強い勢力を保ったまま接近し、「もしや伊勢湾台風と同じコースか」と私たち愛知県民を戦々恐々とさせた台風21号。2018年9月4日午後の神戸市再上陸のころには、関西空港と陸地を結ぶ連絡橋にタンカーが衝突、大きなニュースになりましたが、1959年に発生した伊勢湾台風もやはり、大型貨物船を座礁させていました。
その威力、いまさらながら凄まじい。こちらの写真は、現在の西尾市鳥羽町。伊勢湾台風で座礁した大型貨物船「九州丸」です。自然災害の説明として「数十年に一度」というフレーズをよく耳にするようになった昨今。関西地方に大ダメージを与えた台風21号を目の当たりにし、半世紀以上前の伊勢湾台風の再来がにわかに現実味を帯びた、という人も多かったのではないでしょうか?
伊勢湾台風級 =「中心気圧730hPa以下または最大風速50m/秒以上」
1959年(昭和34年)9月26日 紀伊半島に上陸し、ここ愛知県にも大変な被害をもたらした「伊勢湾台風」。死者・行方不明者5,098人は明治から現在にいたる台風被害で最大で、台風が要因の「特別警報」の指標にもなっています。
そんな伊勢湾台風から約60年。まちの風景も家の造りも大きく変わった今、もしも伊勢湾台風(級)が同じコースでやって来たら、どんなことが起こるんだろう。どんな備えが必要なのか。そんな思いで、いろんなところに尋ねてみました。
高潮は防潮堤ができても要注意な存在
被災後の碧南駅前付近_碧南市教育委員会 提供
伊勢湾台風の被害を大きくしたのは、高潮です。しかし、伊勢湾台風以降、防潮堤の整備は進んでいるし、現在では当時ほど大きな被害にならないのでは?ということで、被災当時、かなりの地域が浸水した碧南市の防災課に尋ね......る前に、ハザードマップを確認。すると、碧南市の高潮被害予測では約3割の建物が床上浸水、これはなんと、伊勢湾台風時とほぼ同じ割合、とあります!
室戸台風級の台風が、伊勢湾台風コースを通った場合の被害予測とのこと。室戸台風といえば、上陸時の中心気圧911hPaという過去最大台風。つまり碧南市の想定は、いわゆる「スーパー伊勢湾台風」。ええ、来ないとは限らない。やっぱり、安心しているわけにはいかないのですね。
とくに危険なのは「台風の右側」
伊勢湾台風の経路(左:気象庁HP/右:名古屋地方気象台HP)
「台風接近による気圧の下降で海面が吸い上げられるだけでなく、風が強いほど波が吹き寄せられます。さらに、大潮の時期や満潮の時間も潮位に関係します。そうした、海面全体が上がる高潮だけでなく、台風時には高波にも注意が要ります。」そう言って、天気予報で伝えられる台風の中心気圧や最大風速を気に留める大切さを教えてくれたのは、名古屋地方気象台のかた。
1hPa下がるごとに1cm海面が上がり、風速が2倍になると海面上昇は4倍になるそうです。「上陸時では遅いので、台風が日本の南海上にいるうちにコースとともに注視しましょう。台風が自分が住む地域の左側を通過するコースで、930~940hPa以下で近づいてくると、要注意です。」
海のない地域にも大きな水の脅威
流された久沓橋_碧南市教育委員会 提供
伊勢湾台風では、海に面していない安城市でも大きな被害が出ました。堤防や橋が決壊、広く田畑が冠水しています。伊勢湾台風の際、河川の堤防は尾張では主に高潮で決壊したのに対し、三河では増水による氾濫で破れました。短時間で集中的に降ったために洪水になったのです。矢作川の米津(西尾市)の水位、日付が変わる頃は2m以下だったものが、午前5時には4.94mを記録。翌朝起きたら激変していたわけです。
安城市では現在、伊勢湾台風級の台風襲来で最も案じられるのは、やはり、河川の氾濫とのこと。「台風接近時には、河川の水位や今後の雨の状況を見ながら避難の判断をする必要が。ハザードマップを活用して、あらかじめ避難経路なども確認を。」(安城市危機管理課)
自分のいるところを「自覚する」
昭和34年当時にはたくさんあった田畑が減り、局地的な豪雨などの際に発生する都市型洪水の危険性も増しています。水がたまりやすい場所ではもう、それを自覚して、早め早めに自衛するしかなさそうです。「碧南市では、個人で持ち運べる土嚢を各地の公園など市内30か所に置いてあります。それらも活用して、事前の準備を。」(碧南市防災課)土嚢の備蓄や提供体制は各市で違うので、お住まいのまちでご確認を。
また、伊勢湾台風から約60年の時を経て、いまやすっかり車社会。浸水の可能性があるアンダーパスの通行も注意が必要です。大きなアンダーパスでは、道路に目盛のような線が引いてありますが、あれ、パッと見では判らない浸水に気づきやすくするためだそうです。
脅威は水だけでなく風も
伊勢湾台風当時よりも家屋は頑丈になりました。昭和も50年代、60年代にはまだ、台風の備えとして雨戸を補強したり、窓ガラスに板を打ち付けたりといった光景があったものですが。強風によって家が倒壊する危険は減りましたが、マンションをはじめ雨戸のない家も増えています。さらに、昔はなかった高層ビルも増え、ビル風などの心配もあります。
昔よりもいろんな物が飛んでくる、落ちてくるのは確実です。雨戸やシャッターを取り付ける、玄関やベランダの飛びそうなものを片づける、外の大きなものの固定をしっかりする、といった対策は、台風襲来寸前には無理なので、やはりこれも、日本の南海上にいるうちに。
特別警報が出てからではもう遅い
「特別警報が出てからではもう遅いのですよ」とは、名古屋地方気象台のかたの言葉。「特別警報が出るころには、すでに被害が出ている地域もあるでしょう。特別警報より前に、自治体からの避難の呼びかけがあるはずです。」特別警報が出たら、もう問答無用で危険が迫っているという状態。今回お話くださったお三方が口を揃えて仰ったのが、「早め早めの対策を。」
実は伊勢湾台風後、停電時にも聴けるトランジスタラジオが一気に普及したとか。情報は命綱、しかし、それを受けて判断するのは自分自身。情報過多とも言える現代、自分のいる場所にとって必要な情報は何か、どうなったらどこへ避難するのかといった見定めは、日ごろからしておく必要がありそうです。