東日本大震災から13年。2024年は元日に能登半島地震も発生しました。
東日本大震災の避難所では、間仕切りはなく、大勢が同じ空間で寝起きしています。住民は大きなストレスを抱えるだけでなく、こうした避難所では、実際に看過できない事態である、性被害も発生しているのです。
愛知県西尾市に住み、こども女性ネット東海などで活動している高須ゆき江さんは、女性目線で避難所のあり方を考えると、必要な物資や場所などが見えてくると言います。今回は女性のための防災について考えます。
※高須さんの「高」の正式表記ははしごだか
自宅には備蓄品、有事の時は小規模避難所に
西尾市に住む高須ゆき江さんを訪ねました。自宅の敷地内には、誰でも気軽に集えるようにという思いでつくられた部屋が。
壁一面の収納には、防災用の備蓄品がぎっしり詰まっています。いざという時には、小規模避難所として知人らに使ってもらえるよう整えているそうです。
講習会など様々な活動を行ってきた高須さん
高須さんが防災に関心を持つようになったきっかけは、西尾市と合併前の一色町で、一色町女性の会に参加したことです。一色町女性の会は、赤十字奉仕団としての活動も含まれていて、そこで防災について学ぶ機会が増えていったそうです。
12年ほど前からは一色町商工会の女性部に参加し、女性に防災意識を高めてもらうため講習会など様々な活動を行ってきました。
避難所スタッフに女性を配置することが重要
そんな高須さん、災害時の避難所でたびたび問題となる、女性や子どもへの性被害に心を痛めてきました。不同意性交や身体を触る、着替えを除く、授乳を凝視するなどの性被害が実際に避難所で起きています。こうした被害を未然に防ぐためには、女性用の更衣室や授乳室、男女別のトイレ、パーテーションの設置などが有効となります。
そして、女性に配慮した避難所にするためには、避難所のスタッフに女性を配置することが非常に重要だと言います。
災害時、女性に寄り添えるように
これまで活動を通して、女性に必要な防災を訴えてきた高須さんは、避難所運営のスタッフに女性を配置する重要性について、
「女性の運営スタッフが一人いるだけで、声がかけやすくなると思います。下着や生理用品などのことは、男性には言いにくいと感じる人もいる。避難所で女性たちが何を望んでいるのかを、寄り添って聞くことができます」と語ってくれました。
「防災サロン」で災害関連死予防を考える
高須さんは自宅に知人を招いて、防災について語り合う「防災サロン」を開いています。お茶やお菓子も用意し、楽しい雰囲気の中で気軽に学んでもらいます。
この日のテーマは、災害関連死の予防です。災害関連死とは、災害後の避難生活などで命を落とすことを指します。2016年に発生した熊本地震では、地震による直接死の4倍以上にのぼりました。災害関連死の死因の中で最も多かったのが誤嚥性肺炎を含む呼吸器系の疾患でした。十分な口腔ケアができず、口の中に増えた細菌を唾液と一緒に飲み込んでしまうことで誤嚥性肺炎につながることもあります。
少量の水でも歯みがきができる
水道が使えない中、口腔ケアは難しいと思われがちです。しかし高須さんは少量の水でも歯みがきはできると言います。この日の「防災サロン」では、歯ブラシに歯磨き粉をつけずに歯を磨き、少量の水を2回に分けて口の中をすすぐという方法をレクチャーしました。
その他にも、段ボールとビニール袋、ペット用のトイレシートで簡単にできる簡易トイレの作り方を紹介しました。
ハンドマッサージの普及を
そして、高須さんが普及に力を入れているのが、避難所で行うと効果的なハンドマッサージです。血行が良くなるだけでなく手と手の触れ合いで、癒しの効果もあるそうです。
言えない思いを抱えていたり我慢したりしている被災者が、心の内をリラックスして吐き出すのに効果的だと言います。
防災リーダーの手前の人を育てる
この日の防災サロンに参加した人に感想を聞きました。
「濃い内容で、ためになりました。家に帰ってまたやろうと思います」
「普通の防災講座と違って、こうやって近くで話し合いながら楽しくできてよかったです」
高須さんは、「防災リーダーになりましょうと言っても、それは…と考えてしまうかもしれませんが、少しでも知識を持っている人は、いざとなったら動けると思うんです。リーダーの手前の人を育てていきたいと思います」
事前に知識を身につけることが大切
その他にも、「個人的におすすめするのは、使い古した下着や靴下を自分用の防災用品にすることです。使い捨てにもできますし、避難所に送られてきた支援物資に、合うサイズがないかもしれませんから」と話す高須さん。様々なことを教えてくれました。
南海トラフ巨大地震が発生すれば多くの人が避難所での集団生活を余儀なくされます。いざという時のために事前に知識を身につけ、備えを行っておけば、避難所でのストレスを軽減できるかもしれません。みなさんも女性のための防災について考えてみませんか。
(取材・撮影:映像舎/文:石川玲子 2024年2月取材
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