約800ヘクタールの農地を誇る愛知県碧南市。特産のニンジンをはじめ、タマネギやイチジクなど多くの野菜を800軒ほどの農家が栽培しています。市内で神重農産を営む林口政信さんもその一人です。普段は育てた野菜をスーパーや学校給食などに野菜を届けているという林口さん。しかし、新型コロナにより一時、野菜が出荷できなくなったといいます。
今回は、コロナ禍を乗り越えるために自分たちが育てた野菜を届けようと奮闘する神重農産の姿を追いました。
野菜づくりにこだわる!神重農産
2020年11月、愛知県碧南市の農地では神重農産を営む林口政信さんがニンジンの収穫をする姿がありました。収穫したニンジンを手に「ことしは色が濃くて全体的にいい仕上がりです」と話してくれました。
神重農産では、野菜の出来栄えを正確に管理するため、与えた水の量や収穫した日の天候などを毎日スマートフォンに記録しています。記録することによってデータとして残せるので、野菜作りのマニュアル化がしやすいということです。食べた人が「元気になる野菜作り」をコンセプトに、日々、試行錯誤しながらに大切に野菜を育てています。そんななか、新型コロナは神重農産にも大きな影響を及ぼしました。
新型コロナの影響で出荷できなくなった野菜
2020年春、新型コロナの影響で飲食店が休業。さらには学校の休校で給食がなくなったことなども重なり、神重農産では青果会社を通して卸していた野菜が一時、出荷できなくなりました。当時山積みとなったタマネギは少なくとも10数トンにのぼったといいます。「こんな事態が起こるなんて想像できませんでした。需要と供給のバランスが崩れるとはこういうことなんだと痛感しました」と語る林口さん。
3割ほど収入が落ち込み、山積みになったタマネギも廃棄を回避するために通常の価格よりも値を下げて販売するしかありませんでした。そんな状況に陥ったなか、林口さんの気持ちには、ある変化が芽生えました。
自分たちの野菜を知ってもらうための新たな施策
「自分たちが大切に育てた野菜を直接消費者の元へ届けたいと思い野菜のインターネット販売をはじめました」と林口さん。また、通販を始めるにあたってスタートさせたのが「自分たちの野菜を知ってもらう」活動です。
林口さんの妻、悠子さんは畑の様子や収穫、農作業の様子をインスタグラムに投稿しています。「畑の様子が消費者や見ている方に伝わるように、SNSにあげるようにしています。加工とかせずにそのままの姿を伝えるように意識しています」とのこと。
さらに神重農産では自分たちで育てた野菜のブランド化を図るため「商標登録」も実施。栽培したタマネギに「旬玉」というブランド名をつけました。「季節の移ろいとともに品種がかわっていくのをお客さんにも味わってほしく、かつシンプルな名前にしたくて、旬な時期のタマネギという意味で旬玉とつけました」と林口さん。
商標登録した「旬玉」をインターネット販売するなかで、購入したお客様から直接感想が届いたことも嬉しかったといいます。
コロナ禍で味わった悔しさをこれからに
さらに神重農産では、これまで栽培していなかった野菜作りにも挑戦。新たに栽培に挑戦した野菜はパクチーです。そして、この挑戦をきっかけに神重農産ではネパール料理店などに食材を卸す会社と新たに取り引きを開始することになりました。
新たに取り引きを開始した会社のオーナーは、「この地域で栽培されているパクチーを探していて林口さんと出会いました。自分も外国からきて、こういう風に一緒に頑張れる仲間ができてすごく嬉しいです」と話していました。
コロナ禍で味わった、大切に育てた野菜が出荷できないという悔しさ。それを機に、神重農産では自分たちで育てた野菜を多くの人に知ってもらうための施策や、新しい野菜作りにチャレンジすることとなりました。
林口さんはこれからの目標について「コロナによって農業だけでなく様々な分野で本当の『安心安全』という価値が問われてきていると思います。だからこそ私たちは、食べた人が『おいしいな』『また食べたいな』と思ってもらえるような野菜作りを今後もやっていき、これまで以上に多くの人たちに野菜を届けたいと思います」と、熱く語ってくれました。
取材・撮影:杉浦和哲/文:石川玲子/2020年11月取材
神重農産
「元気になる野菜づくり」をモットーに碧南市でタマネギやニンジンを栽培する農家。柔らかく辛みの少ない甘み豊かな玉ねぎ「旬玉」や、独自の栽培方法で臭みを抑えたバランスの良い甘みが特徴の「マドンナキャロット」を生産・販売。
場所:愛知県碧南市天神町5-65
電話:0566-41-1489
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