「年末年始に牛乳をいつもよりいっぱい多く飲んでいただく、料理に乳製品を活用いただくなど、国民のみなさんのご協力をお願いいたします」
2021年12月、岸田総理が国民に向けて異例の呼びかけを行いました。コロナ禍で飲食店での乳製品の消費が落ち込み、年末年始に乳製品の原料となる生乳の大量廃棄が懸念されていたためです。
廃棄が懸念されていた量、全国でおよそ5,000トン。この事態に地元の酪農家はどのように行動し、どのように考えたのでしょうか。酪農家の姿を追いました。
生乳の生産量の調整は難しい
愛知県西尾市にある小笠原牧場。成牛およそ280頭を飼育していて、1日あたり平均8トンの生乳を出荷しています。代表取締役の小笠原正秀さんによると、約40年にわたる酪農人生の中で、ここまで生乳が余ったことはなかったそうです。
乳を搾らないと、牛は「乳房炎」という病気になってしまうため、乳を搾らないわけにはいきません。「TMRといって栄養濃度が高い餌を与えているのですが、栄養を通常より薄めにすることで乳量を少し抑えることはできるので、そういった工夫を少しやってはいますが限界があります」と小笠原さんは話します。
国内の生乳生産量の現状
これまで国内では、生乳の生産量が減少してきたことから、2030年度までに国内の生乳生産量を年間780万トン以上にするという目標を目指し、業界全体で努力してきました。
2017年からは少しずつ増加に転じ、2021年も、これまで以上に生乳の生産が順調だったといいます。しかし、そこにコロナ禍の飲食店などで乳製品消費が落ち込み。生乳廃棄の危機が迫りました。
生乳廃棄への酪農家の想い
小笠原さんは生乳の廃棄について、「本来、飲んでもらう、食べてもらうものを廃棄するということは、環境的にも良くないし、イメージも非常に悪い。絶対に廃棄をしてはいけないという強い想いがある」と話してくれました。
また、「精神的に辛いですし、廃棄が起きたとしたら悲しむべきことなので絶対に避けなければいけない」と悲痛な思いを打ち明けてくれました。
廃棄を避けるための消費支援
2021年12月、生乳の廃棄をなんとしても避けようと小笠原さんがやってきたのは、地元の西尾信用金庫。信用金庫が牛乳の消費を支援するため、200ml入りの紙パックの牛乳8,100本、総量約1.6トンをメーカーから買い取ってくれることになりました。これまでも西尾信用金庫は、小中学校の休校により学校給食が無くなったときなど、たびたび支援を行い、酪農家を支えてきました。
さらにコンビニやスーパーなどでも生乳の消費支援が行われ、ローソンでは大みそかと元日にホットミルクを半額で販売したことにより、2日間で約135トンの消費支援をしたということです。
アフターコロナを見据えて
2022年を迎え、今回の生乳廃棄の結果について、小笠原さんが役員を務める東海酪農業協同組合連合会から「回避できた」という連絡がありました。
小笠原さんは、消費者や協力者の方々に感謝しながらも「今回のようなさわぎで、廃業してしまう酪農家が増え生産量が減ってしまうと、アフターコロナで消費が戻ったときに乳製品が足らなくなり消費者のみなさんに迷惑をかけてしまいますので、先を見据えて年間の生産量780万トンの目標値を念頭に努力していきたい」と話してくれました。(取材・撮影:土田隆浩/文:石川玲子/2022年1月取材)
小笠原牧場
場所:愛知県西尾市花蔵寺町西島104
電話:0566-74-3881
小笠原牧場 ホームページ
「シリーズ・コロナ禍をこの地域で生きる」は、キャッチの番組でも放送中!
番組名:特集「地域の今」
地域で今起きていること、取り組み、人々の姿を深掘り。「シリーズ コロナ禍をこの地域で生きる」では、医療・教育・企業などに従事するこの地域の人々の声から、コロナ禍の時代をどう生きるのか、そのヒントを探ります。
詳しくは、KATCH番組紹介ページ・特集「地域の今」をご覧ください。