ずらりと並ぶ本棚に、ぎっしりと収まった本。本との出会いが生まれる場所、まちの本屋です。実はこうした本屋は近年、次々と姿を消しています。この20年間でその数はおよそ半分。本屋は身近な存在ではなくなりつつあります。
その一方で、独自の路線で営業を続ける店や、店づくりにこだわり、努力を続ける人たちがいます。本と人との出会いをつなぐ、まちの本屋。その現状を取材しました。
まちの本屋は20年で約半数に
まちの本屋の減少については、インターネット通販や電子書籍の普及、活字離れ、娯楽の多様化など様々な要因が考えられています。
本屋を利用する人に、最近の本屋との関わりについて聞いてみました。
「インターネット書店のほうが、本を探すのが早いので、ついそちらを使ってしまいます」
「スマホなどに時間を費やすことが多く、本を読む時間が減っている気がします」
正文館書店 名古屋の本店が閉店
愛知県知立市にある正文館書店 知立八ツ田店は、田園風景の中にたたずむ書店です。270坪の広大なスペースには、専門書からコミックまで、およそ17万冊が並べられています。
店の運営を任されているのは、店長の齊藤多美さんです。大学を卒業後、正文館書店に就職しておよそ25年、従業員として働いてきました。そんな齊藤さんに転機が訪れたのは2023年6月のことです。100年以上の歴史がある、名古屋の本店が閉店することになったのです。店は人通りの多い場所にあっただけに、大きな衝撃でした。
正文館書店を思い出してもらうために
齊藤さんは次のように話します。
「本店あっての支店というイメージだったので、まさかと。便利さが優先されがちな時代においてまちの本屋の役割とは何なのかを考えるようになりました。まわりの書店が閉店していく中で、本屋という仕組み自体がどんな利益を生み出していけるのか模索が続いています」
齊藤さんはこの日、おすすめの本を集めた特設コーナーの準備を進めていました。
「表紙のインパクトをどう見せるかなどを考えて配置しています。お客さまにこの正文館書店を思い出してもらい『次は何をやるんだろう』って思ってもらう必要があるので」
独自の路線で営業を続ける
多くの本屋が岐路に立たされる中、独自の路線で営業を続ける店もあります。安城市で40年続く書店、子どもの本専門店 花のき村です。ここは絵本に特化した専門店として、25坪の店舗スペースに、絵本を中心に童話や保育関連の本などおよそ2万冊が並んでいます。花のき村は、あえてジャンルを絞ることで、大型店に負けない独自の店づくりを行ってきました。
店主の伊藤義明さんに、専門店として開店したときのことを聞きました。
「同業者など周囲には反対や心配をされました。けれど結果的には絵本を選択したうちが残ったのは不思議な感じがします。」
わざわざ足を運びたくなるような本屋に
伊藤さんが一貫して目指してきたのは、わざわざ足を運びたくなるような本屋です。
「人が本屋に来てくれる理由を考えると、本を手にとって質感や色を確かめてから買いたいということです。専門店として特化したことでそれが上手くいったんだと思います。そのためにも絵本の品ぞろえには特にこだわってきました」
まなみ古書店の店づくり
一方、2022年に名古屋市内にオープンした「まなみ古書店」は、築60年の古民家を改装した古本屋です。店主の杉浦真奈さんは西尾市出身で、本の仕入れから棚づくり、カフェの運営まで1人で切り盛りしています。
ここでのコンセプトは、人それぞれの楽しみ方を尊重する、自由な雰囲気の店づくり。
杉浦さんは次のように話します。
「今はお店をやるハードル自体は下がっている時代です。個人でやっていて、空き家を活用しているということに理解のあるお客様が多いので、ピカピカでなくてもDIYなどで人を楽しませるなど、お店として機能することができると思います」
まちの本屋の魅力とは
本屋を訪れるからこそ生まれる、予期せぬ本との出会い。書店員が作る個性的な本棚は、まちの本屋ならではの魅力です。
本屋を訪れるお客さんに本屋の魅力を聞くと…
「手に取って選んで買いたいので、大きさとか厚さとか、そういうものも味わいたい」
「電子書籍もあるけど紙の本が好きです」
「本ってエネルギー。手に取っただけで温かく、ワクワクする。書店に来ればそういうのが次から次へと体験できるところが魅力です」
まちの本屋が減り続ける中でも本との出会いの場を守ろうと、努力を続ける人たちがいます。
みなさんも、個性あふれる本棚を探しに出かけてみませんか?
(取材・撮影:リンドワークス/文:石川玲子 2023年10月取材)
正文館書店知立八ツ田店
住所:愛知県知立市八ツ田町曲り57-1
営業時間:午前10時~午後9時
定休日:年中無休(元日を除く)
子どもの本専門店 花のき村
住所:愛知県安城市小堤町5-14
営業時間:午前10時~午後7時
定休日:木曜日
まなみ古書店
住所:名古屋市北区清水5-21-4
営業時間:正午~午後7時
定休日:月曜日・火曜日
「シリーズ 新しい時代を生きる」は、キャッチの番組でも放送中!
番組名:特集「地域の今」
地域で今起きていること、取り組み、人々の姿を深掘り。
「シリーズ 新しい時代を生きる」
コロナ禍の3年あまりの時代が一つの節目を迎えましたが、今もなお私たちの生活に影響を与えています。さらに、半導体不足や物価の高騰、少子化による人口減少など、様々な課題がある中、乗り越えようと取り組む地域の人たちを取材し、ともに地域の未来を考えます。
詳しくは、KATCH番組紹介ページ・特集「地域の今」をご覧ください。