中心市街地の活性化に悩む自治体が多い中、新たな取り組みで成果をあげつつあるのが愛知県西尾市です。
2022年11月、市は、まちなかの賑わい創出を目指し、名鉄西尾駅の西側で、「BOX PARK エキニシ」の運用を始めました。広場にコンテナを設置し、そこにテラスやカウンターを置き、店舗やイベント会場として利用できるようにしたものです。
中心市街地に対する市民や事業者のニーズを探る社会実験として、その後のまちなかへの出店ニーズを掘り起こす目的で作られました。西尾市が進めるまちなか賑わい創出の可能性に迫ります。
日替わりで出店者が入れ替わる
BOX PARK エキニシは、利用の申込や申請手続きを簡素化し、事前の申込と審査だけで使えるようにしました。
将来中心市街地への出店を検討中の人や、まちなかを盛り上げたいと思っている人なら先着順で利用が可能です。
また、1回の出店期間も1日から1週間まで自由に選べ、さらに営業時間も朝9時から夜9時の間で自由に設定できます。
そのうえ、出店料もなんと無料です。そのため、日替わりのように出店者が入れ替わり、飲食店や物販を中心に、ワークショップや体験工房、ライブイベントなど、さまざまな利用を生み出しています。
出展者数は55組にのぼる
実際、2022年11月の運用開始から、最も多く利用した出店者は、2023年7月末現在で通算18日になります。また出店者数は個人・団体合わせて55組に達しました。
実際に訪れた利用客は「電車通勤なのでよくここを通るのですが、インスタグラムでも紹介されていますし、日替わりでいろんなお店があるので楽しいです」と、BOX PARK エキニシの感想を語ってくれました。
市が持っている土地を有効活用
BOX PARK エキニシをはじめ、市が所有する土地を商工振興課が窓口となって貸し出すこの取り組みでは、通常なら利用料がかかる場所でも、利用者の金銭負担はありません。
元々、こうした土地を所管しない商工振興課が取り組んだねらいについて、商工振興課の岩田真知さんは、「市が持っている土地が使われていなかったので、有効活用しようということで始まりました。安くても出店料を取ってしまうと、出店を見合わせてしまう人が出てしまいます。まず、このタイミングでは無料にして、色んな人に来ていただき、そこから次につながる人を見つけられれば」と話します。
お店を出してみたい人へのチャンスになる
この日は岡崎市から韓国料理のテイクアウト専門店が出店していました。2023年3月6日の初出店以来、今回で10回目という常連です。
GU-GUキンパの代表、竹尾千都さんはBOX PARK エキニシについてこう語ります。
「建物もおしゃれで目立つし、立地もすごくいいですよね。お店をやりたくてもやれずに諦めていく人も多いですが、こういう場所があれば、お店を出してみたい人へのチャンスになります。私の場合は、ここへの出店をきっかけに『これでやっていく』という決意ができました」
出店者同士のコラボも生まれた
竹尾さんはこの日、ハンドメイドのポーチを販売するお店と一緒に出店していました。こうしたコラボもBOX PARK エキニシが生み出しました。
ポーチを販売していたHI COLOR RETRO代表の由比藤裕美さんにもBOX PARK エキニシについて聞いてみました。
「長年、西尾に住んでいますが、今まではネットでの販売しかしてきませんでした。実際にお客さまの声を聞くことが少なかったのですが、こうして出店することでお客さまに会うことができました。お店を出すとお客さまが楽しみにして来てくれるし、それを地元でできるので、ありがたいです」
出店者の声は…
また別の日には、焼き菓子専門店出店を計画中の男性もBOX PARK エキニシを利用していました。
nuuuuma店長の沼口紘徹さんは、BOX PARK エキニシへの想いをこう語ります。
「成功するか分からないのにお店をやってみるのは怖いことです。でも市がこうして場所を作ってくれることで、店をもつための最初のきっかけになります。とても重要な取り組みですよね」
地場産業のワークショップも
さらに夏休みに入ると、市内の工房と鋳物工業協同組合の共催で、子ども向けのワークショップが開催されました。
「ritakobo」は鋳物作りが気軽に体験できる工房で、2020年に自動車部品メーカーのイナテックが市内鳥羽町に開設した工房です。今回は小学生向けに夏休みの宿題お助け企画として、鋳物でアイスクリームスプーンを作っていました。
まちなかで開催するイベントの効果
利他工房の堀井諒さんは「工場はまちなかではなく郊外にあるため、鋳物といっても実際に知っている人は少ないです。けれど、こうやって駅前でイベントをすることで鋳物を知ってもらえます」と語ります。
また同じく利他工房の加藤沙弥香さんは「BOX PARK エキニシは出店の予約が開始されるとすぐに埋まってしまうくらい人気です。だからここがなくなったとしても、また違う形でこういう場がもてたらうれしいですね」と言います。
BOX PARKエキニシから実店舗への可能性
中心市街地活性化のきっかけと、その担い手づくりを目指すBOX PARK エキニシ。出店者に取り組みに対する満足度をアンケートした結果、43%が非常に満足、45%が満足と答えています。
さらに今後の出店希望をたずねたところ、7割以上が再度の出店を希望していることがわかりました。出店者に中心市街地で実店舗を持つことに対しアンケートした結果、半数が持ってみたいと答えています。
一方、来場者に対するアンケートでは、8 割以上の人がBOX PARK エキニシの常設化を希望しています。
駅東も合わせて盛り上げていく
公園緑地課の課長、新實尉則さんは、BOX PARK エキニシの効果をどう見ているのか、聞いてみました。
「これまでは、ただ市の土地を貸すというスタンスで、有償で貸し出していましたが、今回、商工振興課が西側を無償で貸し出すことになりました。
その結果、今まで人がいなかった場所に賑わいが生まれたので、いいことだと思っています。今後も駅西も駅東も一緒に盛り上げていくために取り組んでいきたいと考えています」
お店を持ちたい人の発掘へ
BOX PARK エキニシを企画時点からサポートしているのは、まちづくり会社「城下町PRIDE」の代表取締役、永井信行さんです。
永井さんは、まちなかに「しあわせの緑のロンドンバス」を置くなど、新たな担い手育成も進めています。永井さんはBOX PARK エキニシをどのように見ているのでしょうか。
「BOX PARK エキニシが賑わい、そこからお店をやってみたい人を発掘して、ロンドンバスでの飲食店営業や商品製造に誘えました。さらにその人たちをまちづくり会社で支援するという、いい流れがつくれました」
9月で実証実験を終了 今後は…
BOX PARK エキニシは2023年9月で実証実験を終了する予定です。
今後はどんな展開を考えているのか、岩田さんに聞きました。
「これまで出店してくれたお店のうち20社くらいが、今後はまちなかに出店したいと望んでいることがわかっています。そこで現在では、空き店舗の紹介や空き屋の活用、改装費の補助やマッチングの支援をはじめました。まちなかに魅力を作ることでエリアの価値が上がる。そうすると次の出店者が現れる。最近あの辺面白いよね、そんな声が聞こえるような、いい循環を作り出したいです。」(取材・撮影:オフィスげんぞう/文:石川玲子 2023年7月取材)
BOX PARKエキニシ
西尾駅西多目的防災広場に設置。将来的に中心市街地での出店を検討している人やまちなかを盛り上げたいという人が出店やイベント開催の場として利用できます。
2023年9月で実証実験を終え、撤去予定。
出店者情報などは西尾市ホームページで確認できます。(2023年8月取材時点情報)
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