愛知県安城市にある老舗スーパー「八百芳商店」。創業90年以上になる老舗スーパーが、2021年4月から新たに弁当やおかずの宅配事業を始めました。
新鮮な地元野菜を使ったメニューや、エリアを絞った宅配、ネットからの注文受付。こうしたアイデアを次々出し、生き残りに賭けているのは、4代目社長の神谷豊明さんです。今回は老舗スーパーが挑む新たな事業を取材しました。
コロナ禍で新たな事業を始めた老舗スーパー
地域密着のスーパーとして安城市和泉町で長年愛されている八百芳商店。そのスーパーの店舗の道を挟んだ向かい側にスッキリとしたデザインの真新しい建物ができました。こちらは2021年4月から八百芳商店が新たに弁当やおかずの宅配事業を行う事務所です。
宅配事業をはじめたのは2020年にお店を継いだばかりの4代目、神谷豊明さん。これまでは飲食店で勤務したり、ワイン関連の会社を経営したりしてきました。しかし、このコロナ禍で家業の八百芳商店をなんとかしなければと一念発起。後を継ぐことを決意し、新規事業を立ち上げました。
八百芳商店 ホームページ
豊明さんは新規事業についてこう語ります。
「これまで八百芳商店では野菜をメインに売ってきました。しかし近年、お客さんの高齢化が進んでいて、なかなか店舗に買い物に来られないという話を聞きました。さらにコロナの影響で外出が怖くて控えている人も多いことから、何かできないかと思ったのがきっかけです。そのときに、宅配を中心とした事業に早く切り替える必要があると感じました。そこでネットなどの環境を整え、まずは弁当の宅配事業からやってみようと思い立ったのがきっかけです。」
3代目からも信頼される4代目
八百芳商店には3代目の保一さんがいまも健在です。息子に店を引き継ぐ心境について聞くと、「自分の代で終わりと思っていたら、息子が『100年続ける』と言って宅配事業を始めました。いいことですよね、高齢者の助けにもなるし。息子は信頼しているので、特に不安はありません」と話します。
さらに4代目の豊明さんは、お店を継いだ直後に宅配事業をはじめた経緯について、「コロナ禍は積極的に動くタイミングだと思っています。世の中が大きく変わるタイミングは、そうありませんから。コロナ禍でも皆が楽しく過ごせることを考えれば、今後の青果店の生き残り策が見つかると思っています」と語りました。
宅配地域を絞り絆を深める
毎朝10時を過ぎると、八百芳商店のキッチンは予約が入ったお弁当の準備で慌ただしくなります。調理をするのは、イタリア料理店でシェフをしていた、山口和宏さん。宅配事業の立ち上げメンバーの一人です。お弁当の準備が整うとすぐに宅配です。宅配地域は安城市の丈山小学校区と福釜町のみ。あまり手を広げずに地域との絆を深めたいと考えているとのこと。
お弁当を注文した利用者からは、「宅配してくれるので便利です」、「美味しいし手軽なのがいいです」と、評判は上々のようです。
生産者と二人三脚で考える八百芳のお弁当
そんな八百芳商店のお弁当には豊明さんのこだわりが詰まっています。その一つが地元野菜をふんだんに使用したメニューです。
人気メニューの「豆腐ハンバーグ丼(580円)」は、ショウガの風味が食欲をそそり、豆腐に鶏ミンチを合わせて焼いたハンバーグと、たっぷりと添えられた蒸し野菜が絶品の一品です。この野菜は、安城市で無農薬野菜を栽培する「teranova-てらのば-」の野菜を使用しています。地元農家と手を組むきっかけについて、「朝一に収穫したものを手に入れられるということで、良いものを早く消費者に届けるために一緒にやってほしいと、『てらのば』にお願いしました」と豊明さんは話します。
teranova-てらのば- ホームページ
近所のはなし「Cool way of life!新進気鋭の農家集団『teranova -てらのば-』」
コロナ禍で苦境に立つ農家にも光が...
そのほかにも、安城市東端町の大橋農園で栽培するチンゲン菜を使った「安城農林ポークのロースト&大橋農園のチンゲン菜グリル丼(720円)」も、生でも食べられるというチンゲン菜と、薄めにスライスしたポークが絶品のメニューです。
大橋農園の大橋正樹さんは、「コロナの影響で学校が休校になった時は、野菜の行き先がなく困っていましたが、農業を続けていくためにも新しいことに挑戦しようと八百芳の弁当宅配事業に協力しました」と話してくれました。
さらには、通常は出荷しないというベビーチンゲン菜と安城産のいちじくを使用した「大橋農園ちんげん菜のキムチ 安城産いちじくの芳り(290円)」などの新メニューも豊明さんのアイデアで開発するなど、地元産の良いものを届けようと、新メニューの開発に余念がありません。そんな豊明さんの姿に大橋さんも「光が見えてきたような気がします」と、笑顔で話してくれました。
地元で暮らす人たちの生活のバックアップを
八百芳商店4代目・豊明さんは今後について「目標としているのは、お弁当だけでなく、食料品、さらには生活に必要な全てのものをお届けできるようにすることです。この地元で暮らしている人たちの生活のバックアップをできればいいですね」と、創業100年に向けて八百芳商店が目指す未来を語ってくれました。
コロナ禍で敢えて新規事業を始めた豊明さん。老舗スーパーが、これからの時代に即したビジネスの形を模索する日々は続きます。(取材・撮影:モーション・ビジュアル・ジャパン/文:石川玲子/2021年5月取材)
八百芳商店
1927年創業の老舗スーパー。現在はお弁当やおかずの宅配事業も安城市の丈山小学校区・福釜町エリア限定で展開中。
場所:愛知県安城市和泉町上之切108番地1
営業時間:10:00~18:00
お弁当配達:
1. 10:00注文〆→11:00~12:30配達
2. 11:00注文〆→12:00~13:30配達
3. 16:00注文〆→17:00~18:30配達
4. 17:00注文〆→18:00~19:30配達
休み:第2土曜・毎週日曜
電話:0566-92-0004
「八百芳商店」ホームページ
「シリーズ・コロナ禍をこの地域で生きる」は、キャッチの番組でも放送中!
番組名:特集「地域の今」
地域で今起きていること、取り組み、人々の姿を深掘り。「シリーズ・ コロナ禍をこの地域で生きる」では、医療・教育、企業などに従事するこの地域の人々の声から、コロナ禍の時代をどう生きるのか、そのヒントを探ります。