2022年は、西尾の抹茶生産が本格的に開始されて150年。大きな節目を迎えました。特産品としての抹茶は浸透してきたものの、ここ2年はコロナ禍の影響で関連の催しが中止となってしまうなど課題が生まれました。そこで、150周年を期に前向きに抹茶文化を伝えていこうと様々な取り組みが始まっています。
地域の伝統産業に関わる人たちの思いを取材しました。
紅樹院にある西尾茶の原樹
西尾の抹茶は、明治5年に紅樹院の住職である足立順道が境内に茶園を作ったのが始まりと言われています。大正時代後期には碾茶の栽培が盛んとなり、現在の西尾の抹茶生産へとつながります。
生産者の一人、賓水園製茶の稲垣啓さんは西尾の抹茶文化をこう語ります。
「今は抹茶ブームで、スイーツなどにも抹茶が多く使われています。そこには茶の湯文化が関連していると思います。西尾に来ると日常でも抹茶そのものを楽しんでいる人がいる。お客さまには抹茶でおもてなしする。西尾は茶の湯文化が根付いた街になるとよりいいですね」
西尾茶の3つのこだわり
西尾の抹茶には3つのこだわりがあります。
1つ目は伝統の棚式覆い下栽培であること。寒冷紗と呼ばれる黒い幕を張り、日光を遮断すること。そのおかげで渋みの原因であるカテキンの生成が抑えられ、まろやかな味になります。
2つ目は大正時代から続く5段レンガ積み碾茶炉を使い、茶葉を乾燥させること。
3つ目は昔ながらの手摘みと御影石の茶臼挽きを使うことです。これらのこだわりが、コクとキレのある旨味が豊富な抹茶を生み出しているのです。
西尾の抹茶を全国・世界に発信していきたい
近年は新たな商品を開発するなどして、西尾の抹茶のPRが積極的にされています。
西尾茶協同組合 事務局長の奥谷陽一郎さんは、「西尾茶は今年で150周年になるため、それを記念して一昨年からお茶にまつわるいろいろな商品を開発しています。例えば『おやさいクレヨン』は、石臼でひいた際に舞い散った抹茶を使ってクレヨンにしました。他にも、抹茶を配合したタオルや記念袋(福袋)の販売もあります。このような取り組みを通じて、話題創出や興味喚起を念頭に、西尾の抹茶を全国や世界に発信していきたいです」と話します。
伝統行事「学校茶摘み」も本格的に再開
新型コロナの影響で中止となっていた関連の催しも少しずつ再開されるようになってきました。毎年5月に行われる「学校茶摘み」。西尾市内の小中学生が参加する、80年以上続く伝統行事です。2020年は中止、2021年はシーズン途中で緊急事態宣言が発出され、一部の学校でのみの実施でした。2022年は3年ぶりに本格的に再開できたのです。
参加した中学生は、「伝統を繋いでいけることを誇りに思います」「機械よりていねいに摘めるのでいいと思います。古くから伝わってきていることなので、ていねいに行いたいです」と茶摘みについて話してくれました。
観光客をターゲットにした茶摘みも開催
また、西尾市観光協会が主催する観光客向けの茶摘み体験も開催されました。この日は10人ほどが参加し、一番茶の手摘み体験を行いました。
参加者の一人は、「蒲郡から来ました。お茶は好きだったのですが、やってみたら楽しくて、いっぱい摘んでしまいました」と楽しそうな笑顔を見せてくれました。
西尾市観光協会常務理事の乾浩泰さんは今後について、「5年先、10年先に向けてインバウンド需要も見込んでいきたいです」と話します。
手摘みの魅力を伝えたいと奮闘
西尾茶協同組合の代表理事・本田忠照さんは「150年という長さには歴史と伝統があります。伝統の重みを皆さんに伝える一方、抹茶に対するイメージを少しでも取っ掛かりやすいように変えられるような機会を設けたり、新茶のシーズンは相乗効果も狙ってイベントを行ったりしていきたいです。西尾の抹茶は、伝統的な茶道用の抹茶ということで、良いものを皆さんに提供していきたい。そして、手摘み茶葉をメインに茶道人口を増やしていけるよう努力したいです」と話します。
コロナで打撃を受けた西尾の手摘み抹茶業界。150周年を迎え、もう一度手摘み抹茶の魅力を伝えるために多くの人が奮闘しています。 少しずつ戻り始めた日常とともに、抹茶文化の広がりに期待がかかります。(取材・撮影:モーション・ビジュアル・ジャパン/文:石川玲子/2022年5月取材)
西尾の抹茶
全国有数の生産量を誇り、深い緑、上品な香り穏やかな旨みとコクが特徴で、品評会でも高く評価されています。地域ブランドにも認定されています。西尾市の稲荷山茶園を中心に茶畑がひろがり、周辺には抹茶生産のルーツとなった紅樹院や、製造見学、試飲のできる茶屋、カフェなどが多くあります。
西尾茶協同組合 ホームページ
西尾の抹茶の特徴の他、抹茶を使ったレシピも掲載されています。
西尾市観光協会 ホームページ
抹茶や茶道具の販売店、抹茶スイーツが楽しめる店舗などが掲載されています。
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