コロナ禍をきっかけに働き方が変化する中、注目を集めているのが副業です。15歳から64歳の日本の生産年齢人口は、1995年をピークに減少が続いています。2017年には副業を持つ人が初めて全国で120万人を上回り、今後はその急増が予測されます。
2023年10月、愛知県の刈谷市は庁内副業制度を始めました。副業が法律で厳しく制限されている公務員ですが、そこにはどんな仕組みやねらいがあるのか、取材しました。
刈谷市で始まった庁内副業制度
刈谷市は2023年10月から課長補佐以下の職員を対象に庁内副業制度を開始しました。庁内副業制度を所管するのは企画政策課です。まずは副業人材を希望する部署が、具体的な業務内容を示し、企画政策課に提出。それを基に企画政策課が庁内に副業を公募し、希望する職員は、上司の許可を得てから応募します。その後、応募した職員と希望する部署との面談を経て、正式に副業開始となる仕組みです。
刈谷市の庁内副業は職員が働く時間の2割を上限とし、労働時間そのものは変わりません。そのため給与も変動しません。
業務の効率化や市民サービスの向上を目指す
刈谷市企画政策課 経営管理係長の池田陽一郎さんに、制度導入の理由を聞いてみました。
「参加する職員も、所属している部署とは別の業務に興味があったり、経験を積みたいなどの要望があったりするので、高いモチベーションで業務にあたることができることを期待し、このような取り組みを通し、業務の効率化や市民サービスの向上を目指しています」
副業でふるさと納税PR業務を行う
危機管理課主事の清水駿さんは、庁内副業制度で、ふるさと納税PRのためのチラシやWebページの企画・デザインを担当しています。パソコンを使う業務が一般化したことで、わざわざ副業先へ出向かず、自席で作業を行っています。
清水さんに庁内副業に応募した理由を聞きました。
「広報にいた経験から、Webページのデザインをこう変えたら見栄えが良くなるのでは、などと思っていました。ふるさと納税のページにはさまざまな視点が必要ですし、本来の業務と違う刺激を得ることで、本業の危機管理についても深く考えられるようになると感じました」
職員プロジェクトチーム制度
縦割り行政の弊害が指摘されるなか、こうした取り組みが始められたのには、刈谷市特有の環境がありました。そのひとつが職員プロジェクトチーム制度です。これは、市全体に関わる業務について、さまざまな部署の職員が希望して参加するものです。所属以外の業務を行い課題などに対して検討を行っています。
この日、市役所の一室では、刈谷市制75周年の機運を盛り上げるプロジェクトの会議が開かれていました。
制度導入のハードルを下げた理由
池田さんは、「所属以外の業務に関わる制度ができていたので、職場での理解の得やすさや導入のしやすさはあったと思います」と話します。
また刈谷市では、職員が座る席を特定しないフリーアドレスの導入や、市民や他部署の職員と気軽に打ち合わせることができるフリースペースを設けており、これらの取り組みが副業制度導入のハードルを下げました。
ふるさと納税の新たな返礼品を提案
土木管理課主事の藤原梨絵さんは、ふるさと納税返礼品を企画する業務で副業に参加しています。
この日はふるさと納税を担当する企画政策課の職員に同行。市内の事業者に対し、返礼品への登録を呼び掛けに出かけました。やって来たのは市役所近くの杉浦佛壇店です。地元の伝統工芸品の三河仏壇や、その技術を活かした新たな返礼品作りを提案するのが目的です。
新たな視点で取り組む返礼品作り
杉浦佛壇店代表取締役の杉浦伸司さんは、庁内副業制度の印象についてこう話します。
「ふるさと納税に三河仏壇のような単価の高いものが採用されるのかなと思っていて、全然気が付かなかったですが、やっぱり外から見てもらうことで新しい気づきがあり、双方にとってWin-Winになっていると思います。行政機関の人材交流もふくめてお互いに利益になっている気がします」
新たな視点で取り組むふるさと納税の返礼品作り。提案を受けた事業者にとっても気づきがあったようです。
副業制度に参加して
藤原さんに副業制度に参加して感じたことを聞きました。
「企画提案を行うような部署にいたことがなく、業務内容に興味があったので副業制度に応募しました。自分の考えを話すことによって気づくことがあったり、逆に話が広がって新しいアイデアが生まれたりすることもあり面白いです」
今後は三河仏壇の技術を用いた、新たな返礼品作りの企画も目論む藤原さん。
企画政策課の池田さんは、
「藤原さんのアイデアは我々では思いつかないこともあるので、ありがたいです。そういった事例を積み上げていくことで魅力的な返礼品を増やしていきたいです」と話します。
今後は効果検証を行う
刈谷市の庁内副業制度は、まちづくり推進課や都市交通課などでも始まっていて、半年間を目途に、現在7人が副業を予定しています。
池田さんは現状の課題と今後についてこう語ります。
「実際携わっている職員は業務量が増えたり、所属の部署にも負担がかかったりしている認識はしています。今後運用していく中で、まずは3月末を目処に効果検証をして、負担をどうしていくかなど、そこで見えた課題については対策を考えていきたいです」
業務の効率化や市民サービスの向上を目指す刈谷市の庁内副業制度。今後に注目です。
(取材・撮影:オフィスげんぞう/文:石川玲子 2023年11月取材)
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