新型コロナウイルス感染拡大により、医療機関の受診を控える人が増えています。そんな中、地道な感染予防対策によって、患者やその家族の信頼を勝ち得ている医療機関があります。
愛知県碧南市にある小林記念病院です。小林記念病院は在宅で治療する患者を支援する医療機関として、地域医療を守る重要な役割を果たしています。今回はコロナ禍でも感染予防対策に力を入れ、成果を上げている小林記念病院の取り組みに注目しました。
病院に新型コロナを絶対に入れてはいけない
碧南市新川町にある小林記念病院は昭和20年に開設された地域の医療機関です。
医療スタッフを束ねる小田高司院長によれば、病院の病床数は現在196床で、2021年2月末時点で186人が入院中だといいます。入院患者の平均年齢は約88歳。新型コロナウイルスの致死率は80歳以上の基礎疾患のある人で20.8%、つまり5人に1人が亡くなる計算です。「だとすれば、絶対に病院のなかにコロナウイルスを入れてはいけない」と、小田院長は強く言います。
来院者のチェックを行い、細やかに対応する
小林記念病院で行っている感染症対策のひとつが、病院入口を1か所に絞り、来院する人をチェックするトリアージです。各病棟を取り仕切る経験豊富な看護科長が、交代で入口に立ち、受付前に手指消毒と体温測定を呼びかけています。
長谷川民枝看護科長によると、チェックの理由や方法を繰り返し伝えることで、来院者の理解を得られるようになったといいます。さらに外来患者には、事前の電話予約を呼びかける一方、予約がない場合は問診と体温測定を義務付けました。患者からも「病院でクラスターが起きたら怖いので、入口で体温などの確認をして対応してくれるのはありがたい」という声がありました。
水際で感染拡大を止める発熱者用待機テント
発熱した患者が来院すると、連絡を受けたスタッフが駐車場一角に設置されたドーム型の発熱者用テントに案内します。このテントこそ新型コロナを水際で食い止めるための取り組みのひとつです。
加藤豊範診療技術部長は「救急の発熱患者に対応する必要があるため、看護師がテント内で対応し、医師はタブレット端末のカメラ機能を使って院内から遠隔診療を行います」と話します。発熱者用テントでは、医師の指示を受け、看護師が抗原検査やPCR検査の検体採取を行います。大山紀子看護科長によると普段の処置とは異なるため、こまめに声をかけ合い対応しているとのことです。
いまだからこそ心のつながりを大切に
2021年3月現在、入院患者への面会を中止している小林記念病院。それに伴い、入院患者の家族への対応も工夫しています。そのひとつがリハビリの様子を家族に動画で見せ、治療の状況を説明することです。入院中の家族の姿を動画で見ることができ、リハビリの進行状況なども分かることが患者家族からは好評です。
一方、入院患者の家族は、着替えなども病棟の看護師を通じて手渡さなければなりません。だからこそ病院のスタッフたちは家族に患者の状況や患者からのメッセージを伝えるなど心のつながりを大切にしているそうです。
地域の医療機関の役割とは
小田院長は地域の医療機関の役割について、「当院は透析治療も行っていて、感染リスクの高い患者が多くいます。もし当院が一病棟をコロナ病棟とした場合、地域の高齢者が入院する病院がなくなってしまいます。
そういった点を総合的に判断し、コロナ陽性者の治療は市民病院に任せ、そのかわり市民病院で治療が終わった患者を積極的に受け入れています。そのため新型コロナウイルスの感染拡大がはじまってから当院の入院患者数が増えた印象を持っています」と話してくれました。
大山看護科長は「まだ道半ばだと思います。実際にコロナが収束するまでは、私たちの対応がよかったなどの結果ははっきりとわかりません。しかし、自分たちが地域医療の砦という意識を持ち、院内で誰一人、感染者を出さずに対応できたねと言える日を目指して頑張るしかないと思います」と語ります。
新型コロナウイルスの感染収束が未だ見通せないなか小林記念病院では、きょうも最善策の模索が続けられています。
(取材・撮影:オフィスげんぞう/文:石川玲子/2021年3月取材)
小林記念病院
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