2023年4月に創立20周年を迎えた衣浦東部広域連合。
衣浦東部広域連合は、愛知碧南市、刈谷市、安城市、知立市、高浜市の5市、約53万人のエリアを守る消防組織で、愛知県内では、名古屋市に次ぐ県内2番目の規模を誇ります。地域の消防力の差をなくし、消防活動を円滑に進めることを目的に創立され、以来20年間、消防力の充実、救命率の向上、通信指令体制の充実強化などを目指し歩み続けています。
今回は、衣浦東部広域連合の20年の歩みと共に、地域の消防・救急の今を見つめます。
2003年4月 衣浦東部広域連合発足
2003年4月 愛知県の碧海5市の市長らが集まり開かれた「衣浦東部広域連合」の発足式。当時、広域連合の立ち上げに関わっていた、石川光典さんは当時をこう振り返ります。
「私は元々、安城市の消防署の職員をしていました。市ごとの消防本部の歴史が長かったので、細かいところで業務の違いなどがあり、統合にあたっては大きな不安がありました。しかし新たに大きな組織が発足するということで、期待をもって挑んだ記憶があります」
20年の変化。火災発生の減少
衣浦東部広域連合のように消防が広域化することは、119番通報を受けた初期段階から火災の内容に応じた規模の出動を行うことができることに加え、消防署配置の適正化により現場への到着時間を短縮できるなどの利点があります。さらに、広域化によって消防組織が大きくなり、職員の数が増えることによって、現場で活動する消防隊員だけでなく、火災予防や救急救命士などに専門的な人材を配置し、細かな啓発活動が行えます。
こちらは、碧海5市の火災発生件数の推移を表したグラフです。2003年には、年間240件前後発生していた火災が、現在は90件ほどに減少しています。
その理由について予防課の福本拓真さんは、「住宅用火災警報器の設置が進んだのが大きな理由と考えられています。2008年の設置率は35.6%でしたが、2023年6月時点では84%になりました。設置率の上昇とともに、火災件数も減っています。また管内の商業施設やイベント等に参加し、防火キャンペーンを行っているほか、住宅用火災警報器の設置状況の訪問調査などの機会を通じ適切な運用を行っています」と話します。
20年の変化。救急救命士の増加
また、創立当時44名だった救急救命士の数は、現在は137名と3倍以上に増えたことも、この20年の大きな変化です。
消防課の平岩隼一さんに救命士を取り巻く状況がどのように変化したかを伺うと、「救急隊の活動が本当に様変わりしました。まず救急が高度化し、様々な処置が行えるようになりました。一方で、救急件数も増加しています。2022年は管内で約2万4500件の救急件数がありましたが、今年はそれを上回る件数になる見込みです。それに対応できるよう、救急救命士の増加と対応できる体制を整えてきました」と、現状について話してくれました。
全国的に救急出動件数が増加するなか、衣浦東部広域連合ではカリキュラムを作り、救急救命士増加を図っています。また、住民向けの応急手当講習も積極的に行っていて、受講者数はこの20年で、24万人に上ります。
平岩さんは、このような活動の目的について「救急救命士を増加させるメリットは、患者を複数の目で診て、最善の処置や搬送を提供できることです。その上でも、救急救命の大切さ、地域の人にも知ってもらいたいと、日々活動しています」と、話してくれました。
新たなシステムの導入により、地域を守る
衣浦東部広域連合では、組織拡大によるメリットだけでなく、予算規模が拡大したことによる高機能な車両の導入や、消防指令システムなどの設備が拡大しました。これらは全て地域の安全を守ることにつながっています。
通信指令課の及川啓太さんに日々の指令室の様子を伺うと、「通報を受けると、対象の建物に一番近い救急隊が自動で選別されるようになっています。また通報の内容を聞くのと同時に速やかに機械の操作を行い、各署に情報を伝達しています。また、振り返りを定期的に行い、改善点を見つけ出したら、仲間と共有することで、1秒でも早い救急出動ができるよう心がけています」と、話します。
通報から2分で各署から消防車や救急車が出動できるよう迅速な対応を行う通信指令室。それでも、現在管内の一日の通報件数は平均90件、多い時だと150件もあるといいます。
そこで通信指令室では、従来の通報だけでなく、多言語対応のコールサービス、チャット形式の通報システム、映像通報システムなどを導入し、様々な場面を想定して、住民が通報できるようなシステムを整えています。
▶三者間通話サービス(多言語コールサービス)
▶Net119(チャット形式の通報システム)
▶映像通報119システム
つぎの10年、20年に向けて。
今年で創立から20年を迎えた衣浦東部広域連合。予防活動や新たなシステムの導入が進むなか、変わらない想いを持ち、地域の安全のために日々活動する職員たちは、次の10年、そして20年に向けて歩みを進めています。
最後に可児伸康消防長に、これからの衣浦東部広域連合が目指す姿について伺いました。
「地域住民が安心して暮らせる街にするには、災害の発生を未然に防ぐ予防体制と、災害の発生時に迅速に対応する消防、救急体制のさらなる強化が必要です。また南海トラフ地震など、想定される大規模地震にも対応できるよう消防や救助力の強化と共に防災体制の充実強化に取り組んでいきたいと思います。」(取材・撮影:上西将寛/文:石川玲子 2023年11月取材)
衣浦東部広域連合
愛知県碧南市、刈谷市、安城市、知立市、高浜市の碧海5市が設立している広域連合(消所轄人口は、約53万人で、愛知県内では、名古屋市に次いで大きい消防組織。
場所:愛知県刈谷市小垣江町西高根204番地1
電話:0566-63-0119
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