毎年8月に「米津の川まつり」が開かれることで知られる愛知県西尾市米津町。安城市と碧南市を繋ぐ交通の要衝にもなっているこの地域では、この夏、37年前に廃止となった盆踊りが復活しました。復活させたのは地元で活動する「やるじゃん!米津」の会です。
新型コロナにより全国各地で住民同士の繋がりが途切れつつあるなか、盆踊り復活を通じて住民の繋がりを深め、地域の輪を広げようと奮闘する「やるじゃん!米津」の会の姿を取材しました。
盆踊り復活を掲げた「やるじゃん!米津」の会
「やるじゃん!米津」の会は、西尾市米津町の30~40代が中心となり2021年7月に結成した団体です。もともと個々にマルシェなどを開いていたメンバーたちが、せっかくなら一緒に米津を盛り上げていこうとスタートしました。
そんな「やるじゃん!米津」の会が結成時に目標に掲げたのが、30年以上前になくなった地元の盆踊りの復活です。なぜ復活させようと思ったのか、深津雄司会長に伺うと、「米津といえば川まつりのイメージがありますが、僕が子どもの頃には盆踊りもあって、それがとてもいい思い出でした。そのため、多世代が交流する良いきっかけになると思い、盆踊り復活を掲げました」と話します。
米津の川まつり
地元に多世代が交流できる場をつくろうとはじまった盆踊り復活への動き。深津会長だけでなく、他のメンバーたちもそれぞれが地元への想いを持っています。
米津康隆副会長は「元から友達同士というわけではありませんが、いまは『米津を盛り上げたい』という最終目標に向かって共に頑張っています。その盛り上げるための手法が盆踊りの復活です」と話してくれました。
なぜ盆踊りがなくなってしまったのか?
そもそも、なぜ米津町では盆踊りがなくなってしまったのか? 当時を知る、米津ふれあいセンターの板倉敏則副館長に伺うと、「昭和50年頃までは、私も所属していた地元の青年団が主催して盆踊りを開催していました。しかし、趣味の多様化などにより青年団の人数も減り、開催するための人手も足りなくなってきてしまったため、昭和60年に盆踊りが廃止となりました」と、教えてくれました。
人手不足により廃止となった米津の盆踊り。以後、米津町では盆踊りは開催されていませんでした。
途絶えてしまった盆踊りをはじめ、地域の人たちが関わりあう場が減少している状況に「やるじゃん!米津」の会の深津会長は危機感を感じています。
「地域の繋がりが薄くなってきたなと感じています。私たちの世代でいうと、お父さん同士やお母さん同士の繋がりといった横の繋がりも、そこまで強いものはありませんでした。さらに、若者から年配の方までが繋がる機会も失われていると感じます」と、深津さん。
だからこそ「やるじゃん!米津」の会では、盆踊り復活に向け、まずSNSで活動を発信し、仲間を募ることから始めました。また、盆踊り開催の資金調達として2021年12月にはマルシェを開催。足りない分はクラウドファンディングを活用し、80万円以上の支援が集まりました。
「たくさんの応援メッセージもありました。地域の人たちが応援してくれていると実感できました」と、深津会長。地元で米津羊羹本舗を営む米津眞一さんも「地元で商売している自分たちでも、行動に移すのは難しいです。そんな中で、やるじゃんのメンバーは頑張っているなと応援しています」と、結成から1年で地域の関心も高まってきました。
子どもたちに盆踊りを伝えたい
2022年7月下旬。資金も集まり、メンバーたちは盆踊り開催に向け動き出しました。
盆踊りを踊ったことがない子どもたちも多くいるため、この日は、メンバーたちがまずは自分たちで振付の確認です。一体何をしているのか?と、大人が盆踊りの練習をしている様子を見に来た子どもたちに話を聞くと、みんな盆踊りを踊ったことがない様子。それでも盆踊りがあるなら行きたいと、興味を示していました。
練習に励む「やるじゃん!米津」の会のメンバー、米津智美さんと岩﨑依子さんは、盆踊りを通じて子どもたちに伝えたいことがあるといいます。「私たちは盆踊りが好きで、まずは子どもに『盆踊りいいな』と思ってもらいたいですね。そして大人になったときに、次の子どもに伝えてほしいと思います」と話す、米津智美さん。
さらに、深津会長は盆踊り復活の過程で、あらためて気づかされたことがあったと話します。「最初は、やろうって言い出したのはいいけど、あまり深くは考えていませんでした。でも地域の人たちに応援やアドバイスをもらい、形になってきました。あらためて人の繋がりが大切ですね」
盆踊りが繋がりを深め、地域の輪を広げる
2022年8月13日、迎えた盆踊り当日。コロナ禍ということもあり、久しぶりの米津町でのイベントに会場には多くの人たちが訪れました。夕方になると、いよいよ盆踊りがはじまります。
はじめは様子を見ていた人たちも楽しそうに踊る人たちの姿につられ次第に輪の中に入っていきます。「楽しい!」「30年以上ぶりの米津の盆踊り最高ですね!」「地域がひとつになる、こんな素晴らしいことないと思います」など、参加者からも嬉しい声が聞こえます。盆踊りが地域をひとつにする。そこには長引くコロナ禍で私たちが忘れかけていた光景が広がっていました。
盆踊りの開催を終えた深津会長は、「こんなに感動すると思わなかった。夢のようですね。デジタル時代にはない、人と人との繋がりが見えたような気がします。今後はこれを続けていけるかが課題のため、また来年に向けて動き出します」と、これからを見据えていました。
37年の時を経て復活した米津の盆踊り。そこにあったのは地元を盛り上げたいという想いと、住民が繋がることの大切さ。「やるじゃん!米津」の会は、盆踊りのように地域の輪が広がることを願って、また来年の開催に向け動き出しています。(取材・撮影:上西将寛/文:石川玲子 2022年8月取材)
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番組名:特集「地域の今」
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