西尾市平原町に完成した「心の駅いやしろち」は、豊かな自然に囲まれ、鳥たちの歌声が聞こえます。この場所を作った杉崎さんは、心が疲れてしまった若者たちが世の中に復帰するきっかけとなる場所をつくることを、自身の長年の夢としてきました。若者たちにこの場所で動物の世話や調理、接客などそれぞれができる仕事をしてもらい、次のステージに進んでいくステップにしてほしい。杉崎さんの長年の夢がやっと形になった「心の駅いやしろち」をご紹介します。
18年活動を続けてきた杉崎さん
心の駅いやしろちは、杉崎学さんが長年間抱いてきた夢を実現した施設です。『心が疲れてしまった若者たちが社会に復帰する足掛かりとなる場所をつくる』という夢のきっかけを話してくれました。
「30年以上前になりますが、僕の身内である当時中学生の子が遺書を残して自ら命を絶ちました。これはいじめ問題として全国にも報道されました。そして僕は、心に病を抱えてしまった若者たちに世の中に戻ってもらう活動を細々と、ここまで18年間やってきました。心が折れそうになったことも何度もありましたが、今となってみると続けてきてよかったと思います」
これまでの活動の軌跡
心の駅いやしろちは2024年8月に完成したばかり。その夢への第一歩は18年前に始まっていました。
杉崎さんは当時、心の病を抱えた若者の働く場として、朝市を始めました。若者たちはここで、野菜や花を販売するお年寄りたちと一緒に働きながら自然にコミュニケーション力を身につけたといいます。
その頃、杉崎さんが知り合ったのが、近所で菜種油をつくっていた大嶽喜八郎さんでした。
「廃業を考えていると聞いたときに、『辞めてしまうなら、ここを自分が若者たちの勉強の場所にしたい。菜種油づくりを教えてください。』と頼んだんです」
大嶽製油所の菜種油に
昭和24年創業の大嶽製油所は、大嶽さん夫妻が2人で菜種油をつくる小さな町工場でした。国産の菜種から時間と手間をかけてつくる昔ながらの製法を守り抜いていました。しかし高度経済成長期になると、大量生産された安価な食用油が主流となって、西三河地方に30軒ほどあった菜種油工場は次々に廃業していき、夫婦で頑張っていた大嶽さんも、2009年に工場を閉めることを決めていました。そんな厳しいタイミングで、杉崎さんは大嶽製油所で菜種油づくりを教わることになったのです。
大嶽製油所の菜種油を守るという夢が増えた
当初は、製油所を若者の仕事体験の場にと考えていましたが、その思いは次第に変化していきました。
「奥さんが、お昼に必ずまかないを作ってくれました。それが、何を食べてもおいしいんです。それは、使っている菜種油がおいしいから全部おいしくなるんだ!と気づいたんです」
そこから、杉崎さんの夢がもうひとつ増えました。それは大嶽製油所の菜種油を守ること。その後3年をかけて、大嶽さんから技術を学びました。
国産の菜種を求めて
大嶽さんから菜種油づくりの技術を受け継いだものの、そこには大きな困難が待ち受けていました。安価な食用油に押され、国産の菜種は栽培面積が激減していたのです。そこで杉崎さんは、若者たちと耕作放棄地を開墾し、自ら菜の花を育てることにしました。並行して契約農家を探す日々を送ったといいます。
「北海道から九州まで探し歩いて、5、6年かけてようやく必要な量の純国産菜種を集めることができました」
菜種油づくりを次の代へつなぐ
杉崎さんの熱意で契約農家も全国各地で見つかり、2012年に焙煎工房を立ち上げました。 大嶽さんから受け継いだ機械は、今も現役で動いています。
そして、菜種油づくりを次世代につなげていくために後継者も育て、その技術を寺田康一さんへと引き継いでいます。
菜種油づくりを任せられる次の代が育ってきたことで、杉崎さんは18年前から思い描いてきた夢の実現に専念することができるようになりました。
ついにオープンした心の駅いやしろち
西尾市平原町の自然豊かな地域に土地を購入し、整備をすることおよそ2年。2024年8月、心の駅いやしろちが完成しました。10月12日にはオープンを記念してイベントを開催し、杉崎さんを支援する人や、これまでの活動の中で出会った人たちを招き、感謝の気持ちを伝えました。心の駅いやしろちでは、動物との触れ合い、ステージ、キャンプなど様々な楽しみ方ができます。
菜種油を使った料理も楽しめる
「ほうろく屋の台所」では、大嶽さんから杉崎さんが受け継いだ菜種油を使った料理も楽しめます。
食べたお客さんたちに話を聞いてみると、「めちゃくちゃおいしいです。菜種油で揚げたなすが特においしかったです」「近場に住んでいるのですが、こういうところがあることを知りませんでした。癒されました」と、リラックスした様子で話してくれました。
今後は心が疲れてしまった若者たちがここで働き、社会へ復帰するステップの場としていきます。
みんなが元気に、笑顔になれる場所
杉崎さんの思い描く『いやしろち』とは何なのでしょうか。
「動物も人間も植物も、この空間に来たら元気になれる、笑顔になれる場所です。お年寄りから子どもまで、障害のある人も健常者も関係なく笑顔が飛び交うような楽しい場所であり続けたいと思っています」
(取材・撮影:映像舎/リライト:石川玲子 2024年8月取材)
ほうろく屋
愛知県西尾市西浅井町古城17番地
公式サイト
心の駅いやしろち
愛知県西尾市平原町滝口9-3
公式Instagram
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