2023年8月に愛知県安城市で開催された第70回の安城七夕まつり。新型コロナの行動制限がなくなり、3日間でおよそ102万人が訪れ、多くの人で賑わいました。
会場のボランティアに配られたのが、安城七夕まつりでこれまでに作られ、着られなくなったTシャツを再資源化したマフラータオル。捨てられるはずだったものに新たな価値を加えて再生するアップサイクルの取り組みを取材しました。
再活用のためTシャツを回収
環境省の2022年度の調査によると、消費者が手放した服のうち、およそ34%がリサイクルとリユースすることで再活用されています。しかし残りのおよそ66%が焼却施設などで処分されたり埋め立てられたりして廃棄されています。
そこで安城七夕まつりでは、これまで作ってきたオリジナルTシャツに着目してアップサイクルの取り組みを行うことにしました。2022年11月末からおよそ2か月間をかけ300枚ほどのTシャツを回収しました。
マフラータオルにアップサイクルして活かす
安城市の商工課、林有紀さんに取り組みについて聞きました。
「毎年、安城七夕まつりのPR用にキャラクターの『きーぼー』を配したTシャツやその年の公式Tシャツなどを作り、市の職員が着用したり一般の人に販売したりしています。しかしこれを次にどう活かすのかまでは考えられておらず、捨てられてしまうものが多かったと考えています。そこで、アップサイクルすることで、またまつりで使ってもらえるならば、担当者としても喜ばしいことです」
二次使用しにくいTシャツを活かそうと、2023年2月からマフラータオルへのアップサイクルの工程が始まりました。
アップサイクルを支える地元の工場
マフラータオルへのアップサイクルを支えたのは、愛知県安城市内に工場がある繊維メーカー、クラボウのアップサイクルシステム「L∞PLUS(ループラス)」です。クラボウは8か国で79拠点を展開するグローバル企業で、安城市大東町にあるクラボウ安城工場は、循環型のビジネスモデルを実現する上での重要な役割を担っています。
「L∞PLUS」はクラボウで2017年から行われていて、生産工程で発生する端材や廃棄衣料を独自の技術で原料に戻し、再資源化するシステムです。これまでにアパレルメーカーや繊維産地、百貨店などと連携し、アップサイクルの浸透を図ってきました。そして今回は、市民から回収したTシャツをマフラータオルに作りなおすことに挑戦しました。
端材や廃棄衣料を独自の技術で再資源化
クラボウ安城工場でTシャツのアップサイクルを担当したのが、入社3年目で紡績課の山口楓香さんです。
「Tシャツを裁断したものを原料に使い、反毛工程を通ってワタ状の原料に戻します」と説明してくれる山口さん。「反毛」とは、不要になった服や端材をもう一度ワタ状に戻すこと。品質を安定させるために新品のワタも混ぜながら再資源化し、最終的には糸の状態になります。
「回収されたTシャツの色が混ざってユニークな色合いを生み出しました。今回は赤っぽい色が多かったので、ピンク色のような淡い綺麗な色に仕上がりました」と山口さん。
アップサイクルには市民の理解や協力が必要
クラボウ安城工場ではこれまでも、アパレルメーカーなどと連携して主に端材や廃棄衣料をアップサイクルしてきましたが、今回は市民から回収したものを使うということで難しさもあったそうです。
「回収された衣類に安全ピンなどの異物がついていたり、材質が違う法被が入っていたりと想定外のことが多かったです。アップサイクルを進めていくためには私たちメーカーの技術の開発や改良はもちろんですが、市民のみなさんの理解や協力が必要です」 と語る山口さん。社会全体で意識を変えていく必要があると訴えます。
アップサイクルで喜びを創出
安城工場で作った糸は、連携する今治タオル産地の協力企業に送り、その糸を使ってマフラータオルにアップサイクルされました。
できあがったタオルについて山口さんに聞いてみました。
「パイルを長めにしていますので、肌ざわりがよく柔らかな仕上がりになっています。実際に私も七夕まつりにボランティアスタッフとして参加したので、マフラータオルを受け取った人が『こんなことできるの?すごい!』と喜んでくださっているのを見て、成功したと感じました。これからもL∞PLUSを通して、みんなが喜んでくれるアップサイクルをしていきたいです」
制度を活用し 安城市で広がるSDGs
安城市には、持続可能なまちづくりで企業や団体と連携するための「あんじょうSDGs共創パートナー」制度があります。クラボウ安城工場もこの制度に参加したことをきっかけに、今回のアップサイクルが進められてきました。
安城市健幸=SDGs課の木村史明さんは、「あんじょうSDGs共創パートナー制度」についてこう語ります。
「地域の企業や団体と共にSDGsの普及啓発に取り組んでいきたいと思っています。今回のような事業を、今後もいろんな事業者・企業・団体と行っていきたいです」
アップサイクルが当たり前になるために
企業と自治体、市民が連携して行われたアップサイクルの取り組み。 クラボウ安城工場の工場長、中村稔さんは、繊維のアップサイクルの今後についてこう語ります。
「繊維製品といっても、ニットやデニム、織物や靴下など多種多様です。そのなかにも綿やポリエステル、アクリルといった本当にさまざまな繊維の構成があります。そのため、一つひとつ異なる条件設定が必要ですが、安城工場にどんな素材が来てもL∞PLUSでアップサイクルできるようにすることが現時点の課題です」
持続可能な循環型社会の実現に向けて社会全体での取り組みが求められています。
(取材・撮影:土田隆浩/文:石川玲子 2023年9月取材)
安城七夕まつり
あんじょうSDGs共創パートナー制度
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