愛知県西尾市に本社がある「相生ユニビオ」。2022年に創業150周年をむかえる歴史ある醸造会社で、みりんのほか清酒や焼酎など様々な商品を製造・販売しています。
かつて製造していた自社蒸留ウイスキーの製造を再開させようと取り組んできましたが、そこには循環型社会を実現するために乗り越えなければならない課題がありました。相生ユニビオがパートナーシップを結んで実践する持続可能な取り組みをご紹介します。
約60年ぶりに取り組むウイスキーの自社蒸留
相生ユニビオは、1949年にウイスキーの製造を開始。ところがその直後、伊勢湾台風を含む2つの台風で大きな被害を受け、製造ができなくなりました。その後は、海外からウイスキーの原酒を仕入れブレンドして販売してきましたが、自社蒸留のウイスキーづくりへの想いは長年持ち続けていました。
そして今、およそ60年ぶりにウイスキーの製造を行っています。樽に入ったウイスキーは、3年間の熟成を終え、2022年12月に三河唯一の自社蒸留によるウイスキーが誕生する予定です。
相生ユニビオ グループマーケティング室の室長、下倉健人さんは自社蒸留のウイスキーは先代からの長年の夢だったと語ります。
課題は「麦芽粕(かす)」
産業廃棄物を出さないこと
しかし、再開にあたって大きな課題がありました。それは、製造工程で出る麦芽粕です。「これまでも、モノを捨てない経営をしてきたので、ウイスキーづくりにおいても原料の麦芽粕を捨てないために、どうやって活用していくかが課題でした」と下倉さん。
ウイスキーづくりはまず、温水に粉砕した麦芽を加えます。これをろ過したものが麦汁で、発酵や蒸留、熟成を経てウイスキーとなります。そして麦汁をろ過する時に出るのが大量の麦芽粕。これを産業廃棄物としないことが、相生ユニビオにおけるウイスキーづくり再開の大前提になったのです。
相生ユニビオが取り組む「もったいない」
相生ユニビオでは、昔から廃棄物を出さないよう様々な工夫を行ってきました。どのような取り組みを行っているのか愛知県碧南市にある碧南事業所の工場長、田中修二さんに聞いてみました。
「西尾工場ではみりんを作っているのですが、この粕は奈良漬けなどの材料に使っています。酒粕はアルコールと粉末に分け、粉末は牛のエサ、アルコールはみりん原料にしています。使った原料は捨てることなく再利用しています」
SDGsが提唱されるずっと前から、当たり前に「もったいない」を実践してきました。そのためウイスキーづくりでも麦芽粕を再利用することが求められたのです。
難航するパートナー探し そしてついに...
しかし麦芽粕を再利用してくれるパートナー探しは予想以上に難航し、1年たっても見つからない状況でした。当時の状況について下倉さんに聞きました。
「動物のエサなど、いろいろあたったのですが、栄養価の問題や、水分を含んでいることから管理が難しいなどの問題で、なかなか受け入れ先が見つかりませんでした。諦めずに色んなところに相談しました」
そして、ついに受け入れ先が見つかります。受け入れてくれたのは、日進市の愛知牧場です。愛知牧場は、自然や動物に触れあえる観光牧場で、週末には多くの人で賑わう人気の施設です。
パートナーシップで
年間約30トンのもみ殻を再利用
愛知牧場では牛糞にもみ殻などを混ぜ、これまでも堆肥を作っていましたが、そこに麦芽粕も加え、およそ40日かけて堆肥にします。愛知牧場を運営する愛知兄弟社の代表取締役社長 前田俊司さんは「元々牛糞が80~90%の水分を持っている中、麦芽粕を使えば水分量が調整でき、いい発酵を促せます」と効果を教えてくれました。
受け入れている麦芽粕は年間約30トン。それだけの量が産業廃棄物にならず、愛知牧場と、東郷町にある東郷グリーンセンターで販売されています。廃棄物を出さないウイスキーづくりはパートナー企業のおかげで実現しました。いよいよ自社蒸留のウイスキーが2022年の冬に誕生します。
目指すはメイドイン三河のウイスキーづくり
今後はさらに、SDGs 11番のゴール「住み続けられるまちづくりを」を目指し、地域とのつながりを重視したウイスキーづくりも行っていきます。その一つとして、今は海外の麦を使用していますが、来年以降は、安城市で収穫された麦を取り入れていく予定です。下倉さんは、今後の計画について次のように語ってくれました。
「土地でのつながりや、地域との共生を大切にするのは、SDGsの一環として相生ユニビオが大切にしていることです。麦を生産してくれる農家さんや、麦芽粕を受け入れてくれる愛知牧場さん。いろいろな方と力を合わせて、メイドイン三河のウイスキーづくりを行っていきたいです」(取材・撮影:映像舎/文:石川玲子/2022年7月取材)
相生ユニビオ 碧南事業所
三河で始めたみりん造りを原点に1872年(明治5年)創業した相生ユニビオ。碧南事業所では、2019年にかつて行っていたウイスキーの自社蒸留を再開させ2022年の冬に完成予定。
住所:愛知県碧南市弥生町4丁目3番地
電話:0566-41-2000
愛知牧場
名古屋市近郊の観光牧場。ヤギやヒツジ、ウサギなどと触れ合うことができる「どうぶつ広場」があり、体験イベントでは、引き馬体験や乗馬レッスン、バター作り体験を楽しむことができる。相生ユニビオのウイスキー製造で出た麦芽粕を牛糞に加え、堆肥として循環させている。
住所:愛知県日進市米野木町南山977
電話:0561-72-1300
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