夏の風物詩ともいえる高校野球。高校野球の楽しみ方のひとつに、将来、プロ野球やメジャーリーグで活躍するスターの"原石"を見つけることがあると思います。
今もメジャーで現役として活躍するイチロー選手や福岡ソフトバンクホークスの現監督・工藤公康さんなど数多くのプロ選手を生み出した名監督が、実は愛知県西尾市にいること知っていましたか?
キャッチネットワークの野球中継でもおなじみ
名古屋電気高校(現在の愛工大名電高校)監督時代から名監督と知られ、多くのプロ野球選手を世に送り出してきた中村豪さん。教え子にはイチローや工藤公康、山﨑武司など華々しいスター選手の名前が並びます。
2002年からは豊田大谷高校の監督に就任し2007年に定年退職。その後西尾市吉良町に移り住み、75歳になる今も近所の高校で野球の指導をしています。キャッチネットワークの高校野球中継では解説者として活躍。冷静に分析したわかりやすい解説が人気の"野球大好きおじいちゃん"です。
自宅で高校野球談議スタート!
自身も野球好きで、毎年キャッチネットワークの高校野球中継に関わっている樅山が、普段は聞けない監督時代の話を聞くため、中村さんの自宅を訪問。
「樅山さん!いらっしゃい!」と笑顔で迎えてくれました。共に高校野球好きな2人。早速、野球談議で盛り上がります。
監督時代に意識したのは「型にはめないこと」
樅山
いよいよ7月1日(土)に高校野球愛知大会が開幕しますね!全国では、今年は何かと早稲田実業の清宮選手が注目されていますね。
(取材日:2017年6月)
中村
清宮選手は、やはりすごいね。体格の良さや力強いスイングなど、彼のプレーには目を見張るものがあるな。188校と全国の中でも最多の出場数を誇る愛知県大会も楽しみ。開幕したらテレビの前から離れられないね!
樅山
イチロー選手や工藤監督、元中日ドラゴンズの山﨑選手など、数々のスター選手を輩出してきた名監督として有名な中村さんですが、指導する時に大切にしていたことは?
中村
型にはめないことだね。技術面では、選手それぞれの個性を生かすよう心がけていたよ。その一方、精神面ではチームのことを第一に考える姿勢やレギュラーとしての責任感を常に持つよう指導した。いくら私が「練習しろ」と言っても、本人にやる気がなくては意味がないから。いかにやる気を引き出すかが重要だね。
イチローのスイング力に目をつけ育てた
左:イチローが1994年にプロ通算210本安打を記録した際に使用していたバット
右:中村さんが高校時代のイチローにノックを打っていたもの
樅山
イチロー選手は高校時代、どんな選手でしたか?
中村
とにかく意気込みが他の選手とは全然違った。「プロ野球選手にしてください!」と名電高校の門を叩いてきたのは、イチローが最初で最後。
「任せろ」と言ったはいいものの、ヒョロヒョロとした体の彼がどれだけの可能性を秘めているのか、正直わからなかった。しかし、実際にプレーする姿を見た瞬間、『この子はプロに行けるかもしれない』と思ったね。
樅山
イチロー選手にはどんな指導をされたんですか?
中村
彼の強みはバッティング時のインパクトの良さ。ボールを芯でとらえる感覚がずば抜けていた。とにかくバットを振る練習をするよう指導したね。
イチローは教えを守り、何万回と振り込んできた。彼のスイング力の上達には日々驚かされてばかりだったよ。今では彼の代名詞ともいえる"振り子打法"を武器に、世界で通用する選手になった。プロになっても努力を続けている結果だね。
選手の特長を見抜き、的確にアドバイス
中村さんの自宅に飾られているイチロー選手や工藤監督から贈られた記念ボール
樅山
今は自身も監督を務めている工藤さんとの思い出は?
