愛知県刈谷市内にある商業施設、ルビットタウンの1階、無印良品の一画に、本と親しめる空間があります。この場所は『クマシカ図書館』。個人が管理を行う、私設の図書館です。開放的な雰囲気の中にたたずむ、小さな本棚に、ひとり、またひとりと温かい雰囲気に吸い寄せられるように、人々がやってきます。クマシカ図書館の小さな本棚をのぞいてみました。
クマシカ図書館
2022年4月にオープンした、ルビットタウン刈谷の1階、無印良品の一画に、クマシカ図書館があります。図書館といえば、整然と並べられた本棚を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、ここの本棚は何かが違います。特徴的なのが、ヒトハコと名付けられた縦横30センチほどの本棚です。その中をのぞいてみると、ある棚にはビジネスの本がぎっしり並び、一方別の棚は、小説が並んでいます。統一感はなく、まさに多種多様です。その理由は、クマシカ図書館ならではの仕組みにあります。
ヒトハコのオーナーとなり本を貸し出す
『ヒトハコ本棚アパート』と名付けられた本棚には、区切られた棚ごとにオーナーがいます。一般の人が月々のお金を払ってオーナーとなり、自分のおすすめの本を貸し出す仕組みになっているのです。オーナーそれぞれの趣味嗜好、思いが集まった本棚はジャンルにも作家にも縛られない、自由な空間。また、定期的に本の入れ替えを行うことで新たな本と出会う機会も作っています。
心地よく本を読んでもらえる空間に
「オーナーさんが本を入れ替えてくれるので飽きない場所になっています。喋っても大丈夫ですし、ごろんと寝ながら本を読んでもらってもいい。好きな本を選んで読んでもらって心地よく過ごしてもられば、という空間です」と話してくれたのは、クマシカ図書館 館長のイシダヨシカさんです。イシダさんはコロナ禍真っ只中の2021年に、刈谷市御幸町の民家の2階でクマシカ図書館をスタートしました。
健やかで丁寧な空間を作っていく
「クマシカ図書館ができたのはコロナの真っただ中で。自分が『本がある場所が好き』で、心を健やかに保てる環境があるといいなと思いました。そうして自分にとっての健やかで丁寧な空間を作っていたら、知らないうちに周りの人たちにとっても同じような存在になっていったのが、始まりです」と、イシダさんは、クマシカ図書館に込められた思いを語ってくれました。
地域住民の交流の場を目指す無印良品
イシダさんの情熱が発端となって生まれたクマシカ図書館。この試みに注目したのが、無印良品です。無印良品は、各店舗が地域住民の交流の場となることを目指していて、両者の思いが合わさり、2023年に店舗内にクマシカ図書館が移転しました。
無印良品 ルビットタウン刈谷 店長の川口厚子さんに話を聞きました。
「買い物に来た方、図書館を利用しに来る方それぞれに、本のあるくつろぎの場所を提供することで、どちらにもよい効果が出ればと思っています。本を通してワクワクした時間を過ごしていただけたらと思っています。」
自分の本棚に共感が得られる
およそ30人のオーナーがクマシカ図書館の本棚を手掛け、運営もサポートしています。桑本いづみさんは、2年ほど前から関わっているベテランオーナーです。月々お金を支払い、さらに自分の本を貸すのは一見利点が無いように思われますが、桑本さんはなぜヒトハコのオーナーを続けているのでしょうか。
「私がいいなと思う本に反応をいただくと嬉しいんです。小さいですけど、共感されているという実感があるというのはヒトハコオーナーをしていて嬉しい点です」
顔が見えなくても本でつながっている
桑本さんの楽しみは、自分の好きな本を、他の人と共有できることだといいます。桑本さんが取り出したしおりに書かれていたのは、これまでに桑本さんのヒトハコから本を借りた人の感想です。顔は見えなくても、本をきっかけにつながっている。そんなコミュニケーションが生まれるのがクマシカ図書館の魅力なのだそうです。
桑本さんは「これが励みになって、今度はどんな本を置こうかな、どんなやり取りができるかなということを考えながら続けています」と楽しそうに話してくれました。
夫婦でひとつの棚を創る
原 保宏さんと友子さんは、夫婦でヒトハコのオーナーを務めています。几帳面な保宏さんはリストを作成、並べた様子も写真で記録しています。選書は毎回テーマを決め、特に、『推し本』が出たらそれに沿ってテーマを決めることもあるのだといいます。
仲が良い原さん夫婦ですが、本の好みは、異なるそうです。お互いを尊重しながら本を選んでいて、本に関する夫婦の会話も増えました。
「もしひとりなら、自分の好みに偏ってしまいますけど、主人と一緒にオーナーをすることで違う本も入ってきますし、視点も広がると感じています」と友子さんは話してくれました。
クマシカ図書館で人生を変える1冊と出会う
オーナーのひとり、吉村聖一さんはクマシカ図書館で人生を変える出会いをしたといいます。
「ここでひとりぼっちで、一杯100円のコーヒーを飲みながら本を読んでいて、その時手に取った本が人生を変える一冊になりました。マイノリティを作っていく気持ちを消さないように行動することが大事だと書いてありました」
以前は仕事で悩んでいたという吉村さんですが、一冊の本との出会いをきっかけに一歩踏み出しました。今はオーナーとして、クマシカ図書館を支えています。吉村さんのヒトハコへの思いを聞いてみました。
「恩返しですね。私の本をきっかけにしてタネを拾ってくれたら、それが社会貢献になるのではと考えています」
暮らしの中にいつも通りある場所へ
最後に、これからのクマシカ図書館についてイシダさんに聞きました。
「ここをどれだけ居心地のいい場所として持続していけるかはいつも意識しています。暮らしの中にいつも通りある場所であればいいなと思っています」
イシダさんとオーナーたちが一緒に創るクマシカ図書館。あたたかな雰囲気に惹かれ、今日も人々がやってきます。
ヒトハコと呼ばれる小さな本棚をのぞいてみると、本と人との出会いの物語がありました。
(取材・撮影:リンドワークス/リライト:石川玲子 2024年10月取材)
クマシカ図書館
ルビットタウン刈谷 店内
愛知県刈谷市高倉町2丁目601
公式Instagram
「シリーズ 新しい時代を生きる」は、キャッチの番組でも放送中!
番組名:特集「地域の今」
地域で今起きていること、取り組み、人々の姿を深掘り。
「シリーズ 新しい時代を生きる」
コロナ禍を経た社会、物価の高騰、少子化による人口減少など、様々な課題がある中、乗り越えようと取り組む地域の人たちを取材し、ともに地域の未来を考えます。
詳しくは、KATCH番組紹介ページ・特集「地域の今」をご覧ください。
近所の気になる話題を検索!
検索ボックスに気になるワードを入力して、検索ボタンをポチッ!
【うなぎ】【ラーメン】【スイーツ】などのグルメ情報や、【公園】【イベント】【祭り】などのお出かけ情報も満載♪