美しい着物姿で三味線や鳴り物、日本舞踊などを披露し宴席を華やかに彩る芸妓。年々その数が減少しているなか、愛知県安城市ではかつて街の発展を支えた「安城芸妓」を今も見ることができます。しかし、新型コロナは彼女たちの世界にも大きな影を落としていました。
今回は、先代から受け継いだ芸を日々磨きながら、新たな形で花街文化を守ろうと奮闘する安城芸妓の想いに迫ります。
古き良き花街文化「安城芸妓」
明治13年、明治用水の完成とともに農業先進地として急速な発展を遂げた安城市。全国から視察者が訪れた際、その接待役として誕生したのが「安城芸妓」でした。最盛期には100人近くまで増えた芸妓は、安城市の発展とともに市の文化としても成長し、安城が誇る「おもてなし」の一つでした。
その後、バブル崩壊でその数が一気に減少。しかし、平成14年に地元経済界が主体となり安城芸妓文化振興会「笑美素会」を発足、今日まで地域に支えられながら古き良き花街文化として受け継がれています。
新型コロナが芸妓の世界にも影を落とす
しかし、新型コロナの猛威は彼女たちの世界にも大きな影を落としていました。コロナ禍で芸妓の収入源である「お座敷」の依頼が激減しています。現在の安城芸妓のメンバーは11人、市内にある7つの料亭で本来は楽しむことができるのですが、「加賀の家寮」の乃ん子さんは、これまでにない花街文化の危機を感じていました。
「芸妓というシステムは、基本給がなく、仕事の数に応じて収入が変わります。しかし、料亭自体がほとんど閉まっているので、芸妓の働く場所は減っていますし、芸妓としての収入が全くないという人も何人もいます」と語ります。
コロナ禍では芸を磨くことも難しく
こうした現状下でも、彼女たちは日々稽古に励んでいますが、座敷の収入が減ったことで、個人稽古も満足にできないといいます。
安城芸妓歴15年のてまりさんは、現在の活動について「お稽古代は笑美素会という後援会の皆様から頂いた分と、私たちが自分で働いた分からも積み立てているのですが、仕事がないため稽古を減らさざるを得ない状態です。またお金の問題だけではなく、コロナ禍で人が集まることが難しいため試行錯誤しています」と話します。
先が見えない苦しい状況でも支援金などを切り崩し、芸を磨き続ける彼女たち。そこには140年以上続くこの地域の花街文化を守りたいという思いがあります。
花街文化を守りたいと願う料亭も同じ
花街文化を守りたいという思いは、芸妓と同様にコロナ禍で苦境に立たされている料亭も同じです。その一つが安城市御幸本町にある明治32年創業の「うなぎ・お料理 吉野屋」。創業時は芸妓の置屋もあった歴史ある料亭です。
四代目の太田久助さんは「これまで安城芸妓を多くの人に知ってもらいたく、様々な企画を立ててきました。脈々と受け継がれてきた安城の宝物ですから大事にしたい」と語ります。そして2021年7月、太田さんは演奏や踊りの披露の場が失われている安城芸妓を、毎年行っている養護老人ホームの慰問に招待したといいます。こういった地域の人たちの想いも安城芸妓の力となっているのです。
安城芸妓を未来につなげるために
コロナ禍で苦しい状況ではあるものの、いまだからできることをと安城芸妓は未来を見据えています。2021年に入ってからは、お座敷やイベント以外の新しい形で安城芸妓を知ってもらおうと、FacebookやInstagramなどのSNSでの情報発信を始めました。
中心となって動いている芸妓のてまりさんは、「安城ビジネスコンシェルジュの指導を受け、現在は情報発信を頑張っています。ワクチン接種などが進んで、また経済が回り出したときに、SNSでの発信を見て芸妓を呼ぼうと思ってもらえたらと思います」と話します。
苦しい状況でも前を向き、芸を受け継ぐ安城芸妓。地域の想いを胸に安城芸妓歴37年の乃ん子さんは夢を語ります。「コロナが収束したら新しい芸妓が増えるように努力して、ますます安城芸妓の拡大を図っていくことが、いまの私の夢です。」
古くから安城のおもてなし文化として栄えてきた安城芸妓。地域の人たちの想いを胸に日々稽古に励んでいます。(取材・撮影:ビデオハウス/文:石川玲子/2021年7月取材)
安城芸妓組合
安城の伝統文化「花街文化」をいまに受け継ぐ安城芸妓。2021年8月時点で11名の芸妓が在籍。
安城市内7つの料亭で楽しむことができます。安城芸妓の予約は安城芸妓組合 公式LINEか、各料亭へご連絡下さい。
■うなぎ・お料理 吉野屋
■鯛常分店
■日本料理 やっかん
■今寿司
■料亭 藤よし
■料亭 すず岡
■料亭 川本
安城芸妓組合 公式ホームページ
安城芸妓組合 公式Facebook
安城芸妓組合 公式Instagram
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