全国有数の農業産出量を誇る愛知県ですが、農業従事者の高齢化、人手不足が深刻な問題となっています。そこで注目を集めている「農福連携」とは、農業と福祉を掛け合わせ、障がいがある人が農業の分野で活躍し、生きがいを持って社会参画するとともに、働き手の確保にもつながる取り組みです。今回は、地元企業3社が協力することで実現した農福連携で、新たな地域の未来を作り出そうとする姿を取材しました。
三菜果農園のミニトマトハウス
愛知県刈谷市にある三菜果農園のハウスの中に入ってみると、きれいに整備されたハウスには色鮮やかなミニトマトがたくさん。しかし、普通のハウスとは、少し違うところがあるようです。ミニトマトは、苗が袋に入れられて栽培されているのです。この農園を運営している、刈谷市の三和油化工業株式会社 柳至さんが説明してくれました。「育てた苗を、必要な肥料が入っているこのバッグに植えます。ですので、この袋にチューブを通して定期的に水をやっていくだけでしっかりと育っていく、という栽培方法です」
メリットが多いバッグ栽培
採用しているのは、「バッグ栽培」と呼ばれる、苗を袋に入れて栽培する方法です。「土に直接植えず独立したバッグで栽培するので、青枯病などの病害菌の影響を受けにくいという利点があります」と、柳さんはこの栽培方法のメリットを話してくれました。一般的な畑とは違い、土壌病害の発生・伝染を防ぎ、安定した栽培ができるのだといいます。
農園を運営する三和油化工業
この農園を運営しているのは、産業廃棄物を再資源化する事業を行う、刈谷市の三和油化工業株式会社。一見、農業とは関わりがないように見える三和油化工業が農園を運営している理由を柳さんにうかがいました。「我々のプラントを活かして、産業廃棄物から再生品を作ることが会社の主軸です。その中で大事な商品の一つとして、リン酸を再生して販売する事業を行っています。事業を行っていく中で再生リン酸を肥料にできるのではないかと考えたのがきっかけです」
リン酸をリサイクルし、肥料に
三和油化工業では液晶や半導体の製造過程で発生するリン酸を分離回収し、再生リン酸として取り出しています。リン酸は農作物の肥料の原材料としても使われており、三和油化工業でも再生リン酸を使った肥料づくりを行っています。現在はこの再生リン酸を含んだ肥料を使い、自社の工場で食用の花であるエディブルフラワーの生産、販売を開始しています。より良い肥料を作るために、本格的に農作物を自分たちで育ててみようと始めたのが、このミニトマト農園です。
新しい分野への挑戦
柳さんは、自分たちで実際に農業をやって、農業を理解していないと実際に使える肥料は作れないと考えたといいます。しかしその時はまだ、農業は全くの未経験でした。そこで協力を仰いだのが、同じ刈谷市で農業を営む川上農園です。川上農園の川上充士さんは「美味しいものができても、経営が成り立たないとやっていけないと思うので、美味しいものを作りながら、十分な量も収穫するというのが、難しいポイントですね」
一年を通して地元のミニトマトを
川上さんは年間で約20トンのミニトマトを栽培しています。大量のミニトマトを生産する一方で、バッグ栽培の特性を活かして、甘くてうま味のあるミニトマトを作っています。「夏場は愛知県産のミニトマトがほぼなくなります。地場産の方がスーパーさんも喜びますので、美味しいミニトマトを一年中出したいです」と川上さんは語ってくれました。ミニトマトを栽培するうえで重要なのは水の量や肥料の管理です。バッグ栽培では袋ごとに細かく管理ができるため、一年中美味しいミニトマトが生産できるのです。
さらなる連携
農業経験のない三和油化工業は川上農園からバッグ栽培のノウハウを学び、安定した生産量と美味しさを両立したミニトマトの栽培を始めました。そしてさらに生まれた新たなつながりについて、柳さんに教えてもらいました。「バッグ栽培は農作業を細分化できて、しかもその作業は簡易的です。1年を通しての生産も計画立ててできる栽培方法なんです。これは障がい者の方たちにも向いている環境だということで、地元で障がい者の就労支援をしている団体に声をかけさせてもらったところ、パンドラの会さんが手を挙げてくれました」
パンドラの会と連携へ
ミニトマトの管理を障害のある人たちに任せることで、新たな雇用を生むことができないか。この農福連携の取り組みに対して名乗りをあげたのは、刈谷市で障がい者の就労や自立の支援を行う、認定NPO法人パンドラの会でした。なぜ連携を決めたのか、パンドラの会の坂口伊久磨理事長にうかがいました。「本気で商売としても農業をやっていきたい、そして地域貢献もしたいという思いを聞いて、共感しました。こちらが障害のある方の仕事の話をした際には、『双方がwin-winになるようにやっていきましょう』と言ってもらい、その場でぜひやりましょうと答えました」
農業をきっかけに一般就労にもつなげたい
いい意味で常識を変えていきたい、と坂口理事長は語ります。「一般的な就労継続支援B型事業所で1ヵ月働いて得られる収入というのは、全国平均で1万6千円ととても低いんです。自立には程遠い金額です。三和油化工業さんと川上農園さんと一緒にやることで、うちに通っている方が質の良いものを作ると企業の利益になり、払える工賃も多くなると見込んでいます」農業をきっかけに、一般就労にもつなげていきたいと考えているそうです。現在は5名がパンドラの会を通じて、この農園で掃除や収穫など様々な仕事を行なっています。
障がい者の自立を目指して
この取り組みが、障がい者の雇用の創出、工賃の向上、さらには障がい者の自立につながっていきます。「彼らのやりがいにもつながりますし、仕事の機会を提供することで、皆さんに、働く力や自立する力が確実についてくると思っています。そこに農業という選択肢を作ることで、希望を持っていただけたらと思っています」と、坂口理事長は話してくれました。
農福連携で地域の課題を解決していく
2024年3月31日に、実ったミニトマトを地域の人にふるまうトマト祭りが開催されました。参加した地域の人たちは、「甘くてみずみずしくて、美味しい」「甘い」「すごく美味しい」と三菜果農園のミニトマトを味わいました。今後、三菜果農園のブランドとして販売を広げていく予定です。地元三社の農福連携の取り組みは、地域の様々な社会課題を解決する一つのキーワードになりそうです。
(取材・撮影:PAQLA /リライト:石川玲子 2024年3月取材)
三菜果農園
三和油化工業
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