現在、日本では少子高齢化が進み、介護現場の人手不足が深刻な問題になっています。厚生労働省の試算では、2019年度には介護現場に約211万人必要とされていた介護職員が、2025年度には約243万人、さらに2040年度には、約280万人必要になると推計されています。
そんな中、介護の現場で欠かせない存在となってきているのが外国人労働者です。
今回は、安心して働ける環境作りを目指す愛知県安城市の高齢者福祉施設「小川の里」と、そこで働く外国人労働者の今をお伝えします。
欠かせない存在となっている外国人労働者
安城市にある高齢者福祉施設「小川の里」では、人手不足の解消に向け2018年から技能実習生の受け入れを始め、今では、技能実習生と特定技能外国人、合わせて9人が働いています。
「介護職はやはり、まだまだ人が足りていない状況だ」と話す施設長の沖田貴之さん。
今は外国人労働者の存在を「とても心強い」といいます。しかし受入れ当初は戸惑いもありました。「当初は介護施設で外国人が働くということに、私も含め少し抵抗があったのは事実です。ただ実際に一緒に働き始めてみると日本人と変わらない。みなさん明るく素直に、謙虚に利用者に関わっています」
技能実習生と特定技能実習生
技能実習と特定技能は、どちらも日本で活動するための在留資格で「外国人を企業で受け入れる」点では同じですが、受入れの目的が異なります。
技能実習は、給料をもらいながら 日本の技術を学び、習得した知識や技術を母国に広めるという、国際貢献を目的にしています。特定技能は、介護や建設など人材不足に悩む特定の業種に専門知識や技術をもつ外国人を受け入れ、日本人の正社員と同じ水準の給与で働き、その業種の安定や発展を目的とした在留資格です。在留期間や働き方などが異なりますが、条件を満たせば、技能実習から特定技能へ移行することもできます。
安心して長く働いてもらうために
ベトナムから来日して5年目になるグエン・ティ・ニュンさん。技能実習生として、介護の知識や技術、日本語を学び、今では特定技能へ移行して利用者の生活全般をケアしています。
「毎日仕事が楽しいし、みんな親切です。日本に来た時は日本語が上手に出来ないし、文化も違って戸惑うこともありましたが、施設のみんなが親切に教えてくれたから大丈夫でした」と話すニュンさん。
ニュンさんのような人材に安心して長く働いてもらうため、小川の里では、歩いて3分ほどのところに社員宿舎「希望安城」を建てました。今は、技能実習生など8人が入居しています。
社員宿舎で生活面でも安心してほしい
来日して5年目になる特定技能外国人、ヴォ・ホアン・イエン・ニーさん。介護福祉士の資格取得を目指すニーさんは、新しい宿舎が気に入ったようです。「前は自転車で15分くらいかかるところに住んでいました。ここは便利で嬉しいです。」
社員宿舎について沖田さんは、
「アパートを借りようとしても、外国人だと貸してもらえないこともあります。アパートを借り上げて、施設の寮で使おうとしても難しい状態でした。慣れない日本で生活するのは不安があると思うので、生活面でも、働くという意味でも、寮の方が安心して生活できるかと思いました」と話します。
長く働いてもらうために日本語習得支援も
チャン・フイン・ズエンさんとフイン・ティ・アイ・イエンさんは、2月から小川の里で技能実習生として働いています。2人は、ニーさんのいとこで、ベトナムにいるときから施設の話を聞き、介護の仕事を始めました。今は、ニーさんから日本語や生活習慣を学んでいます。小川の里で働く技能実習生は、日本語習得のために日記をつけています。
その理由を沖田さんは、次のように話します。
「一番の目的は、日本語を覚える、書くということ。彼女らの不安や悩みをくみとれるという目的もあります。N3という日本語の資格を取るまでは続けようと取り組んでいます」
日本で働くために必要な日本語の習得
日本語の習得は、日常の仕事だけではなく日本で長く働くためにも欠かせません。技能実習生の在留期間は最大で5年、特定技能に移行した場合でも、プラス5年。最大10年で帰国しなければなりません。
国家資格である介護福祉士をとると、日本での在留期間に上限が無くなり、長く働けるようになります。日本語で行われる介護福祉士の試験に合格するためには、日本語の習得が必要なのです。
もっと日本で働きたい 資格取得のための支援
小川の里では、もっと長く日本で働きたい、スキルを磨きたいと考える外国人労働者のために、介護福祉士の取得支援も行っています
「介護福祉士の過去問題集をアプリで勉強できるものを施設で用意して、何とか彼女たちが目指す介護福祉士に合格できるようにサポートしたいなと思います。それは、新しく入ってきた若い技能実習生、特定技能外国人の人たちにとっても目標になりますし、今、母国にいる他の人たちも日本に来るとこういう将来があるんだっていう、夢が描けるようにきればと思っています」と沖田さんは語ります。
外国人労働者が安心して働ける環境を目指し
いま、外国人労働者を取り巻く環境が大きく変わりつつある日本。スキルアップし、戦力となった人材に長く働いてもらうための模索は続いています。
「どの産業も人手不足なので、介護のやりがいや楽しさを伝えなければ、人は集まりません。今はベトナム人が多いのですが、ベトナムも景気が良くなり、収入も高くなっているので、円安の日本の賃金にいつまで魅力をもってもらえるか、不安もあります。施設では、さまざまな処遇を考え、働きやすい職場づくりをするなど、これから、介護に興味のあり意欲のある外国人と働くのは、必要になると思います」
(取材・撮影:ビデオハウス /文:石川玲子 2024年2月取材)
高齢者福祉施設 小川の里
住所:愛知県安城市小川町三ッ塚1-1
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