足早に駆け出す1人の医師。向かった先は、救急現場へと急ぐドクターカーです。救急車には通常、医療行為に制限がある救急隊員だけが乗っていますが、搬送段階から医療行為を行う方法もあります。そのために病院から急行するドクターを運ぶのがドクターカーです。
愛知県刈谷市にある刈谷豊田総合病院の命の現場で、地域の救急医療の今を見つめます。
地域の救命率を上げるために始まった
2023年に開院60周年を迎えた刈谷豊田総合病院は、救命救急センターや、災害拠点病院(地域中核災害医療センター)にも指定されている地域の中核病院です。
刈谷豊田総合病院ではおよそ10年前から、地域の救命率を上げるために、この地域では初となるドクターカーの取り組みを開始しました。
消防署の判断で医師が現場に駆けつける
救急車には通常、医療行為に制限がある救急隊員だけが乗っていますが、搬送段階から医療行為を行う方法もあります。そのために医師を運ぶのがドクターカーです。
ドクターカーは、心肺停止や意識障害などの重症患者を対象にしていて消防署の判断で出動します。
現場に医師や看護師が駆けつけ、病院に搬送する段階から医療行為を実施することにより、早期の治療が可能になるのです。
出動の要請は突然やってくる
ドクターカーの当番となった医師は、1日中待機となります。待機中、出動の連絡は突如やってきます。要請を受けたドライバーが、待機していた医師や看護師、救急救命士を乗せ、現場へと急行します。
この時の患者は高齢者の男性。ベッドの上で心肺が停止していたところを家族が発見したといいます。
ドクターカーが現場に到着するとすぐ、患者をストレッチャーに移し、救急車へと移動します。そこに医師が乗り込むと、車内で治療が始まりました。
院内での受け入れ準備も着々と
そのころ院内では、別の医師がその様子をモニターで確認していました。モニター越しに現場の状況を把握しながら、受け入れの準備を急ぎます。心肺が停止した人が来るという想定で用意を進めています。
病院への搬送中、患者の心拍が再開。迅速な対応で、命を取り留めました。
救急救命センター長の安藤雅樹さんが状況を教えてくれました。「医師と救急隊員で対応したら心拍が再開したので、他の異常がないか確認していきます」
新たな技術を使った取り組みもスタート
刈谷豊田総合病院では、ドクターカーの取り組みにさらに磨きをかけようと、去年から、新たな試みをスタートさせています。
それが「映像伝送システム」です。
現場で活動する医師などがスマートフォンなどで映像を送ることで、院内のスタッフが同時にモニタリングできる仕組みです。医師の首元に装着されたスマートフォンの映像や、運転手が撮影した映像、さらに専用の心電図機器から送られてくる波形が共有されます。
またスマートフォンから位置情報も取得し、あとどれくらいで病院に着くかなども分かります。
実証実験を経て患者の受け入れ体制を強化
患者の受け入れ態勢を迅速に整え、より早期の治療を実現するこの取り組みは、刈谷市との実証実験を経て、この4月から本格導入となりました。
救急救命センター長の安藤さんに映像伝送システムの可能性について聞きました。
「これまでの仕組みでは、患者の様子の把握に限界があり心電図の状態が確認できませんでした。しかしこのシステムの導入により、速やかな医療につなげられるようになりました」
救命救急センターの充実は使命
ドクターカーの取り組みと最先端の映像伝送システム。そして何よりも、現場の人たちの思いによって、私たちの命が支えられています。
最後に刈谷豊田総合病院の田中守嗣病院長に、どのような想いでこの取り組みを進めているかを聞きました。
「当院は、救命救急センターであり災害拠点病院でもあるので、救命救急センターの充実は使命と考えています」
(取材・撮影:リンドワークス/文:石川玲子 2023年6月取材)
医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院
2023年3月に開院60周年を迎えた。救命救急センター、災害拠点病院(地域中核災害医療センター)に指定されている。
刈谷豊田総合病院ホームページ
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