コロナ禍の私たちの生活に欠かすことができないマスク。しかし、このマスクによって日常生活に支障をきたしている人たちがいます。聴覚障害がある人たちです。
今回は、愛知県碧南市と高浜市で聴覚障害がある人たちとともに困難を乗り越えようと活動する市民の姿を追いました。
マスクがコミュニケーションの障害に
コロナ禍で当たり前になったマスクによって、聴覚障害がある人たちは日常生活に支障をきたしています。現状について、碧南高浜聴力障害者協議会の会長で、生まれつき聴覚障害がある中村貴恵さんは、次のように教えてくれました。
「たとえばコンビニとかで『お弁当を温めますか?』と聞かれたときも、口元が見えれば何を聞かれているのか分かりますが、マスクで見えないと何を言っているのか分かりません」
そんななか、碧南市と高浜市で手話を広める活動を行っている碧南高浜手援隊がこの問題を解決しようと動き出しました。
「お知らせ絵カード」をヒントに
2022年3月、へきなん福祉センターあいくるに集まっていたのは、碧南高浜手援隊のメンバー。手話を趣味で行っている人や、周りに聴覚障害者がいる人など40人が参加している団体です。手話を通じて聴覚障害がある人を支援するために、2018年に結成しました。
2020年には災害時に避難所で活用してもらうために「聞こえない人のためのお知らせ絵カード」と題したコミュニケーションボードを作成し、高浜市と碧南市に寄贈しました。碧南高浜手援隊ではこの経験を活かし、聴覚障害がある人たちのコロナ禍の問題を解決するために、再びコミュニケーションボードを作成することに決めました。
まずは身近なコンビニに
作成したコミュニケーションボードには「温めますか?」や「袋は要りますか?」などのコンビニでよく聞く言葉が書かれていて、指さしをすることで意思疎通を図ることができます。
代表を務める野々山祐司さんは、コミュニケーションボード作成の経緯について、「聴覚障害がある人たちから、口元を読み取ることができずに大変困っているという話を聞きましたので、メンバーのみんなでコミュニケーションボードを作ることを決めました。そしてまずは、一番身近なコンビニに配ることにしました」と話します。
聴覚障害を乗り越えるための工夫
コミュニケーションボードの作成にあたって、野々山さんたちは碧南高校美術部に協力を依頼。当時、碧南高校3年生だった亀島舞弥さんがイラストを担当しました。
「実際に話をいただいて、聴覚障害がある人たちの現在の状況を初めて知りました。聴覚障害者のみなさんにとって視覚の情報が伝わりやすいかと思い、輪郭線を太くするなど見やすいデザインになるよう気をつけました。自分が作ったイラストで色んな人が生活しやすくなると嬉しいです」と亀島さん。
すべての人が生活しやすい社会に
2022年4月、野々山さんたち碧南高浜手援隊のメンバーは、高浜市内の24店舗と碧南市内の35店舗のコンビニにコミュニケーションボードを配りました。
実際にボードを店舗に設置したファミリーマート高浜湯山店の須田一行店長は、「レジのすぐ見えるところに置いて、対応できるようにします。このボードを使って聴覚障害がある人を含め、すべての人に気持ちよく買い物をしてもらえるようにしたいです」と話します。
障害者と健常者の理解を深めるために
また碧南高浜手援隊では、コミュニケーションボードの配布と合わせ「手話がわかるチラシ」も配布しました。このチラシを作成したのは、碧南高浜聴力障害者協議会の中村貴恵会長です。
中村さんは、手話を写真や動画で撮影し、その画像を使ってチラシを作成しました。その理由について中村さんは、「私にとって手話は『命』です。手話を使って会話をするだけでなく、自分の考えや気持ちを相手に伝えるとても大切なものです。だから絶対になくしたくない、必要なものです。そのため、指さしだけではなく手話を覚えてもらうためにチラシを作成しました」と話します。
2022年4月に手話を日本語と同様の言語と認め、手話でコミュニケーションを図りやすい環境を構築することを基本理念として掲げる「手話言語条例」が施行された碧南市と高浜市。
コロナによる弊害をきっかけにコミュニケーションボードなどが作成されたように、この地域では健常者と障害者、行政による共生のための取り組みがはじまっています。(取材・撮影:オフィスげんぞう/文:石川玲子/2022年4月取材)
手話言語条例
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