愛知県西尾市で今、人気急上昇中のキャンプ場がある愛知こどもの国。
開園から50年近くが経つ中、施設の老朽化や来場者の減少も顕著となり、一時は閉鎖が叫ばれるほどでしたが、近年は来園者数が増えています。そこにはコロナ禍によるキャンプ人気の後押しだけではない、ある理由がありました。
今回はスタッフに密着取材をして見えた、来場者を増やすための工夫と努力を紹介します。
近年は来場者が減少していた
1974年(昭和49年)に開園した、県営の愛知こどもの国。園内には本物のSLを使ったこども汽車や大型遊具、広場などもあり、一日中楽しめる公園としてファミリー層に人気です。開園当初は駐車場も満車になるほどの人気ぶりでした。
しかしその後、各地で、華やかなアトラクションを備えた大型遊園地や、レジャー施設が作られた影響もあり、徐々に入園者数が減少。そして、2011年ごろから、とうとう愛知県が閉鎖を検討するまでになってしまいました。
残したいという地元の強い要望があった
愛知こどもの国に閉鎖の危機が迫ったとき、それを食い止めたのは地元の人たちの強い要望でした。当時の様子について愛知こどもの国、所長の服部弘幸さんは、次のように語ります。
「地元の人の、何とか残したいという想いが強かったです。そこで、これまで愛知こどもの国で植栽を担当していた幡豆協力会という事業所を中心に、NPO法人フロンティア西尾を立ち上げ、2014年から愛知こどもの国の指定管理者になりました」
この時、子ども汽車やゴーカートなどからなる乗り物事業を愛知県から切り離し、フロンティア西尾の運営にすることが決まりました。
SNSの活用にチャレンジ
これにより県の予算削減にはつながったものの、乗り物事業が赤字になれば、今度はフロンティア西尾の存続が危ぶまれます。
多くの人に子ども汽車や乗り物を利用してもらうにはどうすればいいかと案を出し、チャレンジしたのがSNSの活用でした。こども汽車が走る様子や車窓からの風景などの動画をSNSにアップしたところ、高い評価に繋がり、中には再生回数が2万7千回を超える動画もあるといいます。
こども汽車を未来の子どもたちに残したい
動画の制作を行っているのが、こども汽車担当の疊見啓太さんです。普段は土日と祝日に運行している子ども汽車の整備を担当していますが、ITに強かったためSNS担当に就任。YouTubeやインスタグラム、ツイッターなどを活用し、こども汽車やこどもの国をPRしてきました。
「動画を公開したことで、こどもの国そのものを知らなかったという声や、愛知県内で蒸気機関車が走っている場所を知らなかったなどの声が届きました。私の目標は、この蒸気機関車を、火を入れた状態で、末永く未来の子どもたちに残していきたい。そのための存続を目指して頑張っています」と疊見さんは語ります。
SNSの活用は着実に効果が
SNSの活用は着実に効果があらわれ、2022年の5月と6月、さらに8月の乗り物事業の月別売り上げは、コロナ前を含めた5年間で最も多くなりました。
キャンプ場担当の、西岡明則さんもまた、SNSに多くの動画をアップしています。この日も火おこしの様子を撮影していました。
動画を観てキャンプ場に来たお客さんも
「昔は林間学校などで火起こしを経験する子も多かったのですが、今は知らない子も多くなりました。そこで火起こしの様子を撮ってみることにしました。最近は、動画を観てキャンプ場に来たと言ってくれるお客さんが増えてきましたね。動画を通じて、お客さまにキャンプの楽しさを伝えられているということなのでSNSに取り組んで良かったと思います。」と西岡さん。
積極的に外部団体との連携を図る
さらに近年、愛知こどもの国が積極的に取り組んでいるのが外部団体との連携です。生物多様性の保全に取り組む大学生のグループ「GAIA(ガイア)」や人間環境大学と連携し、園内で多様性の調査や保全活動などを行っているのです。
2021年からはGAIAと協力して、それまで手付かずだった渓流広場の整備を実施。その成果が2022年には早速あらわれたそうです。変化について西岡さんにうかがいました。
「葦の刈り込みをして流れを整えたら、ホタルやトンボ、カエルなどの生き物が増えました」いつかここで生き物の観察会ができたらと、夢は広がります。
また今年は、こどもの国と近隣市町村、地域の団体が協力して行うイベント「みかわっ国」も3年ぶりに開催され、子どもたちの笑顔があふれました。近隣のホテルと提携し、温泉の優待券をキャンプ場利用者に配布したり、名鉄や西尾市、蒲郡市と連携してデジタルスタンプラリーを行ったりもしてきました。スタッフだけでは実現できなかった取り組みが外部団体と連携することで可能になり、愛知こどもの国の魅力アップにつながっているのです。
自然が多い故の課題も
その一方で新たな課題もあります。
愛知こどもの国は、広大な敷地のおよそ7割が森林です。雄大な自然の中でキャンプができる、と利用者に好評な一方、「自然が多いゆえに枯れてしまった木もたくさんあります。これを枯損木といいます。そのままにはしておけないため、処分しなければならないのですが、処理費が莫大になってしまいます」と所長の服部さんは話します。
開園50周年を前にスタッフの奮闘は続く
そこで西岡さんが考えたのが、枯損木をキャンプ場の薪として1束400円で販売することでした。薪割りは力のいる大変な作業ですが、西岡さんは資源の有効活用やSDGsにもつながると、頑張っています。
他にも、遊具や水道管の老朽化、電気料金の急激な高騰など、クリアしなければいけない問題は山積みです。それでもスタッフのアイディアや外部との連携などを元に、工夫と努力で多くの来場者を獲得しています。
2年後に開園50周年を迎える愛知こどもの国。より多くの子どもたちの笑顔が見られるよう、スタッフの奮闘はこれからも続きます。(取材・撮影:映像舎/文:石川玲子/2022年9月取材)
愛知こどもの国
100万平方メートルの広大な児童総合遊園施設。愛知県政100年を記念してつくられた。 本物のSLを使ったこども汽車や大型遊具、広場などもあるため一日中楽しめる公園としてファミリー層に人気。2024年に開園50周年を迎える。
場所:愛知県西尾市東幡豆町南越田3番地
電話:0563-62-4151
時間:9:00~17:00(休業日は公式ホームページをご覧ください)
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