2021年4月。新型コロナの影響で様々な産業が打撃を受けるなか、特に大きな影響を受けているのが宿泊業です。
愛知県碧南市のランドマークにもなっている衣浦グランドホテルでは、売り上げ低下の影響により2021年5月から無期限休館を決めました。大塔勝郎総支配人は「極端な言い方をすると、よくこの1年運営できたなと思います」と現状を振り返ります。今回は衣浦グランドホテルが無期限休館に至った苦渋の決断と再生への決意を取材しました。
順調だった経営を直撃した新型コロナの影響
碧南市田尻町にある衣浦グランドホテルは、1992年に開業。開業当初は宿泊客がなかなか取り込めず、思ったような売上は上げられませんでした。
活路を見出したのは2009年に現在の運営会社に変わったときです。その翌年に、現在の総支配人、大塔勝郎さんがフロント支配人として着任しました。「国内需要ではなく、海外インバウンドに目をつけた結果、それまでは稼働率10数%から20%だった客室を80%まで押し上げるとことができました。売上は約2倍。利益は約12倍になり、2019年までは健全な運営ができていました」と話します。しかしその矢先、新型コロナによる影響が直撃したのです。
前年比90%ダウンで大幅な赤字に
新型コロナ感染拡大後、海外からの入国制限措置により中国人観光客が激減。また、外出自粛、ステイホームが求められ国内の宿泊客も来なくなりました。
165室ある客室の稼働率もコロナ前の2020年1月は66%でしたが新型コロナの影響が出始めた翌2月は8.7%に。2月だけで予約の95%がキャンセルされました。その結果、2020年4月から2021年3月までの1年間の売り上げは、前年比でおよそ90パーセントダウンし大幅な赤字に転落しました。
お客さんを呼び込む工夫をするも...
人気のジュニアスイートルームを最大半額まで値下げをするなどして宿泊客を呼び込む工夫をしましたが、利用はほとんどありませんでした。また、その影響は宿泊部門だけでなく、レストランや宴会場利用にも広がりました。
特に宴会場は、コロナ前は売上の約4割を占めていましたが。頼みの綱であった年末年始の新年会や忘年会の予約もほとんどキャンセルとなりました。レストランの澤本幸太郎総料理長は「真っ暗な気持ちになりましたね。全てが遮断されたような気になりました。毎日キャンセルの電話が営業の方から入ってきて、食材の注文もできない状態になってきました」と振り返ります。
無期限休館を決めた。衣浦グランドホテル
この苦しい状況下で、大塔支配人は一層のコスト削減に取り組みます。リースしていたカラオケ機器や、座布団、従業員の制服も契約を見直すなどして、約2,000万円の経費を削減。しかし、2021年1月のさらなる感染拡大で、1日の出勤者数を半数以下に減らして営業せざるを得なくなりました。
それでも、新型コロナの影響は止まらず、衣浦グランドホテルは最終決断を迫られることになります。「リスクをはらんだ状態で運営を継続するのは厳しいため決断しなければならなかった」と大塔支配人。衣浦グランドホテルは2021年5月からの無期限休館を決めたのでした。
支えてくれた地元企業のあたたかさ
無期限休館を決めるなかで、大塔支配人が最も心配していたのは従業員の生活です。そんななか、複数の地元企業が従業員の受け入れを提案してくれました。碧南市大浜上町に本社を置くスギ製菓もその一つです。
スギ製菓の杉浦敏夫社長は「営業再開された際には、またホテルを活用させて頂き、会社、地域で盛り上げていきたいと思います」と同じ地元を盛り上げる企業としての想いを話してくれました。それに対し大塔支配人も「無期限休館を決めたあと、励ましの言葉など温かい言葉を頂き、感謝の気持ちでいっぱいになりました」と、地元の人たちの温かさにふれていました。
スギ製菓株式会社ホームページ
いつかまたお客さんの笑顔に会える日まで
無期限休館まで残すところ1カ月となった3月下旬。例年ならばこの季節は、多くのお客さんが訪れ、ホテル横の明石公園の桜を眺めながら食事をしていますが、今年は館内にお客さんの姿はありません。
「営業再開するときには、従業員の負担も軽減し、それでいて利益を十分に上げられるそんなホテルを目指していきます」と語る大塔支配人。澤本総料理長とともに、いつかまたお客さんの笑顔に会える日を胸に営業再開を心に誓っていました。(取材・撮影:映像舎/文:石川玲子/2021年3月取材)
衣浦グランドホテル
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