愛知県知立市にある名鉄・知立駅では、渋滞緩和を目的に、いま100年に一度の開発が進んでいます。10か所の踏切をなくし、2027年度には名古屋本線と三河線がすべて高架化され、2028年度には知立駅前周辺の工事も完了する計画です。
この開発に伴い、2024年3月に三河知立駅が移設され、現在使われている駅舎はなくなります。無人駅である三河知立駅を愛する人たちの想い、そして、次の時代へ踏み出す地域の今を、知立市出身の漫画家、ウノ・カマキリさんの活動を通して見つめます。
長年愛されてきた無人駅・三河知立駅
2024年3月に愛知県豊田市方面へ約900mの位置に移設される名鉄・三河知立駅。それに伴い、無人駅ではあるものの、地元の人たちに長年愛されてきた現在の駅舎はなくなります。1915 年に初代・知立駅として開業して以来、109 年間に渡り地域の玄関口と親しまれてきた歴史ある三河知立駅。
今回の駅舎の移設について、知立市都市整備部の竹内駿太さんは、「移設によって、知立市北部地域の鉄道の利便性が大きく向上する効果が期待されます。現在の駅舎のように、これからも地域に愛される駅になることを目指しています」と話してくれました。
三河知立駅を愛する漫画家
2024年2月、移設を直前に控えた三河知立駅の駅舎の掲示板には、漫画の作品が展示されていました。知立市出身の漫画家、ウノ・カマキリさんの作品です。
ウノさんは世相を表したユーモア溢れる1コマ漫画を長年手がけていて、知立市のご当地ソングにもなっている「知立(ちりゅう)は知立(ともだち)」という言葉の生みの親でもあります。いまから約30年前に、三河知立駅の掲示板を使って漫画展を行うようになりました。そのきっかけは、上京していたウノさんが、久しぶりに訪れた三河知立駅を見て寂しく感じたからだといいます。
「地元を大事にしたいんです。出身地というのは一生変わらないものです。だから、久しぶりに三河知立駅を見た時に、絵の展示をしたいと思いました。東京のアトリエから、毎週絵を送り駅に展示してもらうようになりました。絵が盗まれても、落書きされてもいいからとお願いしたんです」と話す、ウノさん。
小学校時代を三河知立駅周辺で過ごしたからこそ、地元を離れても思い出すことができるのだと、嬉しそうに教えてくれました。
それぞれの思い出を胸に、新たな町へ
ウノさんが、東京から地元に帰ると、ウノさんを慕って、いまでも当時の同級生たちが食事会を開いてくれるといいます。
この日、開催された食事会で話題に上がったのは三河知立駅の思い出。かつての駅の様子や、新しく変わる街への想いについて、みなさんに伺うと、「思い出のある三河知立駅がなくなってしまうのは寂しいですが、古いところも大切にしつつ新しい街を楽しみにしたいなと思います」「ウノさんのおかげで三河知立駅が注目されました。新しくなっても、街を盛り上げたいですね」などと、話してくれました。
世代を超えてつながる、駅への想い
2024年2月11日、まもなく無くなる三河知立駅駅に感謝を伝えるためにセレモニーイベントが行われました。特別列車の運行と合わせて、名古屋鉄道の車両に飾られたのは、地元の子どもたちが描いた三河知立駅や列車の絵です。また、知立市図書館のロビーにも、車両に飾りきれなかったたくさんの絵が展示されています。
それらの絵を感慨深い目で眺めるウノさん。かつての自分たちのように、子どもたちに愛される駅であるように願ったウノさんの思いは受け継がれています。
大事なのは記憶。新駅舎に想いを込めて
ウノさんに三河知立駅が移設するのは寂しいですかと訊ねると、「寂しいけれど思い出は残ります。大事なのは記録じゃなくて記憶ですね。見えなくても頭に浮かびますから。新駅舎も私たちの使い方によっては、夢がいっぱいあるじゃない。新しい三河知立駅での思い出を、これからの子どもたちに作っていってほしいです」と語ってくれました。
思い出の駅舎との別れを惜しみつつも、次の世代に想いを託し、いよいよ2024年3月16日に新しい三河知立駅が誕生します。(取材・撮影:PAQLA/文:石川玲子 2024年2月取材)
名古屋鉄道 三河知立駅(新駅舎)
2024年3月16日の始発列車から、新たな駅舎での営業を開始。
新駅舎には、駅集中管理システムが導入され、自動改札機、自動券売機、インターホンも設置。※移設に伴い、これまで使用されていた三河知立駅(知立市新地町吉良道東14番地5)は、営業を終了。
住所:愛知県知立市山町茶碓山 地内
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