新型コロナウイルス感染拡大を受け、各行政でも様々な支援策が打ち出される中で、西尾市が愛知県内初の取り組みとして2020年6月から行っているのが「事業モデルチェンジ応援補助金」です。
この支援事業では、コロナ禍を機に新たな事業形態にモデルチェンジした企業などに補助金を交付しています。地元の事業者を応援しようという行政の思いと、利用する側の企業の思い。コロナ禍での新たな取り組み、そして事業形態を変化させながら生き抜く企業を取材しました。
西尾市「事業モデルチェンジ応援補助金」
この事業は、愛知県内では西尾市が初の取り組みとなった、全国でも珍しい補助金です。新型コロナ感染拡大防止の取り組みとして、西尾市内の企業で、デリバリーやオンライン教室を新たに始めた事業所や、マスクやフェイスガードを製造するなどの事業転換をした事業所に補助金を支給します。
上限20万円で対象経費の2分の1を補助し、募集は2020年12月28日までとなっています。相談や申請は完全予約制で、西尾市商工振興課で予約を受け付けています。
コロナ禍でも事業を継続していくために
西尾市商工振興課の永山裕己さんはこの事業について、コロナ禍でも市内で頑張って事業を継続している企業に少しでも補助をしたいという思いがあったと語ります。市内でも4月からは飲食店に対する休業要請と緊急事態宣言がありました。それにともない市内の経済も大幅に落ち込んだといいます。
「感染拡大防止対策のため、従来の事業からモデルチェンジをして何とか事業を継続していく事業者に、少しでも応援補助金を活用してもらいたい」と永山さんは言います。
窓口を通して、事業者に寄り添う
西尾市では市役所に事業相談窓口を特別に設けています。相談に訪れた、市内で印刷・デザイン会社を経営するアートワークナカハラの福西章人さん。「弊社ではフィルムを加工する技術を持っていまして、その技術を活用してフェイスシールドの商品開発を新たにしました」と話します。
窓口では実際にかかった経費や補助の対象範囲などの確認が行われました。「フェイスシールドを宣伝する際にかかった費用も対象となります」という説明を聞き、「市の方が親切に対応して教えてくれるので助かりました」とほっとした表情を見せました。
コロナ禍でモデルチェンジした企業
すでに補助を受けた事業所もあります。西尾市吉良町にある、工業用や医療用の繊維資材を製造加工している三州資材工業です。これまで事業者向けの製品を生産していましたが、新型コロナ感染拡大を機に、一般消費者向けマスクの製造販売を手がけることにしました。
代表取締役社長の加藤勇人さんによると、三州資材工業は、コロナの影響により売り上げが大幅に落ちることは避けられたそうですが、周囲の状況などから強い危機感を持ったといいます。
モデルチェンジから広がる新しい世界
三州資材工業では医療用の繊維資材を製造していたため、マスクの材料として使える生地が手元にありました。経済の低迷や、マスク不足など不安な状況が続く中、何かしなければという気持ちもあり、三州資材工業はミシンなどの設備を購入。3月からマスクの加工生産に着手したということです。
「生産に関しては、はじめは一日300枚程度でしたが、ピーク時には一日6,000枚生産しました。マスクの需要は高く、生産したものは全て売れていくような状況でした」と加藤社長。
さらに、三州資材工業では販売サイトも立ち上げ、自社でもマスクを販売できるようにしました。
これまで経験のなかったネット販売について、加藤社長は「これまでは企業相手に製品を売ることが多かったため、BtoBの事業形態では経験できなかったことが多かったです。マスクの製造販売を通じて個人に直接、製品を販売するBtoCにも事業形態を変化させることができたので、世界観が広がり、まだまだ何でもできるという気持ちを持つことができました」と語ります。
新しい事業が社員にもたらす影響
三州資材工業のマスク製造現場を覗くと、普段、車製品の型抜きをしているプレス機に、マスクの部品・パーツ用の型を取り付けて布を裁断しています。製造部の藤原俊紀さんは「何をどうしていいかわからないなかで、立ち上がりまでの2か月はとにかくガムシャラにやってきました」と事業モデルチェンジに対する苦労を語ります。
また、製品グループの橋口佐知子さんは、今回のマスク製造・販売について「コロナの影響でマスクが必要とされているところだったので、すごくいいことだなと思っています」と誇らしげな表情を見せてくれました。
一方で、マスク作りを始めたことで社員の意識も大きく変わってきたといいます。「よりお客さんのことを考えながらつくるようになりました」と藤原さん。
橋口さんは「お客様からのありがたい声をいただいて、お客様との距離をより近くに感じることができました。それがマスク作りにも活きています」と、嬉しそうにマスクを購入した方から届いた手紙を見せてくれました。三州資材工業ではマスクの製造販売を行ったことで、BtoCへと事業形態を広げるとともに、社員にも良い影響もたらしたということです。
チャレンジできる環境があるかぎり
加藤社長は、中小企業は10年20年という長い間、会社を存続させようすると、つらい時期はいくらでもあるといいます。そして今回の事業転換について「だからこそ、チャレンジできる環境があるかぎりチャレンジし続けたい。そのための苦労であればウェルカムと考えています」と語りました。
常に変化する社会の中では、行政も企業も変化を求められています。今後も続く激動の時代に変化を恐れていてはこれからの時代を生き残ることはできないのかもしれません。
(取材・撮影:モーション・ビジュアル・ジャパン/文:石川玲子/2020年7月取材)
三州資材工業株式会社
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