「耕地」は、愛知県碧南市やその周辺でニンジン・タマネギ・トウモロコシなど、合計13.5haを作付する農業法人です。現在スタッフは 11 人、2020年に法人化し、パート従業員のほか、特定技能の外国人労働者を雇用しています。耕地が2024年7月に開設したのが、就労継続支援 B 型事業所「こうのどり」です。農業法人が運営する就労継続支援 B 型事業所とは、いったいどんなものなのかお伝えします。
就労継続支援事業所とは
就労継続支援事業所とは、障がいや難病によって一般企業で働くことが困難な人に、働く機会や訓練を通じて、能力向上を支援する施設です。就労継続支援事業所はA型とB型があり、雇用契約を結んで定期的に利用し、最低賃金以上の給料を得られるのが A型、一方、雇用契約は結ばず、自由度のある利用ができるのが、B型事業所です。
農業と福祉の連携の可能性
農業法人耕地の齋藤浩二さんは、農業と福祉の連携に可能性を感じ、2024年 7 月にこうのどりを開設しました。なぜ農業と福祉の連携に取り組み始めたのか、そのきっかけを聞きました。
「農業には様々な可能性があると考えていました。以前、A型事業所の利用者の方に農作業を手伝ってもらったことがありました。その方が1日作業を終えて帰宅して、晩ごはんの時間に家族に笑いながら『楽しかった。農作業が楽しかったから明日も行きたい』と言ってくれたということを人づてに聞いたんです」
農業における深刻な人手不足
「国・県・市を挙げて、障がい者と農業をマッチングして、上手に共存できるような取り組みを補助・支援しているということも知ったので、そのような後押しがあるならやってみたいと考えました」と、齋藤さんは話してくれました。
その背景には、日本の農業が抱える課題があります。農家の高齢化により、作付面積が 0.5~1haの農家は半減する一方、10~20haを作付する農業法人は4倍近くに増加しています。愛知県下でも農業従事者の不足が深刻です。
農作業の流れ
この日行われていたのは、落花生の収穫作業です。耕地では、スタッフが落花生を畑から抜き取ると、その端から別のスタッフが落花生を根から外します。一方、こうのどりの場合は、職員は落花生を畑から抜き取ると、束ねて施設に運びます。その後、利用者が通所してから、直射日光を避けた日陰で、職員と利用者が一緒に落花生を根から外します。いったん、根から外した落花生は耕地の作業場に持ち込み、洗浄と乾燥をスタッフに依頼します。
できること、得意なことを把握
利用者に農業をしてもらう注意点を、こうのどり 所長の長沼久江さんに聞きました。 「今まで外に出られず、B型事業所に通うという第一歩を踏み出そうとする方がいたときに、来るのが嫌になってしまうと、その人はまた社会と途絶したようになってしまいます。そうならないように、利用者のできること・得意なこと・できないことをよく把握するよう心がけています。できることはどんどん褒めて成功体験につなげて、できないことは無理にさせるようなことはせず、代わりのことを提示するように工夫して作業してもらっています」
それぞれの利用者に合わせた作業
こうのどりの利用時間は、毎週月曜日から金曜日の午前10時から午後3時まで。昼休みだけではなく、利用者の様子を見て、必要に応じて休憩を挟みながら作業をしてもらいます。
取材したこの日の午後は、乾燥を終えた落花生の選別と出荷作業です。まず、来年の種用と出荷用、未熟なもの、そして廃棄の 4 つに分けていきます。利用者それぞれの特性に合わせ、職員が作業の内容や量をコントロールし、就労への可能性を探るのが重要です。
出荷用と未熟な落花生は、計量してそれぞれ容器に入れていきます。さらに出荷容器のラベル貼りなども利用者の作業です。
昼食を楽しみに通う利用者も
利用者と職員が一緒にとる昼食は、こうのどりの特色です。専門の調理員が、収穫した作物も使いながら、栄養バランスを考えた食事を提供しています。自己負担は一食200円と、安価に設定されています。人気メニューは、野菜ごろごろのカレー。それを楽しみに通う利用者もいるほどだそうです。
利用者の就労につなげたい
現在こうのどりでは、初年度の定員18人に対し、7人の登録者が利用しています。
今後の目標を長沼さんに聞きました。
「悪天候の時には外で作業ができませんし、農閑期もあります。そういった時にはラベル貼りなどの作業もありますが、果たしてそれだけでいいのだろうか、という課題もあります。まずは、毎日10人から15人毎日通ってもらえる中で、B型の利用者さんが少しでもA型事業所で仕事ができるように、あるいは一般就労ができるように、サポートしながら職業訓練に取り組んでいきたいです」
笑顔で共存できる会社を目指す
農業法人の耕地は、オリジナル商品の開発や販路開拓のため、マルシェなどへも出店を進めています。
「健常者のスタッフと一緒に、障がいがある人が同じ職場、同じ環境でお互いに支えあいながら働けるようになったら本当に素晴らしいなという思いがあります。これが一つの夢です。そこに至るにはまだまだ課題がありますが、障がいがある人もない人も笑顔で共存できる会社にしたいと思っています」と、齋藤さんは語ってくれました。
農業を通じて、さまざまな人たちに働く機会を提供する、農業法人耕地と就労継続支援B 型事業所こうのどり。こうした試みが、あらゆる人にとって暮らしやすい社会への一歩となることが期待されます。
(取材・撮影:オフィスげんぞう/リライト:石川玲子 2024年8月取材)
農業法人 耕地
住所:愛知県碧南市川口町一丁目100番地
公式サイト
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