日本経済を直撃した新型コロナウイルスの影響。特に観光、宿泊業は未曾有の大打撃を受ける事となり、経営が破綻した旅館、風前の灯火になっている旅館は全国に数多く存在します。
そんななか、愛知県西尾市にある「吉良温泉」も例に漏れず苦境に立たされています。「一度退いてしまった客足は戻らない」「なぜこんなに苦しまなきゃいけないのか......」悲鳴のような嘆きが聞こえるなか、コロナ禍を生き抜く吉良温泉の1年の取材を全3回に渡りお伝えします。
前編・中編はこちら
Vol.34「苦境を生き抜く観光地。西尾市・吉良温泉コロナ禍の闘い-前編-」
Vol.35「苦境を生き抜く観光地。西尾市・吉良温泉コロナ禍の闘い -中編-」
生きていくために。それぞれの選択
家族経営の旅館が大半を占める吉良温泉。そのため、旅館経営と家族の生活は直結しています。「吉良ワイキキビーチ」の目の前にある、海鮮宿「はや河」もそんな旅館のひとつです。創業から36年の歴史を継ぐのは2代目、早川直希さん。長男と次男。そして小学校に上がったばかりの三人の男の子の父親です。
しかしコロナ禍で2020年の夏以降、週末以外は開店休業の状態が続いています。「2020年の年末はほとんどの宴会がキャンセルになってしまいました」と語る早川さん。しかし、家族を養っていかなければならない...。そんな思いから早川さんはある決断をしました。
「本業は旅館業なんです。だけど、食べて行かなきゃならないし、家族も守らなきゃいけないし。どうしようかと考えたとき、外で働くことにしました。」毎朝、早川さんは仕出し作りをひと通り終えると、西尾市一色町にある鮮魚の直売所「さかな村」に向かい、トラックで鮮魚の配送をしています。
大切な家族、そして旅館を守るためにと心に決めてはじめたアルバイトですが、本業以外で働く事に、どこか後ろめたさもあったといいます。 「最初は隠れるように仕事していました。だけど友人が、お前がやっていることは正しいって言ってくれたんです。そのおかげで救われました。本当、ありがたいですよね。」
残酷な2021年の幕開け
家族を守るためにアルバイトをはじめた早川さん。いまの願いはコロナが収束し、以前の吉良温泉、そして旅館の賑わいを取り戻すことです。
しかし、2021年のはじまりは残酷な現実とともにやってきました。1月に発出された「緊急事態宣言」。さらに感染を抑え込むため期間が延長され、およそ1カ月宣言が続きました。そんな状況に早川さんは「毎日何をすればと思うのですが、じっとしていても余計落ち込んでしまうし...。でも長男が、私立高校の受験費用をもったいないって言ったんです。それで子どもの前で気弱な姿も見せられないなと。空元気ですけど何とか明るい顔をしています」と、本音を漏らしました。
なぜこんなに苦しまなければならないのか
苦しんでいるのは、早川さんだけではありません。吉良温泉観光組合の組合長、山本裕充さんが社長を務める吉良観光ホテルも、2021年1月の緊急事態宣言の発出以降、客足は完全に止まりました。
休業が続き、一人ホテルで掃除をする山本さんは、「できるだけ思い詰めないようにしています。旅館を経営している人はみんな、『なんでこんなに苦しまなければならないのか』と思っているのではないでしょうか。たまに世の中で自分だけが取り残されたように感じることもありますが、他の人と話していると、みんな同じなのだなと分かって落ち着けます」と、家族にも吐けないという弱音を話してくれました。
いつかまたお客さんの笑顔に会える日を待ち望んで...。
苦境に立たされる吉良温泉の人々。それでも悲観するばかりでなく、それぞれが前を向く姿もありました。
新鮮料理の宿「たか島」の糟谷さんは、事業再構築の補助金を活用し、旅館の庭でバーベキュー事業を展開しようと考えていました。「海を楽しんでバーベキューをして、それから温泉に入ってもらえたら」と話します。
海鮮宿「はや河」の店主、早川さんは、「吉良の海岸に人を呼ぶ企画をしたいです。企画をきっかけに新たな形で旅館につながってくれるお客さんがでてきてくれると嬉しいです」と新たな動きに意欲を燃やしていました。
そして、吉良観光ホテルの山本さんは、2021年度のハワイアンフェスティアバル参加者募集のチラシを手に、「2021年はオンラインでハワイアンフェスティバルを配信しようと考えています。吉良温泉に来られなくても、配信を見てコロナがおさまったときに行ってみようって思ってもらえれば」と嬉しそうに語ってくれました。
再びお客さんの笑顔に会える日を信じ、苦しみながらも前を向く吉良温泉の人々。それは、誰よりも自分たちが暮らす吉良の海の魅力を信じているからなのかもしれません。
2021ハワイアンフェスティバル(2021年8月25日~28日)はLIVE配信を予定
「吉良観光組合 Youtubeチャンネル」
2020年、全国の「宿泊業」の倒産件数は118件。新型コロナに起因した倒産割合は飲食業や小売業などを抑え、業種別で最大となっています。(※)
そして業績の回復には、地域を巻き込んだ集客策と事業継続・転換に向けた弾力的な支援が必要だとされています。新型コロナが収束し、再び吉良の海に賑わいが戻るまで、決して諦めず、闘い続ける吉良温泉の人々の姿をお伝えしていきます。
新鮮料理の宿「たか島」
目の前に広がる穏やかな三河湾の眺望と新鮮な海の幸が味わえる高台の宿。土日祝限定のランチもあります。
場所:愛知県西尾市吉良町宮崎東甚作25-1
電話:0563-32-1682
吉良かん(吉良観光ホテル)
三河湾沿岸を中心とする三河湾国定公園内、吉良温泉郷の高台に位置する吉良観光ホテル。周辺の自然を満喫することができ、三河湾が見渡せる景観が自慢の宿。
場所:愛知県西尾市吉良町宮崎田ノ上15
電話:0563-32-1181
海鮮宿「はや河」
「シリーズ・コロナ禍をこの地域で生きる」は、キャッチの番組でも放送中!
番組名:特集「地域の今」
地域で今起きていること、取り組み、人々の姿を深掘り。「シリーズ・ コロナ禍をこの地域で生きる」では、医療・教育、企業などに従事するこの地域の人々の声から、コロナ禍の時代をどう生きるのか、そのヒントを探ります。