新型コロナの影響で活動の自粛、三密対策など、社会全体が様々な対応を求められるなか、その影響は福祉現場にも及んでいます。障がいのある人にとって、コロナによる影響は、生活のリズムを崩し、人とのつながりを遮断してしまう原因になりかねません。
そんななか、障がい者の居場所を守るため「なんとかやっていかなければ」と前を向く人たちが愛知県刈谷市にいます。コロナ禍で奮闘する就労支援の現場「NPO法人パンドラの会」を取材しました。
就労支援事業所が直面する新型コロナの影響
刈谷市にある「NPO法人パンドラの会」。障がいのある子どもを持つ母親たちが「わが子が将来、安心して働ける場をつくろう」と1996年に結成した団体です。
この会が手掛ける事業のひとつに就労継続支援B型事業所「おかし工房パンドラ」があります。年齢や体力などの面で雇用契約を結んで働くことが困難な人が、洋菓子の製造、販売を行いながら就労訓練を行います。工賃をもらいながら、自分のペースで働くことができる半面、仕事がなければ収入が得られないという問題があります。
そんな「おかし工房パンドラ」でも、新型コロナの感染拡大は大きな影響を与えました。
出張販売に訪れていた地元企業では、コロナの影響で出社する社員が減ったため販売個数が激減。さらに、イベントでの出店もすべて中止となりました。 そのため、コロナの影響を受ける前は、年間1,600万円あった売り上げが約6割減。深刻な状況に陥りました。
ここは絶対守らなければならない城
パンドラの会の岡部扶美子代表は「ものすごく大きな痛手です」と言いつつも「ここで働く彼らは30代だから、あと30年働く場所が必要。そのために働く場所を確保しなければならない」と語ります。
そんななか、2020年5月に地元企業が、パンドラを含む市内の障害者就労施設に大口の注文を。さらに刈谷市も、職員から注文を募るなど就労施設を支援する動きが広がりました。また、岡部さんは「あきらめないことが大切。ここは絶対守らなければならない城」だと話します。こうした岡部さんの想いや地域の支援もあり、苦しい中でもパンドラの工房では就労者の笑顔が見られます。
求人が減るなかでの就職支援の課題
パンドラの会では就労継続支援とともに、障がい者が、自立して企業で働くための訓練を行う就労移行支援も行っています。就労移行支援を行う事業所「S&Jパンドラ」では、現在、22人の障がいのある人が、料理人になるなどの夢を持ちながら支援を受けています。
そして、この就労移行支援の現場でも新型コロナの影響が...。所長の坂口伊久磨さんは、「コロナの影響で、障がい者向けの求人は0に近くなっている。その中で、それぞれの希望や就職への夢をどう実現していくかが課題です」と話します。
コロナ禍で工夫を求められる活動
この施設に通う利用者は2年で訓練を終えて社会に出なければなりません。そのため求人が減るなか、なんとか働き口を見つけようと、職員たちは企業をまわります。
日々、市内を中心とした企業を訪問し、実習の受け入れをお願いしているという「S&Jパンドラ」の職員・中島貴美さんは「まずは実習をして評価をしていただいて、障がい者本人も、企業側も、両方が安心して働けるということを実感してもらうことで、長く勤めてもらうことができるかなと思っています」と話します。
逆境を乗り越えるための"居場所づくり"
「S&Jパンドラ」を訪れるのは、就労移行支援を受けている人だけではありません。事業所を出て就職したOBも度々ここを訪れ、職員とコミュニケーションを図っています。
OBの山本勝喜さんは「ここは助けてくれるところであり、一緒に歩いてくれる場所。みんな繋がっているので、周りの人が支えてくれる」と、「S&Jパンドラ」を表現します。坂口所長によればパンドラは、就労する訓練の場であり、同じ目標を持った仲間がいる場であり、そして利用者にとってかけがえのない"居場所"になっているということです。
居場所を守るために。新作の「極上プリン」
その"居場所"を守るため、就労継続支援B型事業所の「お菓子工房パンドラ」でも、新たな商品づくりが行われました。コロナ禍を静観するだけでは事態は悪くなる一方だと、前を向くためのきっかけづくりとして新作の「極上プリン」を完成させたのです。代表の岡部さんは「みんなで考え完成させたこのプリンを多くの人に食べてもらえたら」と話します。
コロナ禍で大きく変わる就労支援の現場。逆境のなかパンドラの会では、きょうも多くの人たちの「居場所」を守り続けています。
(取材・撮影:映像舎/文:石川玲子/2020年7月取材)
NPO法人パンドラの会
■おかし工房パンドラ(就労継続支援B型事業所)
場所:愛知県刈谷市築地町1-5-4
TEL:0566-25-3012
営業時間:9:00~18:00
定休日:土・日・祝日
■S&Jパンドラ(就労移行支援事業所)
場所:愛知県刈谷市一ツ木町1-1-13
TEL:0566-91-5416
営業時間:9:00~18:00
定休日:土・日・祝日
「シリーズ・コロナ禍をこの地域で生きる」は、キャッチの番組でも放送中!
番組名:特集「地域の今」
地域で今起きていること、取り組み、人々の姿を深掘り。「シリーズ・ コロナ禍をこの地域で生きる」では、医療・教育、企業などに従事するこの地域の人々の声から、コロナ禍の時代をどう生きるのか、そのヒントを探ります。