古くから鋳物産業が盛んな愛知県西尾市。それに伴って、鋳物製品の空洞部分をつくるための砂でできた型「中子」の製造会社も多くあります。しかし、この「中子」と呼ばれる型は、鋳物を作り上げると不要となり、ほとんどが1回の使用で産廃として処理されています。
そんななか、この廃棄砂を譲り受け、植物用の鉢に生まれ変わらせる取り組みをはじめた企業があります。今回は、廃棄砂をアップサイクルし、オシャレな植物用の鉢を製造する西尾市の株式会社SRサービスの取り組みを取材しました。
中子を製造する株式会社SRサービス
西尾市吉良町にある中子製造業者「株式会社SRサービス」は、循環型社会を目指し、砂のリサイクルに力を入れていくことを目的に、2006年に創業しました。
中子とは、鋳物製品の空洞部分をつくるための型で、砂を樹脂で固めて作られます。SRサービスでは中子のなかでも手作業で砂を型に詰め込む「手込み中子」をメインに製造してきました。
しかし、この中子を製造する上で使用する砂は、鋳物を製造後、多くが廃棄されていて、鋳物業者にとってその廃棄コストが課題となっていました。
そこでSRサービスが目をつけたのは、この廃棄砂のアップサイクルです。
廃棄砂を植物用の鉢にアップサイクル
廃棄砂のアップサイクルに取り組もうと考えたきっかけについて、SRサービスの伴千寿樹代表取締役に伺うと、「鋳造業にとって使用済みの中子の廃棄コストが負担になっているなら、それを安くすることで鋳造業に協力できないかと考えました。そこで砂を捨てるのはもったいないと思い、アップサイクルに取り掛かりました」と、話してくれました。
そして、知り合いの園芸業者から植物鉢にしたら良いのではという提案があり、2013年から植物鉢の製造に取り掛かったということです。そして完成したのが、植物用の鉢「Su-Na(スーナ)」です。
職人たちの手作業で作られるSu-Na(スーナ)
Su-Na(スーナ)は、中子職人たちが一つひとつ手作業で作り上げます。2種類の樹脂を混ぜた砂を型に詰めて成型。その後、自然硬化して30分ほどで固まります。これにアクリルコーティングすれば、耐水性に優れた植物鉢の完成です。
中子職人の中嶋久弥さんは鉢づくりについて、「中子は、鋳物になったときにサラサラの砂に戻ってしまい、誰かの手元に残ることはありません。そういう点では、植木鉢は形に残って人に喜んでもらえるので、中子製作とは違うやりがいを感じます」と、話してくれました。
廃棄砂をアップサイクルした植物用の鉢Su-Na(スーナ)は、現在25種類ほどあるそうで、黒い鉢が、色とりどりの花や草を引き立て、ざらざらとした砂の質感が、陶器などとは一味違った風合いを醸し出します。
人気も高まっているそうで、現在はネットショップ「砂職人の店」で販売しています。
「砂職人の店」オンラインショップ
廃棄物を減らし、資源をムダにしない取組み
またSRサービスでは、Su-Na(スーナ)で使用する砂よりもさらに細かい「集塵ダスト」と呼ばれる砂を再利用した植木鉢も手掛け始めました。
「鋳造工場で使用する集塵機に集まった砂を集塵ダストと呼びます。集塵ダストは非常に細かい砂で、これに水を加えると粘土と同じような性質になることがわかりました。その性質を生かし、陶器と同じ製法で形をつくり、電気窯で焼き上げる鉢を作り始めました」と語る、代表取締役の伴さん。
これは、第三の粘土と呼べるぐらいの新しい発見ということで、ますます再利用が進み、廃棄砂をより減らすことができる可能性を秘めていると教えてくれました。
現在、SRサービスでは一か月に40から60トンほどの廃棄砂を再利用しているということで、今後も砂を固める技術を多くの人に知ってもらいたいといいます。
廃棄砂に付加価値をつけたSRサービスのアップサイクル。SRサービスでは、今後もさまざまな製品へのアップサイクルを模索し、SDGsへの取り組みを進めていきます。
(取材・撮影:映像舎/文:石川玲子 2023年12月取材)
株式会社SRサービス
愛知県西尾市吉良町に本社を置く、鋳物を造る際に必要な中子製造メーカー。
中子製造の技術を生かし、そのままでは使えなくなった砂などを加工することで、原料や製品として、必要なものに作り変える取り組みを行う。
住所:愛知県西尾市吉良町荻原早渡18番地
電話:0563-34-9121
「砂職人の店」オンラインショップ
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