2020年1月26日に愛知県内初となる新型コロナウイルス感染者が確認されてから3年。
当時は、突然現れた未知のウイルスに、どう対応したらいいのか混乱が続き、その間にも感染者は増加していきました。その後も、感染の波が幾度も襲いかかり、私たちの生活は大きな影響を受けました。
コロナ禍の3年で、私たちはいったい何を失い、何を得たのでしょうか?
今回は、2020年に取材した介護現場を再び訪れ、この3年でもたらされた変化をお伝えします。
関わりを大切にしていた業界が一変
愛知県安城市にある特別養護老人ホームひまわり・安城は、碧南市を拠点に病院や福祉施設を運営する愛生館グループが2018年に開所した介護施設です。
2023年2月時点で、要介護3以上の高齢者120人が入居し、介護士や看護師など合わせて130人ほどのスタッフが働いています。
コロナ禍では人との接触を減らす対策が求められてきたものの、介護の現場では人と人が接触しなければ成り立ちません。そんなジレンマの中に立たされたなかで、2020年3月、私たちはひまわり・安城のスタッフたちの葛藤を取材させてもらいました。
シリーズ コロナ禍をこの地域で生きる
vol.7「介護施設の日常を守るために 老人ホームひまわり・安城」
この3年間を振り返って
施設長の小林美保子さんは、「元々、コミュニケーションを大事にしてきた業界でした。それが一変して、隔絶した世界が求められるようになり混乱しました。また、施設の大切な利用者を守る為に、スタッフの生活にもかなり高い制約をお願いしてきたので、みんな大変だったと思います」と、この3年間を振り返ります。
また事務部長の浅田孝一さんは、「このウイルスが恐ろしいというのは分かっていましたが、施設内でクラスターが発生した際に、あらためて実感させられました。けれど皆の協力もあり、入居者の命が守れました」と話します。
活かされたコロナ禍の経験
ひまわり・安城では、2022年12月25日から年始にかけて、スタッフ5名と利用者3名が感染するクラスターが発生したといいます。その際、いち早く情報公開と感染者対応を行ったことで、感染を大きく広げることなく収束できました。
この時の対応は、3年間の経験が活かされたと入居部長の北村美樹さんは語ります。「クラスターの発生は初めてのことだったので、戸惑いはありましたが、感染対策用の防護具を着けることなどは慣れていたため、安心して対応ができました。」
また、簡易式の陰圧室やポータブルトイレを活用することで、軽症の利用者を病院に送ることなく、施設で対応できたということです。
制約はあるものの、再開された面会
さらに、この3年間での変化もあります。2020年の取材当時は、入居者と家族の面会は中止、あるいはタブレット端末を使ったリモート面会となっていましたが、現在では、1日2組・予約制などの制限はあるものの、アクリル板越しでの面会が再開されています。
この日、家族が面会に訪れていた入居者の一人は、コロナの発生と同時期にひ孫が生まれたものの、まだ一度も会えていないということでした。それでも、家族が持ってきてくれた、たくさんのひ孫の写真や動画を嬉しそうに見つめていました。
コミュニケーションが安心につながる
面会をしていた入居者の家族に話を伺うと、「面会中止直後は、まったく会えず元気なのか元気じゃないのかも分からない状態でした。そして、私よりも母の方が辛かったと思います。スタッフの方はとても大変だと思いますけど、こうして会わせてもらえて感謝しています」と話してくれました。
こうした姿を見て、事務部長の浅田さんは「アクリル板越しでの面会ですので、まだまだ不便をお掛けしていると思います。それでも、入居者とご家族が顔を合わせて話すというコミュニケーションが再開でき、安心にもつながるかなと思っています」と語ってくれました。
コロナ禍で身につけた知識や技術を今後に
施設での娯楽にも変化が訪れました。3年前には受入れを断っていた、ボランティアによる講座や演奏会などもリモートで再開され、入居者の貴重な楽しみの場が復活しています。「以前と違い対面ではありませんが、今後も工夫をして入居者の楽しみの場を作っていきます」と語る浅田さん。
その他にも、ひまわり・安城ではコロナに限らず感染症拡大により危機的状況下に置かれても、重要な事業を中断せず、短い時間で復旧させるための方針・体制をまとめたBCPも策定しています。こうした取り組みはコロナ禍だけでなく、今後も介護施設を守ることにつながっているのです。
コロナ禍の3年で、私たちが得たこととは?
コロナ禍の3年で、私たちが得たこととは?
様々な工夫や対策をし、入居者の日常を守り続けてきたひまわり・安城のスタッフたち。今後について施設長の小林さんは、「感染症により施設が利用できなくなると、私たちの役割が果たせなくなり、困られる方も多くいます。ですので、活動を継続することが使命だと感じています。そして、この3年で身につけた知識や技術を今後も活用し、なにが起こるかわからない時代に備えていきます」と、決意を話してくれました。
コロナ禍の3年でもたらされた変化は、私たちの当たり前を当たり前ではないものにしました。だからこそ、その中で試行錯誤した経験は、私たちの未来へつなげていかなければなりません。(取材・撮影:ビデオハウス/文:石川玲子 2023年2月取材)
特別養護老人ホームひまわり・安城
碧南市を拠点に病院や福祉施設を運営する愛生館グループが運営する特別養護老人ホーム
場所:愛知県安城市福釜町下山81-1
TEL:0566-92-0088
HP:「特別養護老人ホームひまわり・安城」ホームページ
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