2023年8月20日、西尾市で全国鉄道サミットが開かれました。そこでは、地方鉄道を応援する新たな時代に向けた宣言が発表されました。その名も、西尾宣言。廃線の危機に直面した地方鉄道を応援する、全国各地の団体が一堂に会し、相互に協力しあうことを宣言したものです。
その立役者が、にしがま線応援団 鉄研実行委員会、通称「鉄研」。名鉄西尾・蒲郡線の利用促進に向け奮闘する「鉄研」が主催するサミットについて取材しました。
廃線が危惧されている「にしがま線」
名鉄西尾・蒲郡線は、西尾駅と蒲郡駅を13の駅で結ぶ、全長27.3キロの路線で、地域住民から「にしがま線」の愛称で親しまれています。しかし、赤字状態が続き、およそ20年ほど前から廃線が危惧されています。
にしがま線の利用者数は、2020年に新型コロナの影響で前の年より20%近く減少しました。その後、回復の兆しを見せるものの、コロナ前の水準には戻っていないのが現状です。現在、西尾市と蒲郡市合わせて2億5千万円の支援がありますが、赤字を穴埋めするまでには至っていません。
沿線を盛り上げる活動をする鉄研実行委員会
そんな、にしがま線の利用促進に向け奮闘しているのが鉄研実行委員会です。にしがま線応援団の協力組織として、2014年に発足しました。
およそ20人のメンバーが、地元の小中学校での啓発活動や、B級グルメの開発など、にしがま線と沿線を盛り上げる活動をしています。
「にしがま線ラリー」で経済効果を狙う
全国鉄道サミットの開催を翌日に控えた、2023年8月19日。名鉄西尾駅では、鉄研のメンバーが、全国からやってくる地方鉄道の応援団体を出迎えていました。今回のサミットでは北は東北・秋田県から南は九州・鹿児島県まで、各地から参加者が西尾市にやってきます。
この日は、サミットを盛り上げるプレイベントとして「にしがま線ラリー」が行われました。「にしがま線ラリー」は、画面に表示された駅や観光名所を周りながら、ゴールの西尾駅を目指す、スマホを使ったゲームです。にしがま線の乗車はもとより、周辺施設にも経済効果をもたらそうという狙いです。
「地域の良さを再確認」
ゲームに参加した人に感想を聞きました。
「今日は竹島にも行ったし、さかな広場にも行ったし、西尾や蒲郡の良さを再確認しました」
今回のサミットに合わせ、1年前からこのゲームの開発をしてきました。ラリーの参加費は1万円。一見高く感じますが、ゴールした参加者には、にしがま線応援団のポロシャツをはじめ、参加費の半分にあたる5千円相当の記念品が贈られました。また、参加費の一部は、オリジナルゲームの開発費にあてられます。
地方鉄道の応援団にも呼び掛け
鉄研実行委員会事務局の筒井潔さんは、ラリーをしながら鉄道を乗り継いでやってきた地方鉄道の応援団に、是非このゲームを活用してほしいと語ります。
「このゲームの目的は町おこしや地域おこし。鉄道ファンが楽しめる仕掛けでありながら、鉄道だけでなく地域の経済効果を狙っています」
鹿児島県から来た南九州鉄道プロジェクトの葛岡克紀さんは、「皆さんの熱量がすごいです。私たちもまだまだ頑張らなければと思いました」。また南九州鉄道プロジェクトの小野寺宗貴さんも「私たちもいいところを吸収して活動をしたいです。勉強になりました」と語りました。
各地の応援団が宿泊し交流
地方鉄道を存続させるためには、地元の理解と応援が不可欠です。ラリーで、にしがま線や沿線の飲食店を利用してもらうだけでなく、宿泊もしてもらうことで生まれる経済効果は、地元の応援を得るために必須の条件です。
サミット前日、全国各地から来た応援団の皆さんは愛知県西尾市吉良町の三河湾リゾートリンクスに宿泊していました。そこでは交流会が開かれました。
交流が続く「いすみ鉄道応援団」
筒井さんが久しぶりの再会を喜びあったのは、千葉県にある「いすみ鉄道応援団」の団長である掛須保之さんです。いすみ鉄道応援団との交流は、2014年当時、にしがま線応援団の団長、颯田洪さんが現地を訪れたことに端を発し、鉄研事務局の筒井さんとも交流と親睦を深めてきました。
鉄道サミットは去年、1回目を千葉県で開催。掛須さんは、「西尾とは長い付き合いです。今年は西尾市制70周年に合わせて開催ということで、わくわくしています」と話します。
懇親会には多くの関係者が出席し、交流を深めました。
相互に協力していく「西尾宣言」
翌日、全国鉄道サミット当日。2回目となる今回は、サミットだけでなく、鉄研がこれまでにも開催してきた鉄道イベントが同時に開催されました。さらに観光物産フェアともコラボレーションすることで、いわゆるフェス感を演出し、サミットを盛り上げました。
サミットでは、いすみ鉄道応援団や鉄研実行委員会など各団体による活動報告が行われました。そして、今回行われた「にしがま線ラリー」を各地で継続することをはじめ、地方鉄道を応援する団体が相互に協力していく西尾宣言が発表されました。
これからも沿線地域の良さを伝える
鉄研実行委員会の会長、山本一義さんは、「秋田から鹿児島まで、10団体くらいの関係者が来てくれて、実りあるサミットになりました」と話します。
次回サミットを主催する、福島県の只見線応援団つなぎ隊の隊長、加藤夕子さんは、「只見線だけだと考えが凝り固まってしまうので、こうしてサミットに参加することで、盛り上げる色んな方法があるとわかりました」。
サミットを終えた筒井さんは、今後についてこう話します。
「いろいろな人に、にしがま線って大事だよね、いいところだよねって思ってもらうのが私たちの目標です」
(取材・撮影:シークラウド映像舎/文:石川玲子 2023年8月取材)
にしがま線応援団 鉄研実行委員会
名古屋鉄道 西尾・蒲郡線沿線の利用促進活動を行っている市民団体。2014年発足。
毎年、鉄道イベント「鉄研」を開催したり、小中学校で啓発活動を行ったりと沿線を盛り上げる活動を実施。
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