コロナ禍でも少しずつ日常を取り戻しつつある昨今、中心市街地の活性化は、地域にとって大きな課題です。イベントの開催が活発化するなか、西尾市が2022年5月に新たな取り組みをスタートさせました。それが「まちなかにぎわいパートナー事業」です。
事前に登録された事業者や団体に対し、西尾駅周辺で市が所有する公共スペースを無償で貸し出すこの制度。その取り組みの狙いに迫ります。
公共スペースを無償で貸し出す
西尾駅周辺で市が所有する公共スペースを無償で貸し出す「まちなかにぎわいパートナー事業」。事前に登録された市内外の事業者や団体に対し、西尾駅周辺で市が所有する公共スペースを無償で貸し出します。事業者は、そこでマルシェやワークショップなどのイベントが開催できます。
貸し出しの対象となる場所は、西尾駅東駅前広場、みどり川左右岸、おいでっき、西尾駅西多目的防災広場、再開発用事業地2カ所の、合計6カ所です。都市計画課や公園緑地課など、申請窓口が異なる不便を、商工振興課に一本化することで利便性を高めました。
手続きを一本化しバリアフリー化
西尾市商工振興課の中根一輝さんに、この事業についてうかがいました。
「今までも駅前のスペースなどを使ってマルシェなどをしたいという声はあったのですが、開催までのハードルが高いという問題がありました。申請に手間がかかったり、どこに問い合せをして良いのかわからなかったりなどということがありました。西尾を盛り上げたいという市民の声を吸い上げ、それを実現できる環境を整えることが市の役割だと考え、これらの手続きを商工振興課として一本化し、バリアフリー化したのがこの制度です」
わくわくニッチょび市場
今回、無償で借りられるようになった場所のひとつ、西尾駅東駅前広場では、キッチンカーとライブ演奏をセットした、「わくわくニッチょび市場」が開かれていました。2021年の12月から毎月開催しているこのイベントも、今回の事業開始の恩恵を受けました。市場長、中島千佳さんはこう語ります。
「事業開始で、スペースの使用が無料化されるとあって、出店料無料化でやらせてもらえることになりました。また、キッチンカーにとってはわずかな段差がとても大変なことと聞き、市に要望を出したところ、広場への乗り入れ口を整備してもらえ、ありがたく思っています」
貸出料よりも「にぎわい」を対価としたい
商工振興課の中根さんはこう言います。
「公園を貸し出して得られる市の収入はほんの数万円です。それによって街のにぎわいが損なわれるのであれば、その数万円を捨ててでも、街中で盛り上げてもらう機運を高めていく起爆剤になるなら、お金という対価はもらわずに街中のにぎわいがどう変化するかのデータを対価としていただくような形でできないかと考え、この事業を進めていきたいと思っています」
無料で使えることで開催しやすく
みどり川右岸ではモノマルシェが開催されていました。10年前から幸田町で開かれていましたが、2022年4月からここに場所を移し、毎月15日に開催されています。こだわりの品を扱う出店者が集まると話題を集め、毎回多くの人でにぎわっています。
実行委員会代表の神谷いずみさんは、「まちなかにぎわいパートナー事業」についてこう語ります。
「開催するにあたって店舗からいただく出店料が必要だったのですが、出店したいという方のハードルが高くなってしまいます。こういった場所を無料で使えることで、出店料も安くなるので、運営しやすくなります」
アンケートでの声を反映したい
商工振興課の中根さんが、同僚と一緒にモノマルシェを回っています。どうやら来場者にアンケートを行っているようです。
「パートナー事業に対して好感を持っている方が非常に多いなという印象です。もっとこうするといいですよ、という声も多くあります。市民や出店者が求めるような場所を提供することが市の役割だと思うので、自分たちはあくまで主催者ではなくサポート役にとして協力したいと思っています」
会話を通して交流がうまれ次のチャンスへ
中心市街地活性化のため、こうしたマルシェを定期的に開催する意義を、主催者はどう捉えているのでしょうか。モノマルシェ実行委員会の神谷さんに聞いてみました。
「定期市はたくさんの人が交わる社交場のような感じなので、例えば中心市街地に空き店舗があるという情報を欲しいと思っている人と情報を知っている人で、会話を通して交流が生まれ、うまくマッチングするような機会はあると思います」
この事業によって新たに生まれたにぎわい。商工振興課の目指す次なるねらいは一体何なのでしょうか。
「次のステップとしては、こういったイベントに参加してくれた人の中から、実際に中心市街地に実店舗を構えて商売をしてもらうところまでサポートしたいです。実際に物件を紹介できるところまできています」と中根さん。
キッチンカーからまちなかの実店舗へ
この日、中心市街地の一角では、とある打ち合わせが開かれていました。週末に沖縄料理のキッチンカーを営み、これまでに何度も中心市街地で出店している「結まぁる」の2人。商工振興課の職員と商工会議所の職員、中心市街地の物件に詳しいコーディネーターの6人が集まっています。中心市街地の空き店舗を紹介しているようです。
結まぁるの代表、牧梢さんは、「今はキッチンカーをメインに出店しているのですが、ゆくゆくは店舗をもちたいと思っています。ですからこうして空き店舗を紹介してもらえるのはありがたいと思います」と話します。
出店者と空き店舗の所有者をつなぎたい
商工振興課の駒宮茂さんは、この取り組みについて、こう教えてくれました。
「街中に空き店舗が増えているので、そこを盛り上げてくれる出店者を空き店舗の所有者とつなぎたいと考えています。こういった部分は市役所ではなかなか入り込めないので、街なかの人とつながりの深い民間の方と協力しながらやっていきたいです」
中心市街地活性化の新たな挑戦
中根さんは今後についてこう話します。
「今の商店街の方も頑張っているのですが、時代も変わってきていて、普段はサラリーマンで週末キッチンカーをやられているとか、多種多様になってきているので、いろいろな人がまちなかで参加して、実店舗を持っていただいて、商売をしていただく、それが西尾のにぎわいにつながると考えています」
西尾市で始まった「まちなかにぎわいパートナー事業」。コロナ後を見据えて中心市街地活性化の新たな挑戦が始まっています。(取材・撮影:オフィスげんぞう/文:石川玲子/2022年7月取材)
「わくわくニッチょび市場」や「モノマルシェ」など、詳細や今後のイベント開催日程などは西尾市の公式ホームページ内下記サイトに掲載されています。
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