粘土瓦の全国シェア日本一を誇る「三州瓦」は、愛知県高浜市や碧南市などで生産されています。三州瓦業界では以前から、出荷できない規格外品を産業廃棄物とするのではなく、再利用して活用する取り組みが進められています。SDGs17のゴールのうち12番目の「つくる責任 つかう責任」につながる、この地域の瓦業界の取り組みをお伝えします。
持続可能を目指す「三州瓦」とは
愛知県の高浜市や碧南市など、西三河地域で生産される「三州瓦(さんしゅうがわら)」。兵庫県の「淡路瓦」や、島根県の「石州瓦」とともに、瓦の三大産地の一つに数えられ、粘土瓦の全国シェアでは、およそ70%と日本一の生産量を誇ります。
三州瓦の製造過程で発生する規格外品は、過去には産業廃棄物として埋め立てられていましたが、現在では瓦にリサイクルされたり、ガーデニングに使われたりと、様々な形で活用されています。
再利用は環境に良く経費削減にもつながる
愛知県碧南市で三州瓦を製造する栄四郎瓦(えいしろうがわら)株式会社は、創業1801年。江戸時代から続く国内最古の瓦メーカーです。矢作川河口付近や安城市など県内で採掘される良質な粘土を原料に、屋根瓦や敷瓦を年間4000万枚以上生産。180人ほどの従業員を抱える老舗メーカーです。
栄四郎瓦では、資源リサイクルやエネルギー消費の削減などを行い、持続可能な瓦業界を目指して取り組みを行っています。代表取締役社長、樅山朋久さんは、廃材の利用についてこう語ります。「環境にも良く経費の削減にもつながるため、再利用は積極的に取り組むべきことだと考えております」
着目したのは1軒あたり約400kgの不要な瓦
栄四郎瓦が取り組んだことの一つが「プレカット」です。例えば家を建てる際、屋根の端の部分では形状に合わせて仕上げるため、瓦をカットする必要があります。
一般的な住宅の建築のためにカットされた不要な瓦は、1軒あたり約400kg。以前は、全て産業廃棄物として埋め立てられ、資源を捨ててしまっている状態でした。そこで、栄四郎瓦では廃棄瓦の削減などのため、工場で事前に加工するプレカットを2005年から導入しています。
プレカットが変えた 廃棄率と現場の環境問題
栄四郎瓦のプレカット工場を工場長の野田和博さんに案内してもらいました。「カット前の製品を治具にセットして、中にある機械でカットを行います」 以前は、まるごと捨てられていた規格外品もキズのついた部分をカットすることで、反対の部分は使うことができるようになります。
プレカットを導入したことにより、栄四郎瓦では、規格外の瓦を50%ほど削減することができました。また、プレカットを導入したことで、屋根の上での危険な作業が無くなったほか、現場での粉じんや騒音などの環境問題も解消されたといい、この取り組みは、業界全体に広がっているそうです。
廃棄瓦は「シャモット」にして残らず活用
では、製造工程で発生した製品にできなかった不良品の瓦は、このあとどうなるのでしょうか?工場長の野田さんに聞いてみました。「住宅メーカーに壁材の原料として出荷しているほか、愛知県陶器瓦工業組合へ、シャモットの原料として搬入しています」
シャモットとは、瓦を細かく砕いて粒状や粉状にしたもので、瓦の原料として再利用されるほか、舗装材などにも使われています。瓦を幅広く再利用するシャモットに注目が集まっています。
粘土も資源 限りある資源を有効活用
高浜市にある愛知県陶器瓦工業組合。瓦製造会社から運ばれた規格外瓦を使用して、様々な大きさのシャモットを製造・販売しています。中でも主流となっているのが、0.5mm以下のシャモット。これは粘土工場に送られ、瓦の原料となる粘土と混ぜて、新しい瓦に生まれ変わります。
愛知県陶器瓦工業組合の野村道生さんによると、年間およそ5万トンの規格外瓦が持ち込まれ、そのうち約80%は、もう1度粘土に戻して循環できているそうです。持続可能な仕組みの構築にはすでに昭和60年の建設当時に、「限りある資源を無駄にしたくない」という組合員たちの強い思いがあったと野村さんは教えてくれました。
「シャモット」は幅広い用途で活躍
シャモットは、瓦に再利用される以外にも水はけのよさや耐久性の高さなどの特徴を活かして、歩道の舗装や植樹帯、グラウンドやテニスコートに乗馬クラブと、幅広く使用されています。
「シャモットの特長の一つとして、暑さ対策があります。通常のアスファルトに比べ15℃ぐらい温度を下げる効果がありますので、歩道などに使ってもらえれば、小さなお子さんやペットが歩いても、安心できるのではないかと思っています」と野村さん。また、ここ2、3年は、おうち時間を活用したガーデニングのため、一般の方から購入希望の問い合わせが入っているそうです。
これからも暮らしを支える三州瓦
野村さんは現在の状況と今後の目標についてこう語ります。「愛知県以外にも日本全国に瓦の産地はありますが、廃棄された瓦をもう一度、原料の粘土に戻す取り組みを大規模に行っているのは、愛知県しかありません。このような取り組みは自分たちだけではなく、愛知県または中部、そして全国に広めていけると思いますので、今後も続けていきたいと思っています」
古くから日本家屋に使われ続けている三州瓦。形を変え、暮らしを支えるシャモット。瓦業界の持続可能な取り組みへの挑戦は続きます。(取材・撮影:ビデオハウス/文:石川玲子 2022年8月取材)
栄四郎瓦株式会社
愛知県陶器瓦工業組合
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