愛知県西尾市熱池町の八幡社に伝わる「てんてこ祭」。赤い装束に身を包んだ厄男が太鼓のリズムに合わせ、大根をつけ腰を振る姿がユーモラスで、天下の奇祭とも呼ばれています。
2023年1月に3年ぶりに開催された祭りについて、伝統を守り継ぐ活動やその仕組みに注目。各地で祭の継承が難しくなるなか、地域を挙げて伝承に取り組む手法や住民の思いに迫ります。
3年ぶりの開催となった「てんてこ祭」
「てんてこ祭」は、愛知県指定無形民俗文化財です。平安時代、清和天皇即位の大嘗祭で使う穀物を栽培する悠紀斎田(ゆきさいでん)に、西尾市熱池町の田んぼが選ばれたことを今に伝えるお祭で、大嘗祭での宴の一場面を再現したともいわれます。
また年男が身につける装束は、天皇から与えられた衣装を再現しているなどの説もあります。祭の中で使われる男根に見立てた大根は、古来より人の営みを植物の繁殖になぞらえ、五穀豊穣を祈って用いるようになったと考えられています。
てんてこ祭の伝承を支える「年番」
祭の準備は前年の大晦日から始まります。
2022年の大晦日、八幡社に集まって来たのは「年番」(ねんばん)と呼ばれる人たちです。「年番」は、八幡社で行われる全ての祭礼の準備や行事の運営を担います。
熱池町にある100軒ほどの一戸建てのうち、約20軒がその年の「年番」に選ばれ、5年に一度はどの世帯にも必ず回ってくるようになっています。
熱池町てんてこ祭保存会会長の高橋正治さんは、この仕組みが祭の伝承を支えてきたと言います。 「年長者から年少者までいろいろな世代が参加し、町民全体が参加することで、途切れず継承されていくのかなと思っています」
経験者が先頭に立ち若者に伝える
幟を上げる作業や祭の行列に欠かせない注連縄作りなど、経験者が先頭に立って作業を進めます。準備を進める年番に話を聞いてみました。
「お祭があると一緒に作り上げていくものがたくさんあるので、町内のつながりが深くなると思います。まだわからないことも多いので、一つずつ覚えながら絶やさないようにしていきたいです」
午後になると場所を移し、踊り子とも呼ばれる厄男の練習がはじまりました。指導するのは保存会会長の高橋さんたちです。
髙橋さんは次のように話します。「全員参加。全員が主役です。年長者から若い人に祭の時に技術を継承しています」
数々の伝統を継承することへの思い
1月3日の祭当日、早朝から手分けして準備にあたります。
祭で見物客に向かってまき散らす藁灰のほか、藁灰を撒くのに使う箒、神への捧げ物になるボラの3 枚おろし、そして大根を使った男根作りなど一連の準備を年長者が先頭に立って行います。
今はしっかり継承されているてんてこ祭ですが、明治30年には風紀を乱すという理由から、祭での男根の使用が警察から差し止められた過去があります。地元からの熱心な陳情により使用が許されたのは、四半世紀も後の大正12年のことでした。そんな歴史をもつ西尾のてんてこ祭。それだけに伝承への思いは強いようです。
肝心なところは変えず柔軟に実施
厄男たちが、赤装束に着替え、男根を着けると、いよいよ祭の始まりです。 「今までコロナの関係で2年間お祭ができませんでした。ですので、社殿が新築されて初めてのお祭になります。厄男もマスクの上に頭巾をして対策して行っています」 と年番長の石田金作さん。
もともと田植えの時に歌った田植謡(たうえうた)は、感染予防のため一部を省略し、参拝者が投げ込む松葉も数を減らしました。
石田さんは、このような変化についてこう語ります。 「肝心なところは変えず、省略できるところは簡素化するなどして、誰が年番になっても祭が行えるよう工夫しています」
町民全員で祭を繋ぐ
コロナ禍で 3 年ぶりに例年通り祭礼を行うことができた西尾のてんてこ祭。愛知県の無形民俗文化財にも指定されるこの祭を継承していくために大切なことを高橋さんに聞きました。 「5年くらいが記憶の限界なので、町民の誰もが5年に1回参加することで、途切れず継承させることができるのかなと思っています。町民全員で祭を受け継ぐことでこれからもうまく繋いでいけるのではないかと考えています」 (取材・撮影:オフィスげんぞう/文:石川玲子 2023年1月取材)
てんてこ祭
毎年1月3日に愛知県西尾市熱池町で行われる天下の奇祭。新型コロナの影響により2021年、2022年は中止となり、2023年に3年ぶりに開催。
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