刈谷市一ツ木町、国道23号の高架下には、刈谷市が運営する自転車保管場があります。ここには駅や公園などに放置され、一定期間持ち主が現れなかった自転車が保管されています。保管期限90日以内に持ち主が現れない場合、処分となるこの自転車を市から引き取って再び乗れる自転車として再生、販売をしているのはNPO法人「青ねこくらぶ」です。
「青ねこくらぶ」で働いている人たちの中には、精神的な理由で生活のしづらさを感じている人もいます。今回は、自転車再生を通して、彼らが自立できるように精神的・経済的に支える青ねこくらぶを紹介します。
自転車再生の流れ
軽トラックを運転して刈谷市の放置自転車の引き取りに向かうのは、「青ねこくらぶ」の代表、松本澄江さんです。引き取り場所である国道23号の高架下に放置自転車が月別に区分けされています。
この日、刈谷市から引き取った放置自転車は53台。引き取った自転車は、再生可能なものと、処分するものと分けられます。
再生できると判断された自転車は、月1度の予約日に「青ねこくらぶ」の店頭に展示され、訪れたお客さんが欲しい自転車を予約します。そして予約された自転車の再生作業が行われます。
リピーターのお客さんも多い
自転車再生を始めて20年以上の「青ねこくらぶ」。新しい自転車とくらべて手頃な金額ということと、しっかりとしたアフターケアがあることで、リピーターのお客さんを含め、たくさんの人が再生自転車を購入しています。
自転車を見に来ていたお客さんは、
「前もここで再生自転車を買いました。もう3~4年使っていますが、問題なく使えています」
「新しいものをわざわざ買うよりも、安いから助かっています」
「放置自転車を再生する仕組みはとてもいいと感じました」
といいます。
誰でも立ち寄れる場所を目指している
「青ねこくらぶ」には、約10人のメンバーがいます。ここは当初、精神的な理由で、日常生活に不自由を感じている人たちの居場所を目指していました。松本さんは「青ねこくらぶ」の始まりを次のように語ります。
「最初に目指していたのは、地域のいろんな人が立ち寄ってくれる場所でした。生活がしんどい、心が苦しいという人が集まってくれればと思ってスタートした活動です。当時放置自転車が社会問題になっていました。関わりのきっかけになると思って自転車の再生をはじめました」
自転車を修理する酒井さんと山本さん
「青ねこくらぶ」に持ってきた自転車を、酒井奨太さんと山本浩二さんが一緒に修理しています。2人とも今や自転車修理に関してはベテランですが、「青ねこくらぶ」と出会う前には、精神的な不安定さがあったといいます。
山本さんが過去のことを教えてくれました。
「僕は病気で10年くらい引きこもっていました。ずっと家にいて、外に出られない状態でした。外の空気が汚くなったと思い込んでしまって……それが悪化して出かけられなくなってしまい、最終的には入院しました」
「青ねこくらぶ」で居場所をみつけていく
8年前まで、引きこもりを経験していた山本さんが、外に出てみようと思ったときに、支えになり、居場所になったのが、松本さんと「青ねこくらぶ」でした。
「ここでお世話になってもう10年近くです。もうここが自分の居場所なんですよね」と山本さん。
今では「青ねこくらぶ」のリーダーのような存在になった酒井さんも、17年前、山本さんと同じように、松本さんに助けられたといいます。
「入退院を繰り返していたときに、「青ねこくらぶ」に通いはじめました。調子が悪くなって暴れるたびに松本さんが来てくれて、誰よりもお世話になりました」
精神的・経済的な自立を目指す
松本さんは、自転車修理技術の熟練度によってメンバーに600円から800円の時給を払っています。松本さんによれば、お金を稼ぐことは、精神的に不安定だった人が一歩外に出るきっかけになるのだそうです。
「人と触れ合い、支え合うことによって居場所を見つけ、精神的・経済的に自立していくことを目指しているのです」という松本さん。
「お金が増えると自信につながる。お金を通して自信をつけてもらって、また働きに来てもらうことで、他の人とも出会って、自分が幸せに生きるための生活のヒントが得られればいいですね」
いつでも青ねこくらぶに立ち寄ってほしい
松本さんは「青ねこくらぶ」を利用する人の中には、自転車に悩みをのせてくる人もいるといいます。
「『自転車のどこが悪いか見てくれる?』と言うので話しはじめてみると『実はうちにも障がいのある子がいて……』というように打ち明けてくれたりするんです。自転車が悩みを伝えに来るきっかけになるんですよね」
最後に松本さんに、今困難を抱えている人へのメッセージを聞きました。
「心のことで苦しくなっちゃうようなことは、誰にでも起こることです。障がいがあってもなくても大丈夫。「青ねこくらぶ」に来てください」
(取材・撮影:金世俊/文:石川玲子/2023年3月取材)
NPO法人「青ねこくらぶ」
精神的な理由で生活のしづらさを感じている人たちの生活を支える事業所。
自転車再生を通して、経済的・精神的な自立を共に支えています。
住所:愛知県刈谷市寿町2-205
電話番号:0566-24-5878
NPO法人「青ねこくらぶ」 ホームページ
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