創業40年のひな人形製造元、碧南人形。創業当時は玩具用の人形を製造販売し、37年ほど前からひな人形を作っています。
そんな碧南人形が手がけているのが、箪笥にしまってある思い出の帯をひな人形に生まれ変わらせるリメイクです。祖母の形見や母親が成人式で身につけた思い出の帯などを、ひな人形にする。思い出の帯を、世界にたったひとつのひな人形に蘇らせる、碧南人形の取り組みを取材しました。
リメイクのきっかけはお客さんの声から
ひな人形のリメイクは、子どもや孫のためにと注文する人も多いそうですが、それだけではないと碧南人形 代表取締役の足達孝篤(人形師・平安天鳳)さんは話します。
「年配の方が自分のために注文することも増えています。70~80歳くらいの人が生まれたころは、戦後復興の時期で、ひな人形を買ってもらえなかったという人も多いのです」
35年前から始まったリメイクは、お客さんからの声がきっかけでした。
「思い出のある帯をひな人形にできないかと相談があり、作り始めました。できあがった人形を見て、感動してくれたので、続けてみることにしたのです」
持ち主の思い出が詰まった帯を大切に
作業するのは、9人の職人です。職人の杉崎里美さんに作業の心構えについて聞きました。
「これまで大事にしてきた帯を使って、お孫様を守ってくれるおひな様にするので、丁寧に、喜んでもらえるようにと作業しています」
帯でのひな人形づくりは、帯の裁断から始まります。帯の状態から糸をほどき裏地を取り除くだけで半日。そこから、型紙で型をとるのにさらに半日かかるそうです。
職人の永坂あけみさんはこのように説明してくれました。
「帯の中でも、いい柄が出る場所を選んで型を取ります。どうやったらきれいに見えるか、パズルのようです」
※杉崎さんの「崎」の正式表記は立つ崎(たつさき)
世界で1つだけのひな人形
帯を使うのは、おひな様の「唐衣(からぎぬ)」とお内裏様の「縫腋袍(ほうえきのほう)」とよばれる一番外側に着せる着物です。ここには、帯の中でも最も柄のいい部分を選びます。また、唐衣以外の着物の色やおひな様の顔、大きさなども、依頼者のイメージに合うよう相談して決めるため、世界にひとつのおひな様が出来上がります。
永坂さんは、お客さまの思い出の帯にはさみを入れる瞬間は、毎回緊張すると話します。カットされた帯は縫製を経て、着せ付けの作業に。碧南人形のおひな様は、平安時代より受け継がれてきた宮中装束を忠実に再現しています。
価値あるものに生まれ変わらせる
一般販売のひな人形よりも手間ひまがかかるという、リメイクのひな人形。碧南人形には全国から注文が入り、年間15組ほど製作しているそうです。
嫁入り道具の帯だけでなく、祖母の形見や母親から受け継いだものなど、いろいろな思い出が詰まった帯が持ち込まれるそうです。さらに、着物やスカーフで依頼されることもあるそうです。
「昔は桐の箪笥に着物と帯を入れ、嫁入り道具として持っていったものです。着物や帯をそのまま箪笥に眠らせるのではなく、いかせるようにしたいと思っています」
結婚式で身につけた帯を孫のために
完成したリメイクのひな人形をお届けするということで、取材班も同行。
杉浦明美さんは、娘に女の子が生まれたのをきっかけに息子の結婚式に身に付けた帯で、リメイクひな人形の製作を依頼しました。「留袖の黒色が帯に移って使えなくなり、捨てるのももったいないのでしまってあったんです」と杉浦さん。
完成したひな人形を見て「これを孫にあげられるのが嬉しいです」と喜んでいました。後日、ひな人形を届けたところ、娘さんも喜び、さっそく飾り付けたそう。おばあちゃんの大事な帯でつくったひな人形は、お孫さんもきっと大事にしてくれることでしょう。
リメイクのひな人形に感謝の手紙も
心のこもったひな人形に、たくさんのお礼の手紙が全国から届いています。足達さんは、「どのお客さまも、できあがったものをお見せすると感動してくれるので、この取り組みをやってよかったと思います。これからもお客さまの喜ぶものを提供していきたいです」と話します。
SDGsという言葉が広まるずっと前から日本に根付いていた「もったいない」という精神。もったいないとしまってあったものを価値あるものに生まれ変わらせる碧南人形のリメイクひな人形は、それぞれの帯に込められた大切な思い出と一緒に子や孫の代に引き継がれていきます。
(取材・撮影:映像舎/文:石川玲子 2024年2月取材)
天鳳堂 碧南人形
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