愛知県碧南市植出町で畳の製造と畳の材料の卸を行う浅井商店は、保育現場などで、マットのように使う置き畳を新たに開発しました。この商品は自由に着脱可能で、メンテナンスや衛生管理に優れています。そんな畳の新たな需要を開拓する、浅井商店のTammy Mat(タミーマット)をご紹介します。
畳業界の現状と需要の開拓
畳の表面に張る畳表の国内生産量は、1996年と比較して17分の1にまで減少。一時急増した輸入品も、減少の一途を辿っています。需要が減り続ける畳業界で、いま注目を集めているのが置き畳です。
碧南市の浅井商店は幕末から畳を製造し、今は県下の畳屋に材料も卸しています。
浅井商店が開発した5色のTammy Mat。そのうち2種類はデニム生地で、溶接作業に使うエプロンの生地を使用し、火や熱にも強く、耐久性も抜群です。クラウドファンディングサービスサイトMakuakeで目標額の867%達成の実績をあげました。
保育現場で使う置き畳の開発へ
畳は、藺草(いぐさ)で織った畳表を、稲わらで作った畳床に縫い合わせて作ります。近年は木質チップなどの天然素材を組み合わせた畳床が主流で、10年以上使用された畳も、畳表を張り替えれば新しさを取り戻します。畳の需要減少に対応しようと開発を進めたのが、Tammy Matでした。きっかけは、代表取締役の浅井泰勝さん自身の子育て経験にありました。
「娘が生まれたときのアパートには畳がなくて、フローリングの床で遊ばせておくわけにはいかなかったので、何か敷くものが必要でした。保育園から置き畳の依頼を受けたとき、当時を思い出して開発しようと思いました」
子どもの生活と畳
安城市今池町の子宝保育園が、浅井さんにTammy Matの開発を呼びかけました。
「保育園で生活する中で、子どもたちはどうしてもおしっこを漏らしたり食べ物をこぼしたりすることがあります。そういう時に水洗いができるといいなと思い、相談させていただきました」と、園長の田中篤樹さんは話します。
「tummy」とは英語でお腹を表し、赤ちゃんが腹ばいで動き回ることで、成長を促す効果もあるマット、という意味も込められています。
Tammy Matの高い機能性
Tammy Matは、ケナフやヤシ等の天然繊維から作られた畳床を、ポリエステルの不織布で挟み、デニム生地を貼っています。畳床の厚みは12ミリですが、畳と同程度の弾力性や断熱性、湿度調節機能や吸音機能を実現しました。表面のデニム生地は、抗ウイルス性能や消臭機能、防炎性能を備え、防炎認定も取得済みです。さらに熱で溶かした樹脂を吹き付けて生地を接着するため、溶剤などを一切使用していないので人体にも安全です。
保育園の先生たちから、どうしても敷物は汚れが付くということを聞き、なるべく簡単に汚れが取れるような加工を施そうと決めたそうです。
その製法は3月に特許取得も
表面のデニムは、不織布としっかり貼り合わせてあるため、耐久性にも優れています。
浅井さんは
「子どもたちが動いてもずれない素材を探すのに苦労しました。軽くて楽に持ち運んだりしまったりできることも考えました。最近の畳はバリアフリー化のために薄くなってきていましたので、その新しい加工技術を応用して、製作が可能になりました」と開発を振り返ります。
裏側の滑り止めは、何度でも剥がせて床面を傷める心配もありません。高い機能性を誇る Tammy Matは、3月に製法特許を取得しました。
Tammy Matの上でのびのびと遊ぶ子どもたち
さらなる保育現場での実用性検証のため、浅井さんは碧南市に Tammy Matを寄付。
碧南市末広町の天道保育園を訪問し、保育士に使い方を説明しました。
実際に保育士が設置したTammy Matの上で、子どもたちはのびのび遊んでいました。
この様子を見た天道保育園の金原恭子園長に話を聞きました。
「保育園では掃除も頻繁に行わなければならないのですが、敷きやすくて取り扱いが楽で、掃除がとてもやりやすいそうです」
畳の可能性をさらに広げる
浅井商店の Tammy Matは、自社のサイトでも販売を始めました。浅井さんに今後はどんな展開を考えているのかうかがうと、
「従来の藺草(いぐさ)を使った畳の良さも受け継ぎながら、洋風の家屋にも合うような新しい畳の用途をぜひ皆さんに知っていただきたいです。日本の畳は、新しい展開がまだまだあること、畳は生活に根付いているものなんだということを感じてほしいです」と、語ってくれました。
需要の減少が続く畳業界で、新たな市場を開拓しようと浅井商店が開発した Tammy Matは、保育の現場を皮切りに子育て家庭などへの普及を目指しています。
(取材・撮影:オフィスげんぞう/文:石川玲子 2024年3月取材)
Tammy Mat
詳しくはTammy Mat公式サイトをご確認ください。
株式会社 浅井商店
住所:愛知県碧南市植出町3-22
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