2020年、新型コロナの影響で小中学校では修学旅行の行き先変更や中止が相次ぎました。愛知県内の小中学校でも、刻々と変わる感染状況を見ながら、予定を変更するなど対応が行われています。
こうした中、高浜市にある翼小学校では、修学旅行を日帰りで実施する判断をしました。様々な行事やイベントが中止になるいまだからこそ「子どもたちの思い出作りを大切にしたい」と日帰り修学旅行を行った翼小学校に密着しました。
いまだからこそ大切にしたいこと
新型コロナ感染拡大で揺れるなか、愛知県高浜市では修学旅行の実施についての判断をそれぞれの小学校に委ねていました。
高浜市立翼小学校の村越茂樹校長は「実施すべきか中止すべきか、どの学校でも校長が非常に頭を痛めたと思います。本校でも、何がベストかなと本当にずっと悩み続けました」と語ります。思い出を作ってほしいという願いと、体験的な歴史の学習をしてほしいという思い、一方で保護者からの心配の声と児童の感染リスクなど、全てを天秤にかけ悩んだそうです。
決まった日帰り修学旅行。行政の後押しも
翼小学校が日帰りでの実施を決めたあと、行政にも動きがありました。感染症対策として増やしたバスの追加費用などを市が負担することを決めたのです。
学年主任を務める安井久人教諭は「コロナの影響で様々な不安が増えるいま、費用面の心配をしている保護者もいたと思います」と、行政の後押しに安堵したといいます。保護者も「最初は心配もありましたが、修学旅行は小学校最大の行事だと思うので、行けることになって私も嬉しいです」と話してくれました。
修学旅行当日。期待に胸膨らます児童の姿
2020年10月22日、翼小学校の修学旅行当日。修学旅行は出発式の前の体温や体調のチェックから始まりました。
代表児童が「私は修学旅行を楽しみにしてきました。コロナの影響で日帰りになってしまいましたが、今日一日をめいっぱい楽しみたいと思います」と挨拶し、いよいよ出発です。121人の児童が6台のバスに乗りこみます。行き先は奈良県。バスに乗る時には必ず手指消毒を行い、バスの中では密を避けるために全員が窓際に座りました。
村越校長は「みんなとてもいい笑顔で登校してきましたので、本当にこの旅行を楽しみにしていたのだなと思います。帰りまで気が抜けないので、安心安全を一番に考えて実施していきたいと思います」と話します。
児童たちも「行けないと思っていたので、嬉しいです」「日帰りで悲しいけど、行けるのはうれしいのでしっかりと楽しんで帰りたいと思います」と笑顔を見せます。バスの中では友達とのおしゃべりはできませんが、児童は移動中の景色などを見て楽しんだそうです。
修学旅行先もいつもと違った景色が
最初にたどり着いた目的地は法隆寺です。現存する世界最古の木造建築、法隆寺。国宝や重要文化財も多数あり、1993年には世界文化遺産に登録されています。ガイドの解説に真剣に耳を傾ける児童たち。普段は観光客が多くいる法隆寺ですが、この日は、その姿がほとんどありません。同行している教諭も、これほど空いた法隆寺を見たことがないと驚きます。
法隆寺の見学後は、買い物と昼食の時間です。昼食では向かい合わせには座らず、みんなで同じ方向を向いて食べます。それでも、朝の出発が早くお腹が空いていたのか、児童たちは楽しそうに昼食をとっていました。
歴史の壮大さと、鹿が思い出になる
続いて、東大寺と奈良公園に向かいます。たくさんの鹿に迎えられて訪れた東大寺。大仏殿に入った児童からは「うわー、大きい!」と感嘆の声が上がります。ガイドの説明にも真剣に耳を傾け、それぞれが大仏に願いをかけます。
また東大寺の外では、群がってくる鹿に歓声を上げる児童もいました。「思っていた以上に楽しかったです。鹿がかわいかった」「歴史の壮大さを学ぶことができた」と、楽しそうな児童。東大寺で撮影した集合写真は、いつもとは違う修学旅行でも、いつもの笑顔が集まる素敵な写真となりました。
当たり前が当たり前でないこの時代に...
出発から、およそ12時間。児童が無事に学校へと戻り、日帰り修学旅行は終わりを迎えます。「当たり前であったことが当たり前でないこの時に、もう一度いろんな事を考え直すチャンスだった」と語る村越校長。
「将来大人になった時に『お父さんお母さんが小学生の時には、コロナの影響で修学旅行は一日だったのよ』という風に将来にわたって語り継がれるようになるのかなと感じます」と、無事に終わった修学旅行にほっとした表情を見せてくれました。いつもと違うからこそ、しっかりと考え、いつも以上に楽しむ。子どもたちにとっても、大人にとっても学びのある修学旅行となったようです。
(取材・撮影:ビデオハウス/文:石川玲子 2020年10月取材)
高浜市立翼小学校
場所:愛知県高浜市神明町5-1-1
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