2022年の夏休み、安城市城南町の公民館では「城南寺子屋」が開かれていました。企画したのは大学生の田中泉佳(みずか)さん。自分が生まれ育った町で、子どもたちに何かをしたいとボランティアで寺子屋を開校しました。
核家族化、少子高齢化に加え、新型コロナの影響で希薄になった人の繋がり。その中でも生まれ育った町への恩返しをしたいという若者たちの思いと、町内会の取り組みを通して、まちづくりのヒントを探ります。
自ら企画した夏休みの「寺子屋」
城南寺子屋は初めて開かれました。夏休み中に4回開催され、子どもたちが、宿題やドリルに取り組みます。田中さんが自ら子どもたちにプリントを作ったり、子どもたちに勉強を教えたりしていました。
田中さんは普段、塾講師のアルバイトをしています。自分が生まれ育った町で、子どもたちに何かをしたいという思いから、ボランティアで寺子屋を開校することにしました。
子どもたち大きくなり、また次の世代を見る
寺子屋の時期や内容は田中さんが自分で考え、町内会長たちにプレゼンしたそうです。町内会長の神谷英幸さんは、田中さんの企画を聞いたときの気持ちを次のように話します。
「田中さんたちを小さな時から知っていますので、その子たちが大きくなって。自分から、こういう事をやると言ってくれたのがうれしかったです。城南町自体が新しい町なので、子どもがようやく大人になって、その大人になった子たちが子どもたちを見てくれる、そういう新しいサイクルがようやくできる時期だと思います。これからもずっとこのように繋がっていけばいいなと思います」
子どもたち主体のまちづくりへ
城南町内会は約35年前につくられました。安城市の城南町と、大山町、安城町の一部により構成されていて、697世帯、約1,600人が住んでいます。なかでも高齢者が約25%を占めています。
10年ほど前、当時町内会長を務めていた藤野千秋さんは、町内会の少子高齢化に危機感を感じ、子どもたちを積極的に町内会行事に参加させるようにしました。大人が主体だった町内会のまつりの運営を子どもたち主体に変えたり、町内会の新聞を作ったりする他、子どもたち自身が高齢者との交流会の内容を考えるなど、子どもたちが自主的に取り組めるようにしました。
藤野さんは、「町内に高齢者が多かったため、将来の町内会が衰退していくことを心配しました。そこで、子どもたちを町の活動に巻き込めないかと考え、町内会の祭りなどを、子どもたちが中心となって考えられるようにしました。子どもが中心になれない町は、やはり衰退していくのではないかな、という気がしています」と話します。
町内会への抵抗は無い
今回寺子屋を開校した田中さんも、子どものころ、祭りに参加していました。幼稚園か保育園の頃から田中さんを知ってるという町内会の役員たち。話を聞いていると、彼女が小さかった頃のエピソードも飛び出し、笑いを誘いました。
このような光景をどう思うか、田中さんに聞いてみました。「小さい頃から知っている人だから、こうして一緒に話すのも全然抵抗がありません。居心地のいい町だと私は思っています」
子どもたちの思い出に残る祭りにしたい
生まれ育った町に恩返しをしたいと動いているのは田中さんだけではありません。23歳の後藤啓介さんもそんな若者の一人です。後藤さんはこの日、10月に行われる城南の祭りで、子どもたちがひく山車が通るルートについて町内会と相談に来ていました。後藤さんは子どもたちの思い出に残ることをしたいと考え、山車を借りてきて祭りでひくことを企画しました。
後藤さんに、祭りに対する思いを聞いてみました。「子どもの頃、ここでの小さなお祭りが楽しかったとのが思い出です。だから今度は、子どもたちに楽しんでもらえるようなイベントを私から提案できればと思いました」
「またお祭りに来てね」と見送る
寺子屋は全4回。最終日は勉強後に、みんなで交流できるオリエンテーションを企画。町内会の人たちと相談した結果、防災クッキングとかき氷、お菓子釣りに決まりました。「防災クッキングの待ち時間にかき氷を作れば、低学年の子も退屈しないし、夏らしさを感じられそうだと考えたからです」
寺子屋最終日に参加していた子たちに感想を聞いてみました。「色んなことが経験できて楽しかった」「これからも参加したい」「みんなに会えたり、にこにこ顔が見られたりしてよかった」 帰っていく子どもたちを、田中さんは「またお祭りに来てね」と見送っていました。
子どもたち主体のまちづくりが実を結ぶ
寺子屋を無事に終えた田中さんに話を聞きました。「今はコロナの影響でお出かけなども難しいですから。午前中の3時間程度という短い時間でしたが、いい思い出になってくれればと思います。町内会は学校とは違う空間だけど、せっかくなら居場所は多い方が良い気がするから、楽しいと思える場所が一つでも増えたら。子どもたちが大きくなったら、また町内に戻ってきてくれたらいいですね」
町内会が地道に取り組んできた、子どもたち主体のまちづくり。それが今になり実を結び、地域への還元に繋がっていく。今後のまちづくりのヒントになりそうです。(取材・撮影:小林奈々恵/文:石川玲子/2022年8月取材)
安城市 城南町公民館
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