中村
工藤は手首の使い方が上手で、球がとても速かった。ストライクゾーンを9分割したボードを作り、「今日は右下に50球」と毎日コントロールの練習をさせた。
あと効率良くボールに力を与えるため、軽い球を使ってリリースの練習を繰り返しさせたね。練習を重ねていくうちにうまく回転がかかるようになり、その強靭な球で甲子園に連れていってくれた。嬉しかったね。
樅山
山﨑選手といえば、やはり豪快なフルスイングが印象的です。
中村
山﨑は当時から飛距離が群を抜いていた。庄内川の堤防下にあるグラウンドで練習をしていたけど、堤防沿いを走る車に当たりそうになるくらい飛ぶようになってしまって。市にお願いして特例でネットを立ててもらった。今も"山﨑ネット"と呼ばれ受け継がれているよ。
実は、山﨑は本当に練習が嫌いな男でね(笑)。でも元々持つ才能と正義感の強さ、そして忍耐力を生かしてキャプテンとしてチームのみんなを引っ張ってくれたよ。
樅山
本当に選手によって指導法が全然違いますね!中村先生の的確な指導と選手たちへの信頼が、プロの世界でも通用する実力を育てたんですね。
監督と選手を超えて、家族のような存在に
樅山
OBの選手とは、今でも交流されていますか?
中村
お正月に名電高校のOBたちが家に来てくれて、一緒にお酒を飲むのが楽しみなんだ。今では教え子の子どもたちが野球をしているというから、驚きだよ。皆それぞれ頑張っているけれど、『辛い時に頭に思い浮かぶのは、中村監督の言葉』と言ってくれる。こんな嬉しいことはないね。
樅山
監督と選手というより、お父さんと息子みたいな関係ですね!
中村
彼らは中学を卒業してすぐ寮に入り、高校3年間という多感な時期を親元を離れて過ごしてきた。練習後に一人ずつ監督室に呼んで、彼らの相談を受けたり人生の先輩として僕が話をしたりしてね。そうやって彼らと過ごしていくうちに、親父のように慕ってくれるようになってね。今でも強い絆を感じるよ。イチローも、メジャーリーガーになってからも会いに来てくれてね。2人で撮った写真は、大切に飾っているよ。
失敗を恐れず、反省することが大切
樅山
今は近所の高校でアドバイザーとして活躍されていらっしゃるとか。
中村
名電高校みたいな強豪校とは全然レベルが違うけどね。技術的なことは監督が指導しているから、僕は選手の精神面のサポートに徹しているよ。
樅山
今の高校球児に伝えたいことはありますか?
中村
失敗することは恐れなくてもいいから、その後チーム全員でどこが悪かったのか徹底的に話し合い、改善策を考えなくちゃだめ。選手同士が傷のなめ合いをしているなんて甘い!練習もただこなすだけじゃなく、どうしたらもっとうまくなれるのかを考えながら取り組まなくてはいけない。チームのため、仲間のためにと、もっと高い意識を持ってほしいね。
球児の一生懸命な姿に心が動く
樅山
中村さんが思う、高校野球の魅力とは?
中村
何といっても、高校球児のひたむきな姿じゃないかな。一生懸命ボールを追いかけて食らいつく。そんな姿が、見る人に感動を与える。今も開会式の映像を見ると、胸の奥にある熱い思いがこみ上げてきて、涙が出るよ。
樅山
中村さんは、とても情に厚い方なんですね。その思いを感じたから、イチローさんや工藤さんなどの教え子たちも中村さんに絶大な信頼を置いていたのだろうと思います。
中村
私が大切にしている言葉に「思強全可」というものがある。"強い思いが、全てを可能にする"という意味。もちろんイチローたちにも何度も伝えてきた。今の高校球児たちにも「絶対に勝つ」という強い気持ちを持って、試合に臨んでほしい。今年はどんな熱い戦いが見られるか、今から楽しみだね!(取材:樅山香織、松本翔子/2017年6月取材)
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