愛知県刈谷市の依佐美中学校では、この春から防災教育に関する新たな取り組み、依佐美防災プロジェクトがスタートしました。この授業で活用されるのが、「デジ防マップ」です。今回は、スタートアップ企業が開発したデジタル防災サービス、デジ防マップを活用した依佐美中学校の取り組みを紹介します。
依佐美防災プロジェクトがスタート
気候変動による豪雨災害や、台風、地震など、様々な災害が頻発している日本。いざという時に命を守るためにも、防災意識の向上は必要不可欠です。2024年4月24日、依佐美中学校で、1年生を対象とした今年度の新たな防災教育である依佐美防災プロジェクトがスタートしました。1回目となるこの日は防災講習会が開かれ、名古屋の企業Rain Tech株式会社の代表取締役社長 藤井聡史さんや浜松医科大学 近藤誠人特任助教授らが講師となり、生徒たちは自然災害の恐ろしさについて学びました。
市のサポートを受けて実施
刈谷市では数年前から、新たな産業の創出などを目的として、スタートアップ企業をサポートしています。2022年4月に設立したベンチャー、Rain Techも、刈谷市のサポートを受けることで、今回初めて、依佐美中学校でのデジタル防災教育を実施することになったのです。
デジタルで「防災」
生徒たちが作成するデジ防マップは、デジタルの地図上に危険箇所を記録していくことで、オリジナルの防災マップを作ることができるインターネットサービスです。危険箇所をタブレット上で入力していくことでマークがつき、写真や文章でその情報をいつでも更新したり、見たりすることができます。また、同じアカウント内であれば情報を共有することができます。
体験した生徒は「防災って僕たちにはそんなに関係がないと思っていたんですけど、今回の授業で身近に感じたし、自分たちにもできることがありそうだなと思いました」と話してくれました。
デジタル防災を社会に実装する一歩
Rain Techの藤井さんは、「もともと私は製造業の分野でIOTやAIといった最新のテクノロジーを使ってきましたので、その技術を民間で、防災の分野に持ち込めないかと思って始めました。『それをどうやって社会に実装するか』と考えた時に、『デジタル』と『防災』のリテラシーを上げていく教育、ということがまずは必要だと気づき、身近な地域の防災情報を、学びながら自分たちで作っていくというサービスを立ち上げました」と話してくれました。デジ防マップは、デジタル防災を社会実装する一歩として開発されたのです。
実際に歩いて危険箇所を探す
2024年5月29日には、街探検と題した現地調査が行われました。1年生およそ240人が、学区内を9つのブロックに分け、くまなく歩いて危険な箇所を探します。生徒たちは、自分たちが危険だと思った場所で、デジ防マップにピンを打ち、その場所の写真を撮影して何が危険なのか、文章で書き留めていきました。
中学生が気づいた危険箇所
中学生たちは、どんな危険箇所を見つけたのでしょうか。
「道よりも高くなっている田んぼからは、大雨で水が溢れてくるかもしれないけど、こっちの田んぼは、道よりも低い高さにあるから、道まで溢れてくる危険は少ないんじゃないかと思いました」
「今まで気にしていなかったけれど、実は急な坂が多いことに気づいたので気を付けていきたいです」
また、教室の外でデジ防マップを使ってみた感想を、次のように話してくれました。
「簡単に持ち歩けるし、タブレットを使ってみんなで共有して見ることができるので、紙よりも便利です」
中学生の意識にも変化が
デジ防マップを使った防災教育に取り組み始めて、変化はあったのでしょうか。依佐美中学校 加藤こゆき教諭にうかがいました。「昨日がちょうど大雨で、小学校では早帰りするような天気でした。今日学校に来て、『帰り道に危ないところがないか探してきたよ』と言う生徒もいて、生徒の防災意識が高まってきていると感じます」
一人でも多くの命が救われるように
東日本大震災で被災した岩手県釜石市では、釜石東中学校の生徒が率先して避難したことで、地域の人たちも避難した「釜石の奇跡」の事例もあります。中学生が地域の危険箇所を把握し、率先して避難行動を起こすことで、いざという時、一人でも多くの命が救われることが期待されています。
現地調査から1週間。この日は、調査した内容を精査、検証し、デジ防マップに落とし込む作業と、クラス発表に向けてのプレゼン資料作りが行われました。
まとめた成果を発表し、共有する
4月の防災講習会からおよそ2か月半。Rain Techの藤井さんが見守る中、それぞれのクラスで、生徒たちがまとめてきたデジ防マップの内容が発表されました。地震や大雨といった災害が起こった時に危険が予測される身近な場所とその理由を発表、その際に避難できそうな場所も調べてまとめていました。
中学生の防災意識が高まった
この取り組みを通しての感想を、生徒たちに聞いてみると、「これまで気づいていなかったところに防災という視点で目を向けてみると、危ない場所があるということに気づけました。デジ防マップで確認する大切さを実感することができ、日々の過ごし方についても意識が変わりました」「最初はあまり防災を意識せずに生活していましたが、この授業を通して、僕たちが作ったデジ防マップを活用して地域の人たちにも安全に暮らしてほしいと思うようになりました」と話してくれました。デジ防マップを使って自分たちが住む地域のマップを作成したことで、防災への意識が高まったようです。
中学生の学びを地域の防災へ
Rain Techの藤井さんは、授業で終わりにせず、デジ防マップを継続して更新していってほしいと言います。「これから梅雨時期を迎え、水害の危険も出てくると思います。台風、そしていつ起こるかわからない地震、といった様々な災害があります。今回子どもたちの気づきをまとめたデジ防マップですが、1年間はアカウントを保持していますので、いつでも自分や家族のスマホや学校のタブレットから新しい情報をアップロードできます。デジ防マップをもっと改良しながらコミュニケーションを取って、地域でも活用していってほしいと思います」
(取材:シークラウド映像舎/リライト:石川玲子 2024年5月~6月取材)
Rain Tech株式会社
2022年設立。気候変動により自然災害が増加している地球環境のなか、日本のモノづくりで進化を遂げてきたテクノロジーを活用して安心安全に暮らせる社会・まちづくりを目指す。
住所:愛知県名古屋市中村区平池町4-60-12
グローバルゲート11F WeWorkグローバルゲート名古屋
公式サイト
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