高熱で溶かした金属を、型に流し込んでつくる鋳物。車のエンジンやトランスミッションなど、駆動系を中心に、鋳造部品が数多く採用されています。
EV化によって100年に一度と言われる変革期を迎えている自動車業界。今回は、愛知県西尾市の自動車部品メーカーで始まった鋳物の新たな取り組み「ritakobo」に注目します。
自動車部品の生産に欠かせない鋳物
鋳物は、高熱で溶かした金属を、型に流し込んで冷やし固める加工方法です。複雑な形状の部品を大量生産できるため、車のエンジンやトランスミッションなど、駆動系を中心に、自動車部品の生産には欠かせないものでした。
西尾市鳥羽町の自動車部品メーカー、イナテックは、車のトランスミッション部品の精密切削を得意としています。切削加工の会社が、最終仕上げまでの一貫生産体制を目指し、鋳造にまで手を広げることは非常に珍しいことです。
変革期を迎えている自動車業界
あらかじめ製品を象った木型をつくり、そこに砂を入れて型を取り、溶かした金属を流し込んでつくる鋳物。複雑な形状の部品を大量生産できる鋳造は、これまで自動車部品の生産には欠かせないものでした。
しかし自動車業界はEV 化によって、100年に一度といわれる変革期を迎えています。エンジンやトランスミッションが不要になり、鋳造部品の需要は、大きく減少すると予測されています。
イナテックの新規事業「ritakobo」
そこで、イナテック代表取締役社長の稲垣良次さんは、鋳造の将来を変えたいと、ある取り組みを始めました。それが新規事業のritakoboです。愛知教育大学で金属工芸を専攻した加藤沙弥香さんと、堀井諒さんの2人が運営しています。
イナテックの工場内にあるritakoboでは、2人が作ったアクセサリーや小物を、インターネットで販売するほか、鋳造体験を開催したり、社外へも出かけてワークショップを実施したりしています。
鋳物の新たな取り組み
稲垣さんにritakoboをはじめた理由について聞きました。
「ドイツの鋳物フェアに行った際、鋳造ブースが小学生などでにぎわっていたのを見たのがきっかけです。日本の展示会では切削が主体ですが、ドイツでは鋳造が人気で、型を作ることからはじまり、ものができるということで、みんなでわいわい楽しそうでした。鋳物は大きな設備やノウハウが必要なため大変で、鋳造に関わる仕事はキツい、大変というイメージを持たれがちです」
しかし、そのような中で生き残るためにも、BtoC(個人を対象にしたビジネス)を目指して、お客さんの顔を見て働きがいを見つけながら取り組みたいと考えたと言います。
鋳造ワークショップを開催して
ritakoboの加藤さんは活動についてこう語ります。
「鋳造体験を通して、普段は職人さんしか見られない景色を見ることができます。たとえば溶けた金属自体、普通はあまり見ることがありません。みなさん興味津々で、これをおたまで自分で扱って、ゼロから自分でつくるという過程を楽しんでくれていると思っています」
堀井さんはこう言います。
「小さい子もお年寄りも体験してくれます。小さい子は砂を詰めるのが楽しいし、大人は金属を流し込んで、それが形になるのを楽しんでくれます。最後、仕上げまでして『自分のもの』として持って帰ってもらう取り組みです」
「ritakobo」名前の由来は…
ところでなぜ「ritakobo」と命名したのでしょうか。稲垣さんに聞きました。
「企業理念の中にもありますが、相手のため、社員のため、家族、地域のために尽くすと、自分の成長につながる、自分に返ってくる。そんな思いを込めて、利他の心から利他工房と名付けました」
地元の小学校で鋳造体験
ritakoboでは、西尾市鋳物工業協同組合と協力し、子どもたちを対象にしたワークショップも開催しました。この日は西尾市の平坂小学校に出かけ、5年生に鋳造体験と、鋳物に関するレクチャーを行いました。地元の伝統産業を体験して、どんな印象を持ったのか子どもたちに聞いてみました。
「さわってみたら熱くてやけどしそうだと思ったけど、すぐに固まりました」
「西尾は、うなぎと抹茶くらいしか有名じゃないと思ってたけど、鋳物も有名だと知りました」
新たな企画 つけペン「つつつ」
ritakobo では1月末に、クラウドファンディングのマクアケを通して新たなプロジェクトを始めました。「つつつ」と名付けた金属製のつけペンを企画。社内の高い切削加工技術を活かしてペン先をつくり、市内の大工さんに木製の柄をつくってもらいました。こうした新製品開発も、ritakobo が行う主力業務です。
「去年から企画していたのですが、ようやく形になりました。これからもものづくりの面白さを伝えられるような企画をしていきたいです」と加藤さん。
若い力で道を切り拓こうとするritakobo
堀井さんはこの取り組みの目標についてこう語ります。
「今は自分たちだけで商品をつくっているのですが、別事業の方ともコラボしてみたいです」
鋳造や切削といった、高い技術力を持つモノづくり企業が多いこの地域。しかし、多くの企業では、直接一般消費者に販売できる商品がありません。従来の業務とは別に、若い力で道を切り拓こうとするritakobo の取り組みは、今、注目を集めているのです。
(取材・撮影:オフィスげんぞう/文:石川玲子 2024年1月取材)
ritakobo
住所:愛知県西尾市鳥羽町大入20-1(株式会社イナテック内)
株式会社イナテック
住所:愛知県西尾市鳥羽町大入20-1
電話:0563-62-6388(代表)
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