「さかさま不動産」は、物件を探して何かをはじめたいという人たちの熱い思いが掲載されたウェブサイトです。名前も活動もユニークなこのサービスを利用し、今、若者たちが西尾市を盛り上げています。借り手と貸し手の思いをつなぐ、さかさま不動産の試みを見つめます。
さかさま不動産のサポートにより開店
2024年3月に、西尾市内にワインと欧風料理の店「Wine&Kitchen Tre」がオープンしました。代表の守屋雅也さんは西尾市出身です。地元のレストランで3年間修行したのち、飲食の道での開業を決意。夢の実現のための物件探しで活用したのが「さかさま不動産」という仕組みでした。
守屋さんは開業までのことを振り返り、
「さかさま不動産の方がサポートしてくれたので、開店準備がスムーズに進みました。自分一人ではできなかったと思います。飲食をみんなでわいわい楽しめるような店になってほしいと思っています」
と話してくれました。
挑戦者を応援する仕組み「さかさま不動産」
物件を借りたい人の思いを掲載し、貸したい人を募集するというウェブサイト、「さかさま不動産」は全国から注目を集めています。不動産と名付けられているものの、物件の情報は載っていません。掲載されているのは「喫茶店を開きたい」「ゲストハウスを作りたい」といった借りたい人の熱い思いです。
通常の不動産仲介は、大家さんが貸したい物件を提示して借主を募りますが、さかさま不動産は借りたい人の思いを公開して貸したい大家さんを募る、従来とはさかさまの仕組みです。
さかさま不動産発想の原点
さかさま不動産の発起人である、株式会社On-Co 代表取締役の水谷岳史さんに話を聞きました。
「大家さんが大切に持っている物件を借主に選んでもらうというのもいいのですが、もう一方でどんな人に使ってもらいたいかを大家さんが選ぶという手段があってもいいんじゃないかなと思ったんです」
全国で空き家が増え続けているにも関わらず、広く情報を出したいという大家さんはわずか15パーセントほどだというデータがあります。既存の仕組みでは空き家の問題を解決できないと水谷さんは感じたそうです。
地域にどれだけそのまちが好きな人がいるか
持っている物件の情報を広く公開することをためらう大家さんが少なくない中、さかさま不動産を利用すると、住所を公開する必要がないというメリットがあります。
「まずは、どんな人になら貸したいか、使ってほしいかを聞いて、その条件に合った人にだけ物件の情報を伝えます。ここが、従来の不動産と入り口が違うということが異なる点です」
と、水谷さんは話してくれました。
「空き家の課題解決とは、空き家がゼロになることではない気がしているんです。その地域にどれだけそのまちが好きな人がいるかとか、活動しているかとかが大切だと思っています」
次々と生まれている「支局」
2020年にスタートした「さかさま不動産」。共感の輪は全国に広がり、多くの地域で支局が生まれています。2022年に誕生した西尾支局もそのひとつです。独自の人脈を生かし、ウェブサイトにとどまらない関係性づくりを進めています。さかさま不動産西尾支局 共同代表 牧一心さんは、
「空き物件を所有している人にとって、借りたい人の細かい条件や、やりたい思いに共感することは大きな意味のあることだと思います。さかさま不動産のシステムは、大家さんにとってネックになっている部分を解消してマッチングができるんです」と話してくれました。
お店を地元で開きたいという夢
西尾支局の創立からおよそ2年が経ち、市内ではさかさま不動産を介したマッチングが生まれています。西尾市出身である、本町オーブン 調理部門担当の田代世音さんも支局のサポートを受けたひとりです。
「自分でデザインしたお店を開業したいという夢がありました。地元でお店を持ちたいと物件を探していた時に、さかさま不動産 西尾支局があるよ、ということを教えてもらいました」
毎日が感動と学びの日々
中学時代からアメリカンカルチャーに没頭してきた田代さんは、アメリカの焼き菓子を提供するカフェを開きたいと考え、その思いをさかさま不動産のウェブサイトに掲載しました。そして西尾支局の仲介を経て、挑戦の場が提供されました。
「毎日感動というか、お客様が喜んでくれているのを見ると嬉しくなります。まだまだ知らないことも学びたいこともたくさんあるので、日々ここで学ばせてもらっています」と、田代さんは笑顔で話してくれました。
まちの賑わいを取り戻す糸口に
かつて西尾市のまちなかは商店街を中心に栄えていました。さかさま不動産の取り組みは、かつてのまちの賑わいを取り戻すための糸口としても期待されています。さかさま不動産に期待することを、西尾市商工振興課 駒宮茂さんに聞きました。
「『こういうことをやりたい』とか『このまちをもっと盛り上げていきたい』といった思いがあることを知ると、『その人になら貸したい』と大家さんが言ってくれることがこれまでもありました。民間のネットワークとフットワークの軽さがいかされて、西尾市がより面白いまちになるような、魅力あるお店が増えていくと嬉しいなと感じます」
西尾支局による物件内覧ツアー
西尾支局は、挑戦者の思いを強固なサポートで応援しようとしています。8月中旬には、初の試みとなる物件内覧ツアーが企画されました。西尾市内の物件に興味をもち、集まったのは3人。その思いは三者三様です。この日はすでに開店した店舗や空き物件など、あわせて6つをめぐりました。間取りや内装など、どの物件もくまなく見て回りながら、参加者は想像を膨らませました。
それぞれの思いを聞き、より良い物件を紹介できるように寄り添うのが、さかさま不動産の強みです。
内覧ツアーに参加してみて
内覧ツアーの参加者に、参加してみてどのような印象を持ったか聞きました。
「普通に探したら見つからないような物件を見せてもらえて、とても参考になりました」
「実際に見ることでメリットもデメリットも理解できたので、信頼できる取り組みですね」
「アドバイスをもらいながら回ってみて、親密にコミュニケーションが取れるのがいいと思いました」
それぞれにとって、実りあるツアーになったようです。
さかさまの発想で西尾のまちを面白く
「自分のまちを面白くしていくためにはやはり、魅力的な人やお店が必要だと思います。いろんな地域があって挑戦する場所の選択肢は多いですが、僕は『西尾市でやりましょうよ!』という気持ちで、西尾を面白くするためにこれからも活動していきます」
と、牧さんは話してくれました。
西尾市が挑戦者たちの受け皿になれば、まちの活力にもつながることが期待できます。さかさまの発想で挑戦者を応援するという、不動産の常識を超えた取り組みの先には、明るいまちの未来が見えてきそうです。
(取材・撮影:リンドワークス/リライト:石川玲子 2024年8月取材)
さかさま不動産
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