生産されています。
栄養も豊富で人気が高いいちじくですが、キズや割れがあると出荷できなくなってしまうことや長期保存ができないことなどからフードロス削減が課題となっています。
SDGs17のゴールのうち、12番の「つくる責任・つかう責任」につながる、生産や出荷の現場で行われているフードロス削減に向けた取り組みを紹介します。
繊細な果物「いちじく」ロス削減が課題
安城市北山崎町でいちじくを生産している稲垣登久さん。鮮度が重要なため早朝から収穫を行い、その日のうちに出荷しています。いちじくに傷がつかないように1個1個丁寧に収穫を進める稲垣さんに、収穫の際に気をつけていることを聞いてみました。
「実をちぎるときに、茎とのつなぎ目が折れて傷がつかないように、細心の注意をはらっています」
熟し具合によって出荷先をかえる
稲垣さんが出荷しているのは、主にJAあいち中央の選果場です。JAあいち中央では、農家から買い取ったいちじくを関東や中京、北陸などの市場に向けて出荷していて、その量は年間でおよそ420トン、120万パックにもなります。
丁寧に収穫されたいちじくは、形状や割れ、傷、熟成の具合などによって選別され、出荷されていきます。しかし、輸送などの関係で消費者に届くまで時間がかかるため、ここでは熟しすぎたいちじくは出荷できません。稲垣さんは、おいしく食べられるのに遠方に輸送するには熟しすぎてしまったいちじくを、でんまぁと安城西部と安城北部に持ち込んでいます。
JAあいち中央のいちじく
熟した「いちじく」は でんまぁとで地産地消
JAあいち中央は、でんまぁとを3店舗、産直センターなどの直売所を8店舗営業し、消費期限が短くても、おいしく食べられる農作物の販路をひろげています。でんまぁと安城西部には、新鮮な野菜や果物を求めて市内外からお客さんが訪れます。いちじくを買いに来たお客さんに話を聞いてみました。
「でんまぁとのいちじくは新鮮で地元のもので安心なので。よく買いに来ます。いちじくが好きですから」
「ジャムにしたりヨーグルトと一緒に食べたりと、毎回ここに買いに来ます」
丹精こめて作ったいちじく 加工でロス削減
さらに、でんまぁとには、いちじくを加工したジャムをはじめ、バウムクーヘンやマドレーヌ、アイスなどが並んでいます。これらの商品は、悪くなった部分をカットして加工用として農家から買い取ったものや、市場に出す際に除外されてしまったものが使われています。
JAあいち中央、産直課の課長、岩戸省二さんに、加工品を多く扱う理由を聞きました。 「いちじくは、出荷途中で出せなくなってしまうことが多い果物です。農家の人たちが丹精こめて作ったものなのにもったいないという想いからはじめ、今では年間5トンほどを買い取っています。SGDsの実現には必要なので、これからも継続していきたいです」
約3割の廃棄を削減するために
一方、西尾市小島町でいちじくを生産する大河内征樹さん。あらかじめ土にまぜておく肥料「元肥え」は、化学肥料ではなく牛肥を使い、畑は作業をしやすくゆとりを持ったレイアウトで植えるなど効率良く生産できるように工夫をしています。
収穫時期を間違えてしまうと廃棄が増えてしまうため、収穫を行う大河内さんの表情は真剣そのものです。
収穫したものはJAの選果場と道の駅「にしお岡ノ山」の産直に出荷していますが、どうしても3割ほどを廃棄せざるを得なかったと言います。3年前から、以前は廃棄していたいちじくをとある場所に販売するようになり、フードロス削減につながっているそうです。
パートナーシップでフードロスを削減
大河内さんが3年前から販売するようになった場所とは、西尾市西浅井町にある「King Farm Cafe」です。バウムクーヘンやいちごなどのスイーツを目当てに、名古屋市などからも来客がある人気店です。大河内さんのいちじくは、期間限定のいちじくパフェとして販売されているのです。
King Farm Cafe店長の大竹健太郎さんは、地元農家との連携は店にもメリットがあるといいます。
「東京や名古屋などで働いていたときもあったのですが、都会のいちじくって高いけど小さくて......。地域の農家さんと連携することで、みずみずしい厚みのある果肉を使うことができ、いちじく本来のおいしさを味わってもらえるのはうれしいです」
いちじくを新たな地域の魅力につなげたい
King Farm Cafeのいちじくパフェには、1つにつき2個のいちじくがふんだんに使われています。期間限定ということで、いちじくパフェの人気は上々です。
大河内さんにそのことを伝えると、次のように教えてくれました。
「これまでだったら廃棄しなければならなかったいちじくのうち1割~2割は使ってもらえ、うれしいです。さらにいちじくが地域を盛り上げる活動の一環として役立てるのであればうれしいですね」
日本有数のいちじく産地で行われている食品ロスを減らす取り組み。食品ロスを減らすことが、持続可能な農業や私たちの未来の生活につながっていきます。(取材・撮影:土田隆浩/文:石川玲子 2022年10月取材)
ファーマーズマーケットでんまぁと安城西部
JAの農産物直売所。地元農家の産直野菜や特産品、果物、花のほか、精肉や総菜、鮮魚まで幅広く取り扱う。
場所:愛知県安城市福釜町釜ヶ渕1-1
電話:0566-72-7333
King Farm Café
自家栽培や県内で生産された新鮮な食材を使用して営業。いちご狩りやバウムクーヘンも人気が高い。いちじくパフェは期間限定で、例年9月上旬から10月末まで販売。
場所:愛知県西尾市西浅井町坂下6-1
電話:0563-65-2922
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