
安城市池浦町の愛知県立安城農林高等学校。園芸科の生徒たちは年間700株のミニトマトを栽培し、およそ2トンの収穫を行っています。しかし、その3割近くは販売できずに廃棄されていました。
今回は安城農林高校土壌研究研修班によるミニトマトの廃棄ロス削減と、その活用の取り組みに迫ります。
安城農林園芸科のミニトマト栽培
安城農林園芸科の実習で行われている、ミニトマトの収穫を見せてもらいました。爆ぜたものは裂果と呼ばれます。さらに色味が悪かったり、傷があったりするもの、小さなものなど、規格外のミニトマトもあわせて摘み取ります。収穫されたミニトマトは選別機で大きさごとに分け、袋詰めして校内で開かれる安農マーケットなどで販売します。
これら裂果・規格外のミニトマトは5年前の2020年には、収穫量1.3トンに対し385キロあり、販売できずに廃棄されていました。例えば裂果したミニトマトはカビが発生する恐れがあるため、出荷できないのです。
トマトが爆ぜないようにする工夫
そこで取り組んだのが、生産方法の見直しでした。メンバーにその方法を教えてもらいました。
「陽が上った時に温室内の温度が急上昇します。その際にトマトと温室内の温度差で結露が発生し、トマトが表面についたその水分を吸収し、身が爆ぜる原因になります。そのため陽が昇る前に、温めた外の空気を温室内に送風することで温度上昇を緩やかにし、爆ぜるのを防いでいます」
地域住民へ販売
次にメンバーが行ったのが、販売先の拡大と販売システムの確立でした。
土壌研究研修班のメンバーはミニトマトを販売するため、自らイベントに出店するほか、近隣住民へも積極的に売り込みます。
この日はイベント会場に向かう途中、注文のあった住民に配達を行いました。購入した人は、味も良い安城農林のミニトマトは食卓で重宝していると話してくれました。その後も生徒たちを見かけた住民から次々に声がかかり、ミニトマトが売れていきました。
土壌研究研修班の活動の広がり
さらに効率的な販売を目指し、住民が自主的に注文を取りまとめてくれるアンバサダー制度も導入しています。
安城市中部公民館で開催された公民館まつりでは、安城農林のブースに販売開始前から行列ができていました。この日用意した90袋のミニトマトは、販売開始からわずか15分ほどで完売。
ほかにも土壌研究研修班は地元飲食店とコラボし、規格外のミニトマトを使ったメニュー「安農トマシライス」の共同開発も行いました。
販売量は2倍に、廃棄量は7割削減
飲食店で提供するためには、安定供給が欠かせません。そこで生徒たちは、日々収穫量のほか、規格外や裂果の量を記録し、今後の出荷量を予測して提供先との情報共有を図っています。
こうした取り組みによりミニトマトの販売量は3年間で911キロから1,869キロに増加。一方、廃棄されるミニトマトの量は385キロから120キロまで減少させることに成功しました。こうして、販売量は2倍に増加し、廃棄量は7割削減することに成功したのです。
さらなる廃棄削減の取り組み
さらなる廃棄量削減のため着手したのが、捨てられる裂果のほか、トマトの葉や枝などの残渣の活用です。注目したのが、ブラックソルジャーフライ(和名アメリカミズアブ)の幼虫です。現在、トマトの葉や茎はすり潰して米ぬかと混ぜ合わせて与え、裂果はそのまま幼虫に与えています。こうすることでトマトは皮だけが残り、葉や茎も繊維を残して、ほとんど無くなります。
「幼虫はとてもタンパク質の含有量が高いので、栽培時に発生した裂果や茎、葉を幼虫に食べさせて新たなタンパク質を作り出しています」と、メンバーが説明してくれました。
目指すのは循環型農業
幼虫の成長具合を観察するため、30匹ずつ容器に入れた幼虫の重さを毎日計測し、記録しています。条件が整えば、2週間で1,000倍の重さに成長するというアメリカミズアブの幼虫は栄養価が高く、いま注目を集めている存在なのだそうです。育てたこの幼虫をどのように活用することを目指しているのか聞きました。
「幼虫を魚の餌として利用することを考えています。さらに、魚を飼育する上で発生する糞を空心菜の肥料にすることで循環型農業となり、捨てられるだけだった残渣を価値のあるものにできると思っています」
今後の課題は
安城農林土壌研究研修班の活動は高く評価され、数々のコンペに入賞しています。
しかし、実現にはまだ大きな壁があると教諭の松原努さんは話します。トマトの葉や茎には「トマチン」という毒があるため、それを食べた虫を魚に餌として与えた場合、その魚がちゃんと成長するか、そして育った魚が毒を持っていないかという点がプロジェクトの次の課題になるのだそうです。
このプロジェクトの今後は
松原先生は、土壌研究研修班のプロジェクトの未来について次のように話してくれました。
「今後はさらに、生産性と安全性、そして環境への配慮の両立が求められてきます。野菜の残渣を魚の餌にするというこのプロジェクトは都市部でも応用でき、本当の意味でのスマート農業を実現できるのではないかと思います」
ミニトマトの販売効率を高めるだけでなく、裂果や栽培後の残渣の活用も進める安城農林土壌研究研修班。農業分野でもSDGsが求められる昨今、この取り組みは今、注目を集めています。(取材・撮影:オフィスげんぞう /リライト:石川玲子 2025年1月取材)
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