未だ予断を許さない新型コロナウイルスの流行。2020年4月には飲食店への休業要請をはじめ、さまざまな業界が自粛や休業を余儀なくされました。企業や事業所にとっても厳しい状況が続くなか、コロナ禍をたくましく生き抜こうとしている町工場があります。
愛知県刈谷市野田町に本社を置く友澤木工です。
人のためになる製品を作る
2020年7月で創業58年を迎える友澤木工は、従業員数80人のベッドメーカーです。友澤木工のベッドフレームは、一般家庭だけでなくホテルでも導入され、年商は約10億円を誇ります。
友澤優之社長は「ベッドは人が眠るための道具。あらゆる家具の中でも人間と密着する時間が最も長いため、人のためになる製品を送り出そうという思いでやっています」と、自社の事業を語ります。
新型コロナウイルスの流行による売り上げ減
しかし、新型コロナウイルスの流行により、順調な工場経営が脅かされました。感染への不安からホテルの宿泊キャンセルが相次ぎ、大口顧客であるホテル業界の経営が悪化したのです。
それにより、新規出店や新たな設備投資が見合わせに。さらに入学や転勤も無くなった影響で、ベッドの出荷数は大きく減少し、2020年3月期の売り上げは前年比4割減となりました。友澤社長は「同じような不況は何度も経験してきたが、今回は先が全く見えないので、以前にも増して不安に陥った」と振り返ります。
きっかけは他社の活動
転機が訪れたのは2020年3月。県内でスーパーマーケットを展開する流通企業カネスエが、友澤木工に牛乳120本を寄附しました。
小中学校の休校で給食がなくなり、飲まれるはずだった牛乳が行き場を失うなか、苦境に陥った酪農家を助け、食品ロスをなくすため、カネスエは牛乳を買い取り、県内の企業に寄附したのです。友澤木工では従業員やその家族に配布しました。牛乳とともにカネスエの想いを受け取った友澤社長は「この牛乳が、私たちに何ができるかを考えるきっかけとなった」と言います。
マットレス用の生地でマスクを作る
できることを模索するなかでまず始めたのが、慢性的に不足していたマスク作り。マットレス用の生地を使用した布製のマスクを、有志で募った社員が仕事の合間をぬい作りはじめました。「カネスエの社会貢献をみて、私たちも社会に役立つことをしたいと思った」と指揮を執った加藤弘枝専務は語ります。
作られたマスクは、マスクが買えなくて困っていた従業員や取引先に配布されました。
時代のニーズに合わせた新製品開発へ
さらに友澤木工が挑戦したのが新製品の開発です。商談の席でお茶を出されたときにマスクを外さなければならず、すると飛沫が心配でおいしくお茶が飲めないという悩みをきっかけに飛沫ガードパネルが誕生しました。
材料におがくずの粉などを使用することで、反りにくく、長く使え、価格も抑えられます。発案から2日で試作品が完成、わずか1週間で販売を開始しました。中小企業であるため決済期間が短いこと、そして人の役に立つ製品を世に出すという使命感により従業員が一丸となったのが、短期間での製品開発を可能にしたと友澤社長は語ります。
「飛沫ガードパネル」販売ページ
飛沫ガードパネルがもたらした成果
販売後、友澤木工の飛沫ガードパネルは市役所や地元の信用金庫で導入されたほか、飲食店でも活用されています。飲食店からは「パネル下の隙間から料理を提供できるし、汚れたら洗えるのが良い」と好評で、飲食店を訪れるお客さんも安心できると笑顔を見せます。その結果、会社には多くの注文が入り2020年5月には約2000台を販売、同月の売り上げを前年と同等まで戻すことができました。
さらに、直接工場に買いに来るお客さんの声が、人の役に立てる喜びを実感できるため従業員の原動力となり、自分たちの仕事に誇りを持つきっかけになっているということです。
コロナ騒動のなか、より強くなる想い
「社会の情勢がガラッと変わってしまういまだからこそ、企業としてやれることをやる、それが従業員の雇用を守ることにつながる。そのために、中小企業は営業力を持っていた方が良いのではないか」と友澤さんは問いかけます。
「世の中の皆さんが求めているものを探し当てて、人のためになろうという思いが今回のコロナ騒動でより一層強くなった」
先の見えない激動の中、友澤社長はそんな想いを語りました。
(取材・撮影:映像舎/文:石川玲子/2020年6月取材)
友澤木工株式会社
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