「読み書きそろばん」という言葉があるように、かつては必須の存在だった「そろばん」ですが、電卓やパソコン、スマホなどが普及した現代において、その存在感は薄くなりました。しかし、実は子どもたちの習い事としての「そろばん」は、今なお根強い人気を集めているのです。デジタル時代において、なぜ今そろばんなのか。愛知県知立市の教室を取材しました。
習い事として根強い人気のそろばん
平日の午後。ぱちぱちという音が響く教室では、学校を終えた子どもたちが真剣なまなざしでそろばんに取り組んでいます。子どもたちにインタビューすると、口々に楽しいと話してくれました。
今、子どもたちがそろばんを習う意義は何なのでしょうか。知立市の「そろばんマイスタースクール」代表の遠山智士さんは、「アナログ的な能力である、自分の力で考えて行動することが必要とされるという点が大きいのではないでしょうか」と答えてくれました。
そろばんマイスタースクール
そろばんマイスタースクールには、園児から高校生まで約130人が通っています。授業時間は1部から5部までの約5時間半。個人のレベルや受講するコースに合わせて、指導を行っています。教室の代表を務める遠山智士さんはそろばん歴20年以上で、かつて全国大会で優勝したこともある、実績ある指導者です。
教室の開校当時
遠山さんが10年前に教室を立ち上げる際には、周囲の反対もありました。「第一に子どもが減っているということ、そして多様な習い事がある今の時代にあえてそろばんを選んでくれる子がいるのかどうか。職業として食べていけるのかどうかということを心配されました」
しかし、地道な営業努力と指導が実り、今は教室の経営は軌道に乗ったそうです。「開校前は自分でチラシをポスティングして回ったこともあります。その後は、子どもたち同士や保護者同士の口コミで広まって、軌道に乗ったなと思います」と、遠山さんは当時のことを振り返りました。
そろばんは小学生習い事ランキング9位
2023年に調査が行われた小学生の習い事ランキング(引用:学研教育総合研究所HP)では、体操やダンスなどに続き、そろばんは第9位となっています。デジタル化が進む現代で、なぜそろばんが人気を集めているのでしょうか。
そろばん教室に子どもを通わせている保護者に話を聞くと、「学校の算数に役立つことを期待して」「ただ計算ができる、というだけではなく自信につながっている」「本人の希望で」といった理由が挙がりました。遠山さんによると、自身はそろばんを習ったことがない年代の保護者も、我が子の姿を見てそろばんの良さを感じてくれていると言います。
実務珠算から教育珠算へ
かつて、就職するためには必須と言われたそろばんですが、電卓が普及して以降、実務で使うことはほとんどなくなりました。公益社団法人 全国珠算教育連盟の調査によると検定試験の受験者は1980年ごろをピークに減少しましたが、2004年からじわじわと盛り返し、その後は安定した推移を続けています。
こうした背景には何があるのか、全国珠算教育連盟 愛知県支部 支部長の村松利浩さんにうかがいました。「以前は働く上で必要な実務珠算が中心でしたが、今は子どもさんの教育の一環として親御さんに選ばれていると思います」
そろばん学習によって身につく力
実務ではなく教育の一環としてのそろばん中心へ、時代に合わせて、珠算界も変化してきました。そろばん学習は子どもたちの様々な力を向上させると言われています。
数字を扱う情報処理能力だけではなく、問題と向き合うことで育まれる観察力や集中力、鍛錬を続けることで身に着く忍耐力など、子どもの能力開発の手段としてそろばんの価値が見直されています。
機械を“使える”人間に
さらに、デジタル機器の普及で、膨大な情報が行き交う今だからこそ、そろばんが必要とされているのだと村松さんは言います。「デジタル化社会と言われますが、それを扱うのは人間ですので、そろばんを通して身につけた力で、機械に使われるのではなく機械を使える人間になってくれたらと思っています」
楽しんで高いレベルに
そろばんマイスタースクールには高いレベルの子どもたちが多数通っています。画面にフラッシュ式で表示される数字を暗算で計算する、フラッシュ暗算の様子を実際に見せてもらいました。高速で切り替わっていく問題にも、難なく正解。子どもたちは、頭の中でそろばんをはじく様子を思い浮かべながら計算しているのだそうです。
教室に通う中学1年生の奥村紗菜さんは「いろんな大会に出て大きい賞をたくさん獲ることが目標です」、小学6年生の山本新太さんは「難しい問題が解けたり大会でいい結果を出せたりすると達成感があります」と話してくれました。
子どもたち自身が成長を実感する
開校1年目から教室に通い続ける高校生たちは、自分自身の成長においてもそろばんの効果を実感しています。高校2年生の杉本果稔さんと三上明葵さんは、そろばんで自身が成長したこととして集中力を挙げてくれました。また、高校3年生の東原吏伯さんは、競い合う中で能力と自信が養われてきたと感じているそうです。
珠算競技大会に向けてのトレーニング
日曜日の教室では、大会に向けての練習が行われていました。スピードと正確さを追い求める珠算競技のトレーニングに、子どもたちは夢中で取り組みます。教室の一角には数多くのトロフィーが飾られています。そろばんマイスタースクールは全国珠算教育連盟が主催する大会で過去に3連覇を達成、また中部地方の大会では4連覇中と、圧倒的な成績を誇っているのです。
努力が結果に結びつく喜び
個人で何度も日本一を獲得している、中学3年生の大辻悠仁さん(※「辻」の字は、しんにょうの点が一つ)に、大会などを通じて高みを目指す理由を聞いてみると、「全国のライバルと戦って、勝つということが楽しいです。勝負の楽しさを人一倍わかっているので、これから先にもいかしていきたいです」と話してくれました。大会での成績や段位の取得などを通じて、子どもたちは自信をつけていくことができるようです。
子どもたちがたくましく生きるために
遠山さんは「そろばんは結果が点数でわかりやすく表れます。そろばんを通じて、『努力すれば結果が出る』ということを子どもたちに伝えていきたいと思っています」と、語ってくれました。
パソコンやスマホの普及によるデジタル時代において、そろばんは実務から教育の一環としての価値を見出しました。そろばんを通じて育まれるさまざまな力は、子どもたちが生きる今後の社会でますます必要になっていくのかもしれません。
(取材・撮影:リンドワークス /リライト:石川玲子 2024年5月取材)
そろばんマイスタースクール
住所:愛知県知立市東上重原6丁目32-2
公式サイト
